第7話 討伐隊とクロガネさん

 赤い竜と戦うことはなかったものの、馬がすっかり萎縮してしまい、走れなくなってしまった。途中の街で馬を替えたり、馬車の修理を行ったりしたせいで、王都に到着するのが予定よりも一週間も遅れてしまった。

 

 本来なら早めに王都に到着して、宿に泊まって食事や観光を楽しんだり、戦いに向けて体を慣らしたりするはずだったのだが、そんなことをする暇もなく、クロガネとコテツは到着するや否や北門前に連れて行かれた。

 


 そこにはすでに多くの竜殺しドラゴンスレイヤーと国内の街から派遣された兵士たちが待機していた。どうやら二人が最後だったらしい。慌てて馬車から降りると「遅いぞ! お前らで最後だ!」と、隊長らしき人物が大声で二人に声をかけた。


「すまんな、道中いろいろあったもんで」 

クロガネがそう言って頭を下げる。


「フン! 本来ならお前らなど待たずに先に出発してもよかったんだが、竜殺しドラゴンスレイヤーの奴がお前が来るまではどうしても行かないと言うもんでな!」


 隊長がそう言いながら顎で指し示した方に、やけに強そうな雰囲気を漂わせた三人の竜殺しドラゴンスレイヤーが立っていた。


「クロガネ! 久しぶりだな!」


 大剣を背中に携え、黒光りする鎧を装備したの男。短髪で顔全体に髭を蓄えていて貫禄があるが、年齢はクロガネより少し下ぐらいに思われる。そして彼もまた、竜を殺すために存分に鍛えていることが鎧を着ていてもわかった。クロガネと同じか、それ以上に大きな体をしていた。


「マサムネ! 元気にしていたか!」

「もちろんだ。クロガネも相変わらず元気そうだな!」


 クロガネは友との久しぶりの再会に大きく両手を広げて近づき、抱き合った。お互いにポンポンと背中を軽く叩く。するとマサムネの後ろにいた男がめんどくさそうに口を開いた。


「馴れ合いはそのくらいにしておけ。早く出発するぞ」

「おお、ザンゲツも来ていたのか!」


 黒髪の長髪。つり目で冷酷な印象を与えるその男はザンゲツといった。クロガネやマサムネと違い、重厚な鎧は装備しておらず、忍者のような黒装束を身に纏っていた。そして腰には細身の刀が二本刺さっていた。

 どうやらこの人はクロガネさんのようにパワーで竜を倒すのではなく、スピードと技で戦う人なんだろう、とコテツは判断した。


「そうそう、早く行かないと折角のがだいなしになっちゃう!」


 ザンゲツの隣には女性の竜殺しドラゴンスレイヤーが立っていた。金色の髪を後ろで一つに結んだ可愛らしい顔と、小さな体に似合わずがっしりとしたピンク色の鎧を身に纏い、背中にはクロガネのものと同じくらいの大きさの剣を背負っていた。小さい体のどこにそんな力があるのか、コテツは驚いてしまった。


「あら、あなたは新しい竜殺しドラゴンスレイヤー? クロガネの弟子かしら? よろしくね、私はイザヨイ!」


 じっと見つめていたコテツの視線に気付いたイザヨイが、そう言ってコテツにウインクをして見せた。「えっ、あっ……その」突然話しかけられたコテツはもじもじしてしまうが、そこにクロガネが割って入った。


「コテツは竜殺しドラゴンスレイヤーじゃない。派遣された兵士だよ……コテツ、隊長の指示を聞いて決められた場所で仕事をするんだぞ、いいな」


 コテツは少し顔を赤くしながら、大勢の兵士がいる方へと駆けて行った。


「んもう! 折角可愛い子と遊ぼうと思ったのに!」


 早く出発するんじゃなかったのか、と突っ込もうとしたクロガネだったが、先ほどの彼女の言葉が気になって仕方がなかった。


「おい、イザヨイ……って何のことだ?」

「ん、エサ? ああ、あれよ、あれ」


 イザヨイがむけた視線の先には黒い幕がかけられた大きな鉄製の檻があった。その下には台車も敷かれていて、どうやらそれは移動できるようになっているようだった。


「檻……何か閉じ込めているのか? 竜をおびき寄せるための動物とか?」

「違うわよ……ちょっとだけ見せてあげよっか」


 イザヨイはクロガネを連れて檻に近づいた。そして黒い幕を少しだけめくって、中にいるものをクロガネに見せた。


「これは……!」


 中にいたのはだった。見たところ、幼体だろう。両手両足は切り落とされ、巨大な羽には何本ものくさびが打ち付けてあった。口も開かないように鉄線でぐるぐる巻きにされており、鼻先から顎にかけて長剣が一本突き刺さっていた。赤い竜は微かに息はしているが、目を閉じてぐったりしていた。


「これはひどい……一体誰がこんなことを!」

 クロガネが叫ぶと、後方からザンゲツが歩み寄り、誇らしげに話し始めた。


「俺とイザヨイがここに来る途中に出くわしたもんだから、ちょちょいのちょいと手足を切り落として生け捕りにしたんだ。こいつをおとりにして赤い竜どもを一か所に集め、ぶちのめすって寸法だ」

「まあ、私とザンゲツにかかれば赤い竜なんて相手じゃないってことね!」調子に乗ってイザヨイまで自慢げにそう語る。

 

 さあ、話はこのくらいにして行くぜ! といって、ザンゲツは討伐隊の隊長に向かって手を挙げた。すると、隊長は全員に向かって声高らかに叫んだ。


「さあ、これから全員で赤い竜を仕留めに行く! 気合は入っているかお前ら!」

「おおっ!」

「生きて帰り、うまい飯をたらふく食うぞお前ら!」

「おおっ!」


 隊長と兵士たちが指揮を高めている中、クロガネは赤い竜に話しかけた。竜の言葉は心の中から語りかけるので、他の者たちに知られることはない。


「おい……生きているか」

「……」

「おい、しっかりしろ」

「人間……か。僕が何をしたっていうんだ」

「……すまない、まさかこんな酷いことをするなんて……」

「絶対にお前らは許さないぞ……竜を敵に回すとどうなるか思い知らせてやる……」


 クロガネと赤い竜の子供が心を通して話をしている中、討伐隊は意気揚々と出発式を終えて、今まさに歩き始めようとしていた。

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