犬又

 猫又という妖怪のことは、皆さんご存じでしょう。

 長く生きた猫が妖怪化し、尾が二又に分かれ、時には喋ったり神通力を操ったりもするという、あの猫又ですね。


 では、「犬又」についてはどうでしょう。

 猫又と同じように、長く生きた犬だって、犬又になっていいはずです。

 しかし。

 猫又と違い、犬又に関する伝承や逸話などは全然残っておらず――そもそも、犬又という名称すら、皆さん、耳にする機会がないのではないでしょうか。


 一体それは、何故なのでしょう。

 犬は、長生きしても犬又にはならないのか。

 詳しい方に尋ねてみました。


 その方の曰く。

 犬というものは、猫と比べて、妖怪との親和性が薄いのというです。

 猫は気ままで、自由奔放で、ぐにゃぐにゃで、神出鬼没で、夜が似合って――といった風に、妖怪的な要素を多く持っている。

 それに対して犬は、律儀で、きっちりしていて、仕事をこなすことができ、雪の日に庭を駆け回り――と、妖怪とは対極的な要素を持っている。

 少なくとも、人間はそのようなイメージを犬猫に抱いている。


 だから、猫と違って、犬は妖怪化しないのだと。


 我が家の三つ首の犬(の左の頭)は、そう言うのです。

「そういうものですか」と私が問うと。

「そういうものだよ」と。

 なんかの魂をあぐあぐと噛みながら、落ち着きはらった声で、そう答えるのです。

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