第9話 玲羅は妄想系ヒロイン
昨日の勉強会にて、俺が出した遊園地のチケットの有効期限は今日。
つまり、俺たち3人は、遊園地に来ている。
休日ということもあって、人は多いがまだ朝の時間帯。これからどんどん増えていくだろう。
「だからって、開園の一時間前に来るのはバカだろ」
「なに言ってるのお兄ちゃん。遊園地は戦争だよ!いかに多くアトラクションに乗れるかが勝負なんだよ!」
「お前、いつそんな遊園地ガチ勢になっていたんだ?」
「いつだろうね?でも、楽しまないと損でしょ?」
「まあ、それはいいけど、あんまり先行すると俺たちはついてこれないからな」
「いいよいいよ!お兄ちゃんは玲羅先輩と一緒に回ってよ」
結乃は、俺の玲羅への好意に気付いているから厄介。余計な気を回そうとしてくるから。
そういうのは自分で作るから不要だというのに。
そんなことをしていると、お手洗いに行っていた玲羅が戻ってきた。
「そ、その、すまない。せっかく、早く来たのに私が催してしまって……」
「いや、気にしてねえよ。生理現象を責めてどうすんだよ?」
「そうだねー。なんなら、お兄ちゃん、玲羅先輩がなにしても受け入れる気でしょ?」
「はっ、よくわかってんじゃねえか」
「ち、ちょっ、周りに人いるから……」
俺と結乃の会話の内容を聞いて、赤面し無理やり話を終わらせようとする玲羅。
それもそうだ。少しだけだがトイレとか下世話な話をしてしまったしな。今、通りすがりのJKに変な目で見られたが、気にしなければいいだけのことだ。
ひとまず、玲羅も来たことなので、園内に入ろうと思う。
「じゃあ玲羅も来たし、入るか。っていうか、1時間も前に来て、門の前で一時間待機させられたらトイレ行きたくなるに決まってんだろ!」
「はあ?そういうのは先に行っておくもんだし!行ってないほうが悪い!」
「ちょっ、2人とも!?その話は掘り返さなくていいから!」
またも玲羅が恥ずかしさで慌て始める。
だが、玲羅が慌てているのは、単に翔一や結乃のしゃべっている下世話な話原因というわけでもなく、シンプルに玲羅の心の中が乱されているからなのだ。
(やはり、私にはスカートは似合わないな……。さっき、トイレの鏡でも見たが服もあまり似合わないな……
私のキャラじゃない)
今日の玲羅のコーディネートは、紫のセーターにロングスカート。普段はジーンズをはいている玲羅にとって、スカートはとても慣れない。
まあ、普段のジーンズも玲羅の美脚ラインが鮮明になるので、それはそれでいいものなのだが
なぜ、玲羅が普段しない格好をしてるのかと言えば、彼女も乙女だからだろう。
彼女だって、翔一に可愛いとかきれいとか思われたいのだ。
(はあ……こんな自己嫌悪に陥るくらいなら、普段通りにしておけば……)
「そうだ、玲羅」
「な、なんだ?」
ネガティブなことを考えていた玲羅に、いきなり声をかけてきた翔一に対して、彼女は素っ頓狂な声を上げてしまう。
だが、そのあとかけられた言葉のほうが彼女の心を大きく揺れ動かした。
「玲羅、今日の服……可愛いよ。彼女にしたいくらいだ」
「……っ!?―――そういう恥ずかしいことを流れるように言うなっ!」
「……そうか。自重してみる」
「……言うなとは言ってない……」
そう言って、翔一の背中を追いかける玲羅の耳は真っ赤に染まっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
入園してから、1時間ほど経って、俺たちは2度目のジェットコースターの列に並んでいる。
「お兄ちゃん、ここのジェットコースターって、日本一の落差らしいよ」
「へー、通りで今まで感じたことないくらいの落下感だったのか」
「落下感ってなんだ……」
待ち時間は暇なので、こうして会話しているのだが、なぜかは知らないがはたから見ると俺が女子二人(しかもとびきり美人)を両脇に侍らせているように見えるらしい。
2人には聞こえてないみたいだが、先ほどから妬みや蔑みなどの色々な悪口を言われている。
先ほどのJKたちにまた遭遇した時は、浮気野郎とか言われてた。
いや、片方は妹ですよ?
そんなこんなで迎えた俺たちの乗る番。
結乃が俺たちの前に座り、玲羅の隣に俺が座った。
ガタンガタンガタン
安全確認が行われた後に、アトラクションが動き始めて、あっという間に一番高いところに来た。
と、その時玲羅が俺の手を握ってきた。
「玲羅?」
「怖いから、手を握らせてくれ」
「……いいぞ。気のすむまで握っていてくれ」
俺の許可を得た玲羅は、より一層俺の手を強く握りしめる。
だが、俺は知っている。
玲羅が高いところが得意であること。
風や疾走感が好きなために、ジェットコースターやフリーフォールなどの絶叫系が大好きだということを。
彼女は遊園地に行くときは、必ずと言ってもいいほど、絶叫系に乗っている。
そんな彼女が、怖い?絶対に嘘だね。
だけど、嘘をついてでも俺の手を握ろうとするさまはとてもかわいい。
「きゃあああああああ!」
「ひゃああああああ!」
ジェットコースターが落下し始めると、乗車客のほぼ全員が絶叫を上げ始める。
玲羅も悲鳴を上げてはいるが、声色はとても楽しそうで、表情も笑顔だ。ここまで楽しんでくれるのなら、腐りかけとはいえチケットを使うだけの価値があった。
あっという間に時間が過ぎていき、俺たちはほぼすべてのアトラクションを2周し、売店が点在するエリアに向かっている。
時刻は、12時ちょうど。昼飯にするにはちょうどいい時間だ。
「玲羅はなに食べる?」
「うーん……どうしようか悩むな。ここの遊園地はクレープがおいしいと聞いたことはあるのだが……」
「じゃあクレープにする?普段食べれないような、ガチガチに甘いやつ」
「そ、それはいい案だが……もう少し考えさせてくれ」
「いや、玲羅が俺のを食べればいいじゃない。一口あげるよ。あーん、って」
俺の言葉に玲羅は顔を真っ赤にする。
今、想像したな?
「そ、そんな……だが、翔一がどうしてもと言うのなら……」
「あれ?もしもーし?」
「そ、そのまま食べさせてくるのか……」
「あれ?妄想に浸ってる?」
正気……だよな?だが、目の前の玲羅は体をくねくねさせながら、頬を染めている。
その姿も可愛いのだが、なんというか嗜虐心が……どうしてもいじりたい……
「そ、そうか……あ、あーん……」
「ほい」
パク
おそらく妄想の中で、俺に食べさせてもらうためなのだろう。控えめに口を開けた玲羅。
俺はその口に、俺の人差し指を入れてみる。
口の中に指が入った玲羅は、クレープが入ったと錯覚したのか口を閉じて甘噛みを始める。
はむはむと痛くないくらいの強さで指を噛み続ける玲羅。だが、そんな時間がいつまでも続くわけがなく、彼女の意識がこちらに戻ってきた。
「はむはむ……ん?し、翔一……?」
「どう?おいしい?」
「な、な、な、な……」
「あはは、かわいいなあ」
「なあああああ!忘れろおおおお!」
意識を取り戻した玲羅は、あまりの恥ずかしさに絶叫してしまう。可愛かったのに……
だが、俺は知らなかった。玲羅が本気を出したら、こんなもんじゃすまないことを
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