タンバリン

 むかしむかし。

 丹波たんばの国の山道に、厄介な妖怪が住み着いておりました。

 何でもその妖怪は、自らの身体や植物を使って発する奇妙な音で、通りかかる人々を惑わせるというのです。

 遭難や滑落といった実際的な被害も相次ぎ、この妖怪を何とかせねばなるまいという空気が、次第に人々の間に広がりました。


 そこで立ち上がったのが、利済りずむという名の一人の僧。

「如何なる方法で奴を退治する。あの音は耳栓をしても防げなんだぞ」

 周りの者が言うと、利済はにこりと笑い、

「これを使います」とだけ言いました。

 それは、木製の盆の周囲に金具をじゃらじゃらと取り付けたような、珍妙な道具でありました。


 さて、利済が山に入ると程無くして、奇妙な音が聞こえ始めます。

 とんとこすっとん、とことんとん。

 ぴーぴぴぴーぴー、ぴーひょろぴー。

 利済は待ってましたとばかり、あの道具を取り出すと……

 しゃかちきしゃかちき、しゃんしゃんしゃしゃん、しゃんしゃかしゃんっ

 と、妖怪に対抗するように、軽快な音色を奏で始めました。

 そう。あの珍妙な道具は、手製の楽器だったのです。

 単に振ったり叩いたりするだけでなく、手首のスナップ、肘や膝などを巧みに使い、利済は多彩な音を響かせます。


 これを受け、ついに妖怪が姿を現しました。

 そう。聞いた事の無い楽器のご機嫌なビートに、妖怪も興味津々なのです。

 そして。

 しゃかちきしゃかしゃん、とんとこしゃん、ぴーしゃかとん、とっぴんしゃん。

 唐突に始まる、利済と妖怪との、即興とは思われぬ見事なセッション。

 その音色は、夜っぴて周囲に響き渡ったといいます。


 利済と理解わかりあえた妖怪は、その後一切、人々に悪さをすることは無くなり。

 また丹波の国内外では、利済の作ったあの楽器が、丹波輪たんばりんという名を得て大いに流行りました。


 これが現代の、タンバリンの原型になったとか、ならないとか。

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