ユックリさん

 ユックリさんをご存じでしょうか。

 いえ。コックリさんではなく、ユックリさんのほうです。


 ユックリさんの呼び出し方は、次のとおり。

 まず一枚の紙に、平仮名五十音と「うん」「ちがう」の文字、そして温泉マーク(地図記号)を書きます。

 温泉マークの上に十円玉等(コイン状のもの)を置き、その上に参加者(一~四名程度)が指を乗せます。

「ユックリさん、ユックリさん。ゆっくりおいでください」

 こう唱えて、三分ほど待ち。

「ユックリさん、ユックリさん。そろそろおいでくださいましたか」

 今度はこのように問いかけます。

 十円玉等が「うん」の位置に動いたら、ユックリさんが来たということ。

 動かない場合は、もう少し待ちます。


 ユックリさんが来たら、質問を始めましょう。

 ユックリさんは大変物知りなので、十円玉等をゆっくりと文字の上に移動させ、いろいろな質問に答えてくれます。

「ユックリさん、ユックリさん。明日は雨が降りますか」

「ふるかも」とか。

「あの子の好きな人は誰ですか」

「まいけるじやくそん」とか。

「僕の将来の職業は何ですか」

「いろいろ」とか。

 ユックリさんに答えられない質問はないのです。


 しかし、注意点もあります。

 ユックリさんを終えるときには、

「ユックリさん、ユックリさん。そろそろお帰りください」

 と言って、帰ってもらうのですが……

「いや」

 ときどき、このように帰ってくれないことがあるのです。

 こうなってしまうと、さあ大変。

 ちゃんと手順を踏んでユックリさんを終えないと、参加者がユックリさんに取り憑かれ、ゆっくりになってしまいます。

 どう対処すればよいのでしょうか。


「ユックリさん、ユックリさん。もう少し質問を続けろということでしょうか」

「ちがう」

「では何か、まずい質問をしましたか」

「ちがう」

「では……今日のお礼に、おやつでも食べて行かれますか」

「うん」

 そう。こういうときは、おやつでユックリさんをもてなすとよいのです。

 例えば、紙の上にぬれ煎餅を置くと……

 瞬きをする間に、ぬれ煎餅は煙のように消え失せ。

 ユックリさんは口をもぐもぐしながら、満足そうに帰ってゆくのです。

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