第6話 あの日

 もうすぐ、冬の早い日没がやって来る。そうなれば、後は吸血鬼の時間だ。

 桐子は都会の人混みに紛れて、足早に目的地へと向かっていた。事務所を出た後、コインロッカーから取り出したスポーツバッグは、ぱんぱんに膨らんでいた。

 黒のショートブーツが、せわしない足音を立てていく。彼女は、ヒールの付いた靴は履かない。そのような状態では、とっさの事態に反応しづらく、また十全に力を出すことができないからだ。重心が不安定な靴を履くのは、あくまで鍛錬のときに限る。

 コートの左ポケットには、万一に備えて、紐が入っている。単なる紐ではない。ワイヤーと言った方がいいだろうか。対人制圧用であるが、使い道を誤れば、その生命活動を停止させることも可能だろう。その感触を確かめながら、桐子は歩みを進めた。

 ほどなくして、桐子は目的地に到着した。薄暗い路地裏。辺りには誰もいない。念には念を入れたのだ。それは間違いない。

 だと言うのに、背中から声が掛かったのだ。


「見つけタ」

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