ニラ

 事の始まりは、レバニラ定食だったと言われています。

 いや、ニラレバ定食だったかもしれません。

 まあどちらでもよいのです。


 あるとき。

 とある定食屋にて、常連客の一人がこんな注文をしました。

「レバニラ定食。ニラ多め、レバー少なめで」

 そう、常連客はニラ好きだったのです。


 その日から、ニラ好きの客は、ニラ多めのレバニラ定食を頻繁に注文するようになりました。

 しかしそのうち、ニラ多めでも物足りなくなってきます。

「レバニラ定食。レバー抜き。その代わり、ニラさらに多めで」

 レバニラ定食は、とうとうニラニラ定食になってしまいました。


 ニラニラ定食を食べて、ニラ好きの客はご満悦……かと思いきや。

 だんだん慣れてくると、それでもまだ物足りなくなってきます。

「ニラニラ定食、白飯抜き。その代わりさらにニラ多めで」

「今日は味噌汁も抜き。代わりにニラを」

「そうだ、お冷やの代わりにもニラを」

 ニラ注文はエスカレートし、とうとう行くところまで行ってしまいました。

 注文する客も客ですが、注文どおりに作ってしまう店主も店主です。


 そして爆誕した、シン・ニラニラ定食を頬張る客。

 と、そこに。

 久しぶりの帰省で、定食屋の娘が帰ってきました。

 娘は……シン・ニラニラ定食を見て、まず絶句し。

 次に、絶叫しました。

「こんなの定食じゃないわ! 定食の器に盛ったニラよ!」



 その後……

 第三者である娘の指摘によって目を覚ました客と店主は、もう、ニラニラ定食を注文したり、作ったりはしなくなりました。

「やっぱり、このくらいの配分がちょうどいいやね」

 客は今日も、ニラ多めのレバニラ定食を頬張ります。

 いや、ニラレバ定食だったかもしれません。

 まあどちらでもよいのです。

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