第12話 金色の竜とクロガネさん

 なんと金色の竜が、クロガネと黒い竜の間に割り込むように舞い降りてきた。と同時に、その金色に輝く腕が、黒い竜の右腕を切り落としたのだった。切断面から黒い血が大量に噴き出す。


「ぐおおおお、何をする!」

 黒い竜は低い声で金色の竜に向かって言った。



 ――この人間は私が直々に手を下すから、お前は手を出すなってことかよ……くそっ。



 伝説とまで言われていた金色の竜を目の当たりにしてクロガネは死を覚悟した。


 残念ながら同行していた竜殺しドラゴンスレイヤーの仲間は全員死んでしまった。黒い竜に全く歯が立たなかったというのに、伝説級の金の竜にどうやって勝てというのだろうか。



 ――しかし見事な金色だ。ここまでくると神々しささえ感じる。



 クロガネは死を目の前にしながらも、金の竜の見事な輝きに目を奪われてしまっていた。この竜に殺されるなら悪くはない、そう思える美しさだった。金色の竜もまた、クロガネをしばらくじっと見つめると、ぐるりとさせ、黒い竜とその後ろに並んでいる赤い竜の方を向いた。


 自分の目の前には金色の竜と黒い竜、そして赤い竜が六体、合計八体の竜が立っている。圧倒的な威圧感から、その場から一歩たりとも動くことができなかったクロガネだったが、少しだけ、ほんの少しだけ周囲を見る余裕ができた。

 ここでふと、クロガネはいくつかの疑問を抱いた。



 なぜ、金色の竜は俺に背を向けた?

 そもそも、黒い竜の腕を切り落とす必要があったのか?

 もしかして、金色の竜は……俺を助けてくれた?

 


 頭の中で色々な考えがぐるぐると巡る。すると、ここで信じられない会話を耳にすることとなった。


「ここまでです。全員引き上げるように」


 金色の竜が、黒い竜と赤い竜たちに向かってそう言ったのだ。それに対して黒い竜は口を大きく開けて、鋭く尖った歯を見せつけながら叫んだ。


「いくらのお言葉でもそれは従えない。この場にいる人間は全て抹殺する! 一人残らずだ!」


 黒い竜の返事に合わせて、赤い竜たちもうなづく。


「我々は同胞を一人殺されております。この場にいる人間を抹殺する許可をくださいませ!」


「いいえ、許しません。即刻、この場から立ち去りなさい」


 金色の竜は態度を変えることなく、毅然とした口調で命令する。


 ――この声はどこかで聞いたことのある……女性の声だ。


 クロガネは、金色の竜の声を聞きながらそう思った。しかし、それが誰なのかは思い出せなかった。


「これは命令です。立ち去りなさい」

 再度黒い竜たちに命令を出す金の竜。


 人間が決めた竜のランク分けでは、金色の竜が最上位。続いて銀、黒、白……と続く。先ほど、赤い竜が黒い竜の前で背筋を伸ばして待機していたように、黒い龍もまた、金の竜に対して頭を垂れて命令を素直に聞くものだと思われたが……。


「人間どもは、気高き我々に歯向かってきたのだ! その報いは当然受けなければいけない!」


 黒い竜は命令を聞き入れず、なんと左腕で金色の竜に攻撃を加えた。


「ぐっ!」


 金色の胸元に深い傷が刻まれ、そこから金色の血が吹き出る。金色の竜は一歩後退りながらも、口を大きく開いて叫び声を上げて、黒い竜を威嚇する。


「王女は竜ではなく、人間の味方をするようだ! これは紛れもなく反逆だ! お前たち、王女を拘束せよ!」


 黒い竜は直立不動の赤い竜に命令を出した。

 初めは戸惑っていた赤い竜たちであったが、黒い竜から発せられた黒い霧を浴びると、目が赤く輝き、金色の竜に向かって襲い掛かった。


「くそっ!」


 突然始まってしまった金色の竜対黒・赤の竜の戦いに、クロガネの体は自然と動き始めていた。

 

 逃げるわけではない。自分のことを助けてくれようとしている金色の竜を――自分の力で助けになるのかはわからないが――加勢しないわけにはいかなかったのだ。

 

 クロガネは息絶えたイザヨイの、背中に備え付けられたままの大剣を掴むと、竜同士の戦いの輪の中へ入っていった。

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