第9話 気絶中のクロガネさん

 赤い竜はクロガネを殴り飛ばしたあと、周りの木々に向けて炎を吐き出した。

 

 あっという間に木々は燃え、あちらこちらで兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。この赤い竜は相当怒っている。いいぞ、もっと怒りに我を忘れて判断力をなくせ! と、ザンゲツは赤い竜の様子を見てニヤリとした。


「人間どもよ、竜に刃を向けたこと後悔するがよい!」


 赤い竜は口を大きく開けてそう言ったが、ザンゲツ、イザヨイ、マサムネの三人には当然竜の言葉は理解できない。ただ大きな叫び声を上げたようにしか聞こえなかった。


「今だ、大型弩砲バリスタ投石機カタパルト発射!」


 ザンゲツの合図に合わせて、離れた場所から矢と石が赤い竜に降り注ぐ。空からの攻撃に気づいた赤い竜はそれらに向けて口から炎を放ち、撃ち落としていく。炎を掻い潜り、いくつかの石が赤い竜の背中に命中するが、硬い鱗に当たって弾き飛ばされてしまった。

 

 もちろんザンゲツは、この程度の攻撃で致命傷を与えられるとは思っていなかった。一瞬でも動きを止めることができれば十分だった。

 

 赤い竜が空に意識を向けた瞬間に、ザンゲツとイザヨイは走り出した。素早く竜の足元に近づき、斬撃を入れる。ガチン! という固い音がして、ザンゲツの刃は弾かれてしまった。


「ちっ、やっぱりでかい分だけ装甲も固いな」

「なら私が! ザンゲツは柔らかい部分を!」


 ならばとイザヨイが、自身と同じくらいの大きさの大剣を勢いよく振り回し、竜の右足を狙った。グチャっという鈍い音とともに剣が竜の足に入っていくが、切り落とすことができず、骨のあたりで止まってしまった。


「もうっ! あと一歩なのに!」


 イザヨイが目一杯の力を込めて剣を押し込もうとするが、そんなことを赤い竜が許すはずがない。反対側の足で彼女を体ごと掴みかかろうとする。


「危ない!」


 今度はマサムネが左足とイザヨイの間に割って入り、大剣でその攻撃を防ぐ。「ありがと!」イザヨイはそう言うと竜の右足を蹴り飛ばし、自分の大剣を引き抜いた。


「ちょこまかと動きおって!」


 赤い竜はそう言うと、竜殺し三人に向かって炎を吐こうと口を開けて頭を後方へ傾けた。


「今だ!」


 ザンゲツは赤い竜が炎を吐く直前に、一瞬のがあることに気づいていた。攻撃を仕掛ける絶好のタイミングを彼は逃さなかった。一気に竜の体を駆け上がり、ちょうど鱗に覆われていない喉元に刃をふるった。竜の首から赤い血が吹き出す。致命傷とはいかないまでも、敵の動きを鈍らせるには十分な傷だった。


「グアアアアァ!」


 赤い竜は叫び声とともに翼をはためかせ、宙に逃げた。攻撃の届かないところで一旦傷を癒し、体制を立て直そうというのだろう。


「そうくると思ったぜ、いつまでもそこにはいさせねぇよ」


 ザンゲツとイザヨイはニヤリと笑い、仕掛けておいたの近くへ走った。そしてそれぞれ短刀と大剣で幼い竜の両翼を勢いよく切り落とした。



「!!」



 口を鉄線で縛り付けられている幼い竜は叫び声を上げることもできず、目を見開いた。切り落とされた場所から赤い血が吹き出す。


「お前ら! 私の息子になんてことをオォォ!」


 赤い竜が喉元から血が吹き出しているのも構わず、空中から急降下してきた。


「今だ、イザヨイ!」


 ザンゲツの声に合わせて、イザヨイが大剣を勢いよく赤い竜に向かって投げた。そして二人は地に伏せる。


 勢いよく、といっても普通なら竜の鱗に当たって弾かれてしまう程度であった。しかし、我が子を助けるために捨て身で、そして猛スピードで落ちてくる赤い竜にとって、自分から大剣に当たりにいくようなものだった。


 赤い竜の眉間にイザヨイの大剣が突き刺さる。そして勢いそのままに大剣は竜の頭を貫通した。


「ギャアアアアッ!」


 赤い竜はそのまま幼い竜の横にぐしゃりと落下した。ズシィン! と、再び物凄い音と衝撃。しかしそれもしばらくすると静寂に変わった。


「へっ! 赤い竜も楽勝ってわけだ!」

「やったね、これで相当お金ももうかるよ!」


 動かなくなった赤い竜を触りながら、ザンゲツとイザヨイが喜び合うと、マサムネが叫んだ。


「まだだ!」


 再び上空から突風が吹きおろしてくる。そのあまりの勢いに、一瞬にして今まで燃えていた木々の火が消えてしまった。



 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!



 なんと空から六匹の赤い竜が舞い降りて、竜殺しドラゴンスレイヤー三人を取り囲んだのだった。

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