第8話 志望校に合格するための勉強会

 「……うーん」

 「どうした?」

 「いや、ここの証明なんだが。この辺と辺が等しいからというのがわかるのだが、なぜHGまで等しいとわかるんだ?」

 「あー、これは、さっき出した条件を引っ張り出してこないといけないからめんどくさいんだよね」

 「あ、そういうことか!ありがとう」


 俺たちは今、絶賛受験勉強中だ。

 玲羅の推薦も取り消しになったし、なんなら帝聖より偏差値の高い希静に行くので、本格的に五教科の勉強が必要なのだ。


 だが、玲羅は暗記強化がめっぽう強くて、今のところ国語と社会、英語は3年前までの過去問までは8割くらいとれていた。


 あとは数学と理科なのだが、玲羅は証明問題に弱いだけで普通の計算は出来ていた。

 理科においても、目立った間違いはなかった。


 はっきり言って、証明問題以外教えることがない。

 しかも、それすらも今はマスターしつつある。


 「ったく、玲羅は頭がいいな。これは俺がいなくてもどうにかなるんじゃねえか?」

 「そんなことはない。私も、証明のわからないところを無理やり理解するよりも、翔一に教えてもらうほうが、より理解が深まっていくんだ。学校なんかよりわかりやすい」

 「うれしいな。でも、だからって授業を聞かなくなるのはやめろよ?」

 「わかっている。さすがに授業をさぼるのはまずいからな」


 バンッ!


 突如、俺の部屋のドアを思いっきり音を立てて結乃が入ってくる。

 その結乃の手には、色々な過去問が握られていた。


 「お兄ちゃん、積分教えて!」

 「お前なあ、高校の範囲を勉強するのはいいけど、お前は来年受験生なんだからな?」

 「いいんだよ。どうせどこでも受かるから」

 「は?高校の範囲?教えて?」

 「お兄ちゃんイカレてるから、なんか大学入試レベルの数学までやっちゃってるの。まあ、数学限定だから他はあれだけど……」

 「い、いやそれでもすごいのだが……」


 玲羅が俺のことを聞いて、唖然としながら言葉をつなぐ。

 驚きすぎて、なにをどうすればいいのかわからないようだ。


 まあ、俺が大学入試レベルの数学まで完璧にしているのは事実だ。昔、どうしても微積分の範囲が必要な場面に遭遇して、やむなく勉強し始めただけだ。

 本当は微積分だけで終わるのならそれでよかったのだが、結局高校の範囲の大抵を使うので仕方なくやることになったのだ。


 それのおかげでこうして勉強を教えることができるのだが……


 ちなみに原作では、玲羅が豊西と八重野に教える場面がよくあった。

 二人とも、頭がそこまでよくない。しかも、豊西にいたっては、いつも学年のびりっけつを争うような人間だ。

 その場面では仲良くしていたのに、どうして八重野はあんなことを……


 まあ考えても仕方ない。今は玲羅が合格することを一番に考えた勉強をしよう。


 「……これで③ができるから……③と②より合同なのが証明される、と。終わったぞ翔一!」

 「どれどれ?……うん、正解だ。あとは、問題を見るだけでなんの証明を使えばいいか判断できるようになることだな。それ以外は玲羅、完璧そうだから」

 「わかった……次はどうすれば?」

 「うーん、じゃあそこのB模擬の過去問があるから、それをやっててくれ」

 「わかった」


 俺は、玲羅に自分が以前にやった模試を渡す。俺には必要ない。5回やって全部S判定なら、やる意味がない。自分で勉強し続ければ問題ない。


 模試を渡された玲羅は黙々と問題を解き始める。

 俺はその間に、結乃に勉強を教え始める。


 「だから微分は次数を係数として持ってきてから次数を一下げるの」

 「言い方が難しい!」

 「じゃあ、導関数の定義を使うか?」

 「ヤダ、あれメンドイ」

 「じゃあなれろ。そっちだろ?俺と同じ勉強がしたいって言ったの」

 「そうだけど―――玲羅先輩みたいに優しく教えてよー」

 「だめだ。お前調子に乗るから」

 「うわーみお姉助けてー」


 結乃に教える時、基本的に優しく教えない。なぜかって?あいつ調子に乗って、「数列マスターだ!」とか言っていて、それならとテストをやったら基礎範囲しか出してないのに、全問間違えやがった。

 結乃も頭はいいのに、調子に乗るからああいうことになるのだ。


 それから数時間、勉強の方は自習という形にして、俺は晩飯を作っている。


 玲羅の告白があってから数日。彼女は俺と一緒の学校―――希静に来ることを決めた。彼女の両親は、特に反対もしなかった。

 まあ、娘が偏差値の高いところを狙って頑張っているんだ。反対はしてこないだろう。


 食事の準備が終わったら、2人の勉強道具を片づけさせて食事の準備を始める。


 今日のメニューは最近動画で見た『ミートソースパスタ』だ。


 「「「いただきまーす」」」


 俺たちは、3人で料理を囲んで食べ始める。

 パスタを口にした2人は、「おいしい」と言いながら、笑顔で食べてくれる。

 そんな顔をしながら食べてくれると、こちらもうれしい。


 そう思いながら、俺も料理を口に運ぶ。

 うん、うまいな。我ながら、中々の出来だ。


 「やはり、翔一は料理がうまいな」

 「そうか?これくらい、練習すればできると思うぞ?」

 「いやいや、お兄ちゃんはその領域を逸脱してるよ。本当においしすぎ」

 「まあ、ありがとうな」

 「翔一、なにかコツとかあるのか?私はあいにく、料理があまり得意ではないのだ」

 「あー、そういえばそうだったな」


 確かに、原作でもあまり料理がうまい描写がなかったな。

 だが、もう一人のヒロインは別格にへたくそだ。もはや、錬金術というレベルの料理を出している。


 中ハーで料理がうまかったのは、サブヒロインのあの人だけだったしな。

 まあ、行く学校が違うから、会うことはないだろうけどな。


 「料理をしようと思うのはいいけど、とにかく今は勉強だ。と、言いたいところだが、ここに腐りかけの遊園地のパスポートがあります」 

 「お兄ちゃん、どこで手に入れたの?」

 「なんか棚の奥から見つかった。なんかの懸賞で当たったのが、放置されてたんじゃない?」

 「それをどうするんだ、翔一」

 「いや、チケットがあるんだよ。そして期限は明日。明日は日曜日。行くでしょ、遊園地」

 「だが、勉強は……」

 「息抜き上等!明日は遊ぶぞ!」

 「おー!」


 俺の提案に大きな掛け声で反応する結乃。まあ、結乃は受験生でもないし、そんなものか。

 だが、玲羅は勉強すべきと思う自分と遊びたいと思う自分のはざまで少々戸惑っていたが、俺たちの予定は変更しない。


 明日は遊園地。死ぬほど遊ぶぞ!

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