第7話 夜中にささやくヒロインの告白

 疲れた……


 あれから玲羅は、結乃からあらゆるセクハラを俺の目の前で受けていた。さすがに見ていられなくなったので途中で止めたのだが、「なぜもっと早く止めてくれなかった」だとか「忘れるんだ」といった具合に俺も揺さぶられたので、少々疲れ気味だ。


 そんな俺は、リビングで就寝中だ。


 といっても、体が痛くて眠れてないんだけどな。


 やはりソファで寝るのは慣れないし、寝心地が悪い。


 それなのにソファで寝ている理由は、やはり自室で玲羅が寝ているからだ。

 この世界では負けヒロインかもしれないが、俺にとっては一人の女の子。意中の女子なんだ。


 その人をソファで寝かせる?それでいて自分はベッド?

 俺にはそんなことできない。


 「全身いってえ……まあ、明日には玲羅の寝具が届く。それまで我慢だな」


 玲羅のため、といってもきついものはきついもので、ふと本音が出てしまう。

 そんな暗がりの中、人の気配がして、そちらに目線を向ける。


 「なんだ、天羽か」

 「ああ、悪いな……こんな夜中に。少し、眠れなくて……隣いいか?」

 「別にいいけど、俺も寝たいからほどほどにしてくれよ」

 「わかった」


 そう言うと、玲羅は俺の横にストンと座る。


 空調を消しているので、夜中のリビングは少しだけ肌寒い。そのせいかどうかは不明だが、明らかに寒そうにしている玲羅。


 仕方がないので、3枚重ねのタオルケット(持ち合わせがなくてこれを体にかけて寝てた。クソ寒い)を玲羅にもかけてやる。


 「……っ!?あ、ありがとう……」


 玲羅が動揺したのは、俺と肩を並べてタオルケットに一緒になっているからだろう。


 「悪い。ホントはこういうのって、相手に明け渡しちゃうのが正解なんだろうけど、俺も寒いからさ」

 「いいんだ。別に嫌ではない……ただ、ちょっとだけびっくりしただけだ」

 「そうか……それでなにか用か?」

 「その……そんなに大したことではないっていうか……なんていうか……」


 そう言って、少し言い淀むようなしぐさの玲羅も可愛い。


 駄目だ。眠くて頭回んない。なんか最近似たようなことが……


 そんなことを考えていると、ふと手を握られる。とてもやさしく、なにかを怖がってるような感じだ。


 「なんで……名前で呼んでくれないんだ?」

 「へ?呼んでるじゃんか、天羽って」

 「違うっ!そういう事じゃなくて……下の名前で……」


 その言葉で、俺の眠気が一気に醒める。


 まあ、一回だけ俺が漏らしてしまっただけなのだが、確かに結乃は名前呼びだしな。

 でもそんなに心配することか?


 「なあ、なんで呼んでくれないんだ?結乃の前だったら、別に私は良いぞ。でもこれは言ってなかったから夕飯の時、下の名前で呼んでくれなかったのはわかる。でも、二人きりの時くらいは読んでくれてもいいじゃないか……」

 「それは……」

 「どうしてだ?もしかして私のことが嫌いになったのか……?」


 ああ、そうだ。今玲羅を信じて、玲羅が心を許している存在である俺に嫌われたんじゃないかって、怖がってたんだな。


 それは悪いことをした。


 「ごめんな玲羅。別に名前で呼ばないのは明確な理由があるからじゃない。ただ結乃と俺に言われるのじゃ、恥ずかしさの度合いが違うだろ?やっぱり異性に言われるのは慣れてないんじゃないかと思って。

 でも、心配になるんだったら、二人きりの時は『玲羅』って呼ぶのを心掛けるよ。」

 「よかった……嫌われたわけじゃなかったんだな……もう私にはお前しかいないんだ……」


 え?それって……


 「それって告白の了承?」

 「え……?はっ!?ち、違う。そういう事じゃなくてだな、今私の傍にいてくれるのはお前だけだってことだ。お前に嫌われたら、三組の生徒たちも私を嫌って……私は一人に……。

 はあ、私は最低だな……私を好きになってくれた者に対してこんな打算的な考えを見せてしまって……」

 「別にいいよ。ひとりぼっちになるのは、『不安』とか『寂しい』とかなんて言葉じゃ表せないくらい辛いからな。まあ、告白の返事は気長に待ってるよ」

 「そう言ってくれるとありがたい。実を言うと、私はかなり追い詰められていたんだ。そんなときに助けてくれたお前を、私は好意的に―――いや、ちゃんと言った方が良いな……好きだ」

 「ふぇ!?」

 「お前のことが好きだ。でも、受験とかで今の私は自分の事で精一杯だ。だから、これからも返事は待っていて欲しい」

 「ふふ……それはもう告白の了承みたいなもんだけど、待ってるよ。玲羅のことを」


 端的に言って、すげえ嬉しい。あの推しキャラの、今目の前にいるどんな女子よりも好きな女の子から好きだって言ってもらえて。

 許されるなら舞い踊りたいところだ。


 「いやー、よかったよ。玲羅に嫌われてたら、俺きっと立ち直れないからね。」

 「嫌うわけがっ!―――ないだろう……だってお前は、私を救ってくれたんだ。私の心を温めてくれたんだ。こんなの好きになるだろ……」

 「まああれで嫌われてたら、どんな男子ででも女性恐怖症間違いなしだ。」

 「それもそうだな。」


 そう言って、控えめに笑う玲羅は最高だった。だって惚れた女の子の笑顔だもん。


 「翔一、好きだ。」

 「え!?今なんて?」


 玲羅が俺の名前を……?マジか!?不意打ち過ぎる。クソッ!無防備だ。


 俺は出来るだけ平常心を保つようにする。


 「翔一、手を握ってもいいか?」

 「いいよ。」


 俺の手を優しく包み込む玲羅。


 「翔一、肩にもたれかかってもいいか?」

 「いいぞ。」


 コテンと玲羅が俺の体に寄りかかってくる。


 「翔一、眠い。このままここで寝ていいか?」

 「うーん、悩むけどいいか。手出ししないと約束しよう。」

 「いいぞ。」

 「は!?」

 「我慢できなくなったらいいぞ。私もお前だったら……」


 いや、玲羅さん……我々は中学生です。さすがにそれは……


 「あのどういう意味で……」

 「すー」


 寝てやがる……

 まあ、いいか。今はこの寝顔を堪能させてもらおうじゃないか。誰よりも愛おしい玲羅の寝顔を。


 翌日、俺と同じタオルケットの中で朝起きたこと、夜中の出来事を全て思い出して、目に涙を溜めながら、顔を真っ赤にしていた。


 それにしても俺、よく寝れたよなあの状況で

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