第10話 クソでけえパフェを食う妹
先ほどの騒動から数分
一人でアトラクションを乗り回していた結乃が合流したことにより、その場は収束した。
だが、いまだに玲羅の顔は真っ赤で、俺の方をにらんでいる。
なにかすごく怨念のようなものを感じる……
「玲羅先輩も恥ずかしいなら、あんなことしなければいいのに……」
「わ、私はそれに怒っているのではない。べらべらと結乃にしゃべったことを怒ってるんだ。普通、自分の胸の中にしまっておくものだろう?」
「いや、そうだけどさ。玲羅先輩もあんなところで妄想で暴走するから悪いんでしょ?」
「う……それはそうだが……」
結乃が駆けつけた時、玲羅は俺につかみかかっていた。だから結乃は俺に状況説明を求め、俺が事細かに真実を話しただけなのだが、玲羅はそれについても怒ってしまった。
別に玲羅の可愛さを言っただけなのだが?
「いいじゃん、可愛かったんだし」
「お兄ちゃんってこういうところあるから」
「頭はいいのに、残念なところ?」
「そう!お兄ちゃん頭いいのに、大事なことが抜けてるの!今回の秘密にしたいことを平気でバラすとか!」
「ちょっと待て!約束したことなら秘密にするぞ!」
「そういうのじゃないの!秘密にしてほしいことっていうのは、時として突然生まれるの!いつも約束できるわけじゃない。だから、相手のことを考えて秘密にするの」
「そういうもんか?」
そういうことなら、以後気を付けよう。玲羅が怒ってる姿は可愛いのだが、まあ怒らせれば怒らせるほど関係は悪化するものだ。
これからは玲羅を怒らせないようにしないと
そんなことを考えていると、結乃の頼んだものがテーブルに運ばれてきた。
色々あったが、我々は食事中である。とはいうものの、俺と玲羅はクレープを食べたので食べることはない。
あーん?もちろんした。恨みがましい視線を向けながらも、受け入れてくれた。
その鋭い目つきをしながらも受け入れるさまは、女騎士と触手モンスター―――おっとこれ以上はいけない。
結乃が頼んだのはタワーオブマウンテンパフェ~季節の果物と色々を添えて~だ。誰だ、こんなあほなネーミングをしたやつは、と思ったが、来てみるとあら不思議。
やってきたパフェは、塔のように長く、山のように色々なものを乗っけられたパフェ。もはや、完食させる気を微塵も感じない量のものだった。
兄として妹の体が心配だ。食えるのか?食えたとして、午後は動けるのか?
「うひょー、おいしそう!」
「今日日、『うひょー』とかいうやつがいるのかよ」
「いいんだよ!玲羅先輩も食べる?お兄ちゃんにはあげないよ!」
「い、いいのか?私だけもらっても……」
「べつにいいよ。俺は結乃みたいに大量に食べないからな」
「そうか……じゃあ、私はもらおうかな」
そう言って、玲羅は結乃の頼んだパフェを食べる。
するとよほどおいしかったのか玲羅は目を見開く。
「な、なんだこれは!?甘いだけじゃなく、果物の酸味もうまく合うように砂糖の量が調節してある!この絶妙な味、だがなんで看板メニューにならないんだ?」
「いや、明らかに量だろ」
タワーオブマウンテンパフェの大きさは、どれだけ小さく見積もっても幅15センチ、高さ40センチくらいある。明らかに一人でも二人でも食べきれるような量じゃない。
もはや、この量はフードファイターとかその領域のものだ。
家族層やカップルには多すぎて忌避されているのだろう。
人気にならないのは火を見るよりも明らかだったろうに。
「玲羅先輩がお兄ちゃんに食べさせてあげるなら、お兄ちゃんも食べていいよ」
「お前なあ、あんまり無茶ぶりをするなよ。さっきの玲羅の反応見ただろ?まだ、あーんは荷が重いだろ」
「し、翔一……」
「ん?」
「あ、あーん……」
「!?」
結乃の言葉に俺がツッコミを入れると、玲羅に呼ばれそちらに向くと、彼女がスプーンの上に掬い取ったパフェを乗せて、こちらに向けていた。
え、かわいい……
「れ、玲羅?」
「ほ、ほら翔一……あーん」
「あ、あーん……」
「どうだ?」
「うん、美味しいな。今度小さくしたのを作ってみようかな?」
うん、思ったよりおいしかった。
いや、なにこれ?本当にその道のプロが作ってるだろ。ってくらい、絶妙な味付けのパフェだった。
だが、いかんせん量が……
などと思っていると、結乃はものの10分でそのクソでかパフェを平らげてしまった。
うちの妹はソウルイーターならぬフードイーターか?―――いや、普通か
うちの妹は本当によく食べる。よく、大食いの番組がやっているのを見るのだが、結乃はことあるごとに行きたいというのだ。
それで行ったら行ったらで、本当に完食してしまうからすごい。
これまであいつの大食い戦績は36戦全勝だ。イカれてるのだろうか?
さて、結乃も食べ終わったことだし、現実を見るとしますか。
「ねえ、お兄ちゃん」
「うーん、助けたほうがいいのか?」
「助けられるのか?」
俺たちの視線の先には、ガラの悪い男に絡まれている女子がいた。
「ほら、俺たちと遊ぼうぜ。一人なんだろ?」
「一人ですけど、私はあなたたちと遊ぶつもりはありません。お引き取りください」
「そんな固いこと言わずにさー。一回だけ!一回だけアトラクション回ろう?」
「いえ、いやです」
女子の方は見た感じ、俺たちと同い年位の子で、その子に絡んでいる相手はしっかりとした体格をしている。
今は大丈夫そうだが、さすがに手を出しそうなんだよなあ
俺はそう考えると、席を立っていた。
「翔一?」
「大丈夫だよ玲羅さん」
そんな言葉を背に、俺は絡まれている女の子の前に立つ。
すると、あからさまに不機嫌そうな声で男が威嚇してくる。
「あ、なんだてめえ?」
「今この場で引いたら、なにもなかったことにして俺も立ち去る」
「あ?なに言ってんだよ!クソヒョロガキがよ!死ねや」
俺は男の拳を難なく避けて、相手の鳩尾に手のひらを当てる。
「なんだてめえ!さっきから俺の攻撃を避けやがって!」
「……」
「黙ってんじゃ―――ゴフッ!?」
男は突然断末魔を上げて、その場に倒れこんだ。周囲はなにが起きたのか近いができず、ただ呆然とするのみだ。
ただ一人、結乃を除いて
まあ、数分苦しいだけだから、大した痛みじゃないだろう。
「あの、ありがとうございます?」
「なぜ礼を疑問形にする?まあ、ああいうやつがいたら楽しい気分が台無し。助けた理由なんてそれだけだ。だから、感謝する必要もない、じゃあな」
「あ、あの!このお礼は必ず!」
「気にするな」
気にしなくていいのに……
まあ、この人と高校で再開するなんて思ってもみなかったけどな。
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