第6話 それはそれは大きなもので

 「ただいまー」

 「た、ただいま……」


 玲羅との同居の許可が下りて、俺の家に帰ってきた。


 ひとしきり泣いてスッキリした俺は、ずいぶんとスッキリとした感覚になっていた。感謝しないとな。

 玲羅はというと、泣きながら俺を抱きしめたのがそんなに恥ずかしかったのか、俯きながら目を合わせてくれない。そりゃ、人前で、しかも自分を好きだと言った奴の前で泣いたんだからな。


 「あ、おかえりお兄ちゃん。玲羅さんがいるってことは、許可が下りたんだね?」

 「ああ、いつまでかは分からないけど、この家にいる許可が下りました!」

 「そ、そういう事だから、そのよろしく頼む……」

 「……?どうしたの、玲羅さん?……泣いてる?」


 さすがの妹も、異変に気付いたようだ。しかし、それを隠すように元気な笑みを浮かべて答える。


 「なんでもないぞ。これからよろしく頼むぞ!」

 「「……っ!?」」

 「どうした、二人とも?」


 いつもクールな玲羅が、こう、いつも見せない姿を見ると、来るものがあるな!


 「普段、あんまり笑顔を見せない玲羅さんが笑うと、もうギャップが凄くて……」

 「なっ!?どういうことだ!」

 「まあ、つまり可愛いんだよ!なあ、結乃!」

 「そう!お兄ちゃん分かってる!危なかったー、惚れるところだった……」


 その言葉に、玲羅が顔を両手で覆うが、耳が真っ赤になってるため、恥ずかしがってるのは明確だ。


 おっと、ここ玄関で長居するわけにはいかない。天羽宅で、それなりに時間を食ったからな。


 「そういや、今日の夕飯は俺の当番か。結乃、風呂沸いてる?」

 「もう、やってるよ」

 「そうか、なら先に二人とも入っててくれ。俺は夕飯の準備してるから」

 「りょうかーい。ほら玲羅さん、行くよ」

 「あ、ちょっと待ってくれ、着替えを取らせてくれ!」

 「えー、そんなの良いじゃん。家の中なら誰も見てないよ」

 「よくない。結乃、お前は恥じらいはないのか?兄ちゃん、心配になってくるよ」


 俺も結乃に付き合ってないで、料理を作らなければ。


 とりあえず、結乃は長風呂だからそれなりに時間をかけてもいいだろ。

 となると今夜は……


 「鍋にでもすっか。ちょうど冬だし。」


 そう呟くと、さっそく作業に取り掛かる。


 ……………………一時間半は経った頃。


 「お兄ちゃん!今日は鍋にするんだね!お兄ちゃん大好き!」

 「感謝するなら、自分の当番の時も、自分だけの力で料理してほしいな。」

 「えー、お兄ちゃんのを知ったら、あたし他の男のじゃ満足できない!」

 「料理の話な!外で絶対言うなよ!っていうか、自分でやれって言ってんだよ!」

 「まさかお兄ちゃん、家事は女がやるものだと思ってない?ホント最低」

 「そう思ってるなら、俺とお前の立ち位置が逆じゃないか?あ?なんなら今から変わるか?」


 結乃の軽口はいつものこと。だから俺もそんな気にしたようにには言わない。

 しっかし、結乃の後ろにいる玲羅。軽く湿ってる髪にパジャマ姿は、なんともう破壊力が凄い。


 「椎名、お風呂ありがとう。その、なにか手伝えることはあるか?」

 「ああ、じゃあね鍋見ててくんないかな?噴きこぼれそうになったら火弱めて。その間に風呂入ってくる」

 「わかった」


 そう言って、俺は脱衣所に向かう。


 脱衣所で服を脱いで、いよいよ浴室に入ろうという時に脱衣所の扉の向こうから、結乃の声が聞こえてくる。


 「お兄ちゃん、お風呂のお湯飲んじゃダメだよー。さすがに兄といえどキモすぎるからね」

 「したことねえよ!てか、腹壊すからお前こそやんなよ!」

 「はーい!」


 その後、静かになった浴室で、体を洗って湯船につかる。


 結乃は、将来大丈夫なのかな?若干ブラコンが入っている妹とはいえ、将来は幸せになって笑顔で生活してほしい。

 将来、いい男を捕まえてこれるのか?兄ちゃん、心配だよ。


 それから湯船に浸かった後風呂から上がり、部屋着に着替える。

 途中、洗濯カゴに適当に放り込まれた、下着やら何やらが目に入ったが、目に毒なので見なかったことにした。


 台所に戻ると、鍋を凝視している玲羅がいた。


 すごい、ここまで人にエプロンをつけて欲しいって思わせるのは、玲羅は魔性の女か?

 ―――自分で言っといて意味が分からないな。


 「……ん?今、なにかとてつもなく不本意なことを考えられたような……」

 「き、気のせいじゃないか?鍋、見といてくれてありがとうな。仕上げをしたら、食べられるから。少しだけ待ってくれ」

 「ああ、楽しみにしている。お前の作る弁当はおいしかったからな」

 「ハードルが上がったし……」


 それから、ほどなくして鍋が出来上がる。

 キムチ鍋だ。


 ちょっと平日の夜には重いかもしれないが、ぶっちゃけ成長期の俺たちにとっては些細な問題だろう。


 「わー、美味しそうだー。さっすがお兄ちゃん!」

 「そうだな。いい匂いがする。これは食欲がそそられるな」

 「じゃあ食うか。いただきます!」

 「いっただっきまーす!」「いただきます」


 結乃は元気に、玲羅は控えめにそう言ってから、全員で鍋をつつき始める。

 二人共肉や野菜鍋の中身を口に運ぶと、「美味しい」といいながら食べ進めてくれる。やはり喜んでもらえるのなら、料理も作った甲斐があるというものだ。


 「椎名、この鍋すごくおいしい。こんなに料理が出来るんだな」

 「ふふーん、これが私のお兄ちゃんの力だ。どう?もう、他の人の料理じゃ満足できないでしょ?」

 「たしかにこれは、チェーン店とかの味をはるかに凌駕するものだ。これでは店のものでは満足できなくなってしまう。」


 なんだろう……卑猥に聞こえるのは、俺のせいなのか?それとも、結乃が誘導してるのか?


 「そういえばさ、お兄ちゃん」

 「なんだ結乃。食事中に下ネタ言うなよ」

 「もー、お兄ちゃん、私をなんだと思ってるの?」

 「悪かったよ。で、なんだ?」

 「さっきお風呂入ってるときに見たんだけどね―――」


 あ、嫌な予感がする。


 そして、その嫌な予感は見事に的中した。


 「玲羅さんのおっぱいってすごく大きいの!」

 「ぶっ!?」


 ほらな、やると思ったよ。


 「それでね、大きいだけじゃなくて、形も綺麗で、触ってみるとハリもあって、もう吸い付きたくなっちゃった!」

 「ゆ、結乃、やめるんだ!それ以上その話はしないでくれ!恥ずかしいだろ!」

 「へ?そうなの?そんなにいいもの持ってるのに?」

 「そういうことじゃない!」


 結乃の発言に、玲羅は顔を真っ赤にして抗議する。


 ふと、俺と目が合うと、玲羅はさらに顔を真っ赤にして


 「今の話は忘れろ!」

 「ちょ、ちょ、ちょ、今食事中!」

 「うるさい!忘れるんだ!湯船の中で、結乃にあんなに触られたのを、せっかく忘れかけてたのに……あ……」


 玲羅は、自分ですぐに地雷を踏む。今みたいに。


 あーあー。また顔が赤くなってるよ。


 あれ?目尻に涙溜まってない?


 「ああああああ!忘れるんだ!忘れるんだああああ!」

 「落ち着け!うわあ!揺するな!」


 玲羅は、半泣き半狂で俺を揺すり始める。


 食事中にこんなことをするのは、マナー違反だ。でも―――





 なんか良い

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