第13話 最後の戦い、クロガネさん
赤い竜六匹が次々と金の竜に向かって鋭い爪を振り下ろす。金の竜はそれを交わすことなく、全て自分の両手の爪で受け止めた。
「あなたたち、目を覚ましなさい!」
金の竜がそう訴えるが、目を怪しく光らせたままの赤い竜たちは聞く耳を持たずに口を大きく開ける。そして口の中で炎を生み出し、発射しようとした瞬間だった。
「ふんっ!」
金の竜の背を駆け上ったクロガネが大剣一閃。赤い竜の腕を二体同時に切り落とす。別の赤い竜がクロガネを威嚇するが、そんなものに彼が怯むわけもない。
地面に着地したあと、クロガネは金の竜の足を踏み台にして再び飛び上がり、もう二匹の腕も軽々と切り落とす。
横から薙ぎ払うような、五匹目、六匹目の赤い竜の攻撃を間一髪でしゃがんでかわすと、そのまま大剣を上に振るった。
グシャッ! という鈍い音とともに赤い竜たちの腕が切り落とされ、赤い血が吹き出る。
一瞬で、六匹の赤い竜の腕を切り落としたことで、赤い竜たちもたじろいでしまう。
「くっ、たかが人間ごときが!」
黒い竜が苛立ちを隠さずに、再び赤い竜たちに向かって黒い霧を浴びせる。再び六匹の赤い竜の目が赤く輝き、狂ったように叫び出した。
「大丈夫か!」クロガネが金色の竜に向かって話しかける。
「ありがとうございます。ですが、できるだけ彼らを傷つけずに助けたいのです」金の竜がクロガネの頭の中に直接返事をしてくる。
「何言ってるんだ! 自分の命が狙われているんだぞ!」
「しかし……」
「こいつらは操られている! 言って聞くような相手じゃない!」
クロガネは少し声を荒げた。金の竜が
「……仕方ありません」
金の竜は大きく息を吸い込んだ。すると金色の体がさらに強く光り輝き始めた。
「くっ!」黒い竜はその光に嫌悪感を抱き、自分の翼で顔を覆った。
そんな黒い竜には見向きもせずに、金の竜は大きな翼を勢いよく羽ばたかせた。すると体にまとっていた金色の光が渦を巻いて集まりだし、竜巻になる。それが襲いかかって来た赤い竜六匹を飲み込んだ。
「うおっ!」
クロガネも目の前に突然発生した黄金の竜巻に吸い込まれそうになるのを必死に踏ん張って耐えた。
竜巻はそのまま周囲の倒れた木々や石なども巻き込みながら空高く舞い上がり、遥か彼方へと消えてしまった。
「ふう」
金の竜は一つ息を吐いた。格下とはいえ、暴走気味の赤い竜六匹を一瞬にして片付けてしまう技だ。それなりの力をつかったのだろうとクロガネは推測する。
「すごい……これが金の竜の力なのか……」
空に消えていった金色の竜巻と赤い竜たちを見ながら、その圧倒的な力に驚きと恐怖を感じていた。やはり、伝説とまで言われていた金の竜は相当な力をもっているのだ、そんな竜に人間が立ち向かうなんて、なんと愚かなこと――
ボタボタボタッ!
突然クロガネの頭の上からの目の前に金色の液体が雨のように降ってきた。と同時にバリバリバリッと気味の悪い音が聞こえてきた。彼がはっとして見上げると、黒い竜が金の竜の背後から掴みかかり、二枚の金の翼を引きちぎっていたのだった。
「力を使ったあと、一瞬の隙ができると思っていたぞ!」
「っ!」
背中の羽を失った金の竜の顔が苦痛に歪む。黒い竜はニヤリと笑い、太い尻尾を鞭のようにしならせて金の竜を叩いた。「ぐああぁぁっ!」防ぐことができなかった金の竜は森を削り取るようにして数十メートルほど吹き飛ばされた。
「フハハハハ! 王女の血肉、我が喰らってやろう!」
黒い竜は自分の手に掴んだ金色の二枚の翼を口にしようとする。
「そんなことさせん!」
クロガネが持っていた大剣を思いっきり黒い龍に向かって投げつけた。
と同時に、どことも知らぬ空高くから一筋の雷が落ちてきた。クロガネの投げた大剣はその雷の直撃に遭うが、破壊されることなく逆に雷を帯びた一筋の光となる。そして黒い竜の右目に突き刺さった。
「ギャアアアッ!」
大剣が突き刺さった右目から、勢いよく黒い竜の全身に電撃が走る。手に持っていた金色の翼も一瞬で灰になって地面に落ちた。
「や、やったのか?」
偶然落ちた雷で、黒い竜に大ダメージを与えることができて、クロガネも驚いていた。今の雷は偶然なのか、それとも――?
しかし、さすがは黒い竜であった。右目を潰され、全身に電撃が走ってもかろうじてまだ意識は残っていた。ぶすぶすと身体中が焦げて煙を出し、鱗と鱗の隙間から、黒い血をぼたぼたとこぼしていた。
「我が……人間如きにやられるはずが……」
黒い龍が命尽きるその前に、尻尾で思いっきりクロガネを叩いた。
声すら出せなかった。
ボキボキッと身体中の骨が砕け散る音がした。
数十メートル吹き飛ばされ、地面に何度も打ち付けられて、クロガネは絶命した。
彼の隣には、先ほど同じように叩き飛ばされた金色の竜も横たわっていた。
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