ウソ知識の泉

42.195km（前編）

　なぜ、フルマラソンの走行距離は42.195kmなのか。

　長すぎやしないか。

　特に最後の2.195kmがとてつもなく長く感じるのは、時空の歪みか。

　なぜ我々は、こぞってこのような苦行に身を投じるのか。

　変態だからか。

　いやすいません、話が逸れました。

　フルマラソンの距離の話です。

　なぜ、42.195kmなのか。

　実は昔、フルマラソンの距離は40kmでした。

　それが現在の距離に変わったのには、古代ローマに存在した、とある二人――マエニデントスとヌカレマイトス――の物語が関係しています。

　当時のローマにおいて、フルマラソンの大会優勝者は英雄であり、富、名声などの全てを手に入れる者といっても過言ではありませんでした。

　その優勝者の筆頭候補として、マエニデントスとヌカレマイトスは、熾烈な争いを繰り広げていたのです。

　ある大会の直前、マエニデントスはヌカレマイトスに言いました。

「今度の大会は、同時にゴールしよう。そうすれば二人とも優勝でWin-Winだ」

「それはいい考えだな」

　しかし当日。

　ヌカレマイトスは約束とは裏腹に、34km地点で猛烈なロングスパートをかけ、マエニデントスを引き離しにかかります。

「ヌカレマイトス、貴様！　話が違うぞ！」

「貴様こそ！　約束を守る気など無い、勝つのは俺だ、と風呂屋で話していたそうではないか！　あっおいやめろ、踵を踏んづけようとするな！」

　両者一歩も譲らぬデッドヒートの末、図らずも約束どおり、二人はもつれ合うように同着でゴールしました。