第2部

猫道

 猫道ねこどうとは――。

 

 猫を愛してやまない者たちが競い歩む道、ではありません。

 それもある意味正しいかもしれませんが、本質は違います。


 猫道は、剣道、柔道、合気道などと並ぶ、由緒正しき武道の一種。

 その基礎をつくったのは、江戸の町人であるとも、古代エジプトの神官であるともいわれており、本当のところは謎です。


 確かなことは、猫道が、優雅かつ力強い、猫の動作を取り入れた武道であること。

 

 一切の足音を立てない歩行と走行。

 驚異的な跳躍と、華麗な着地。

 そのほかにも、目にも止まらぬ速度のネコパンチ、暗闇を見通す眼、気品漂う伸び、軟体のような隙間移動とフィット感など……

 猫の様々な動作を子細に観察し、武道として昇華させたものが、猫道なのです。


 武道とはいっても、猫道は相手を倒すような試合には向きません。

 猫道の技を用い本気で戦うと、爪や歯を使って相手を攻撃することになり、すなわちけっこうな流血沙汰となってしまうためです。


 よって、猫道における試合というのは、もっぱら演武に限られます。


 しかし、猫とは骨格などが諸々違い、肉球も毛皮も愛嬌もない人間にとって、この演武のレベルを見られる程度にまで高めることはとても困難。下手にやると、単なるイタい人になってしまいます。

 それでも、2022年の世界大会には1,122人の猛者が集い、猫カフェ風のステージやキャットタワー(人間用)を駆使しながら、それぞれの猫道を果敢に表現しました。


 4年連続世界チャンピオンとなったマッシグラ氏(46)による決勝の演武について、専門家の再度八太郎またたびやったろう氏は、こう語っています。


「猫よりも猫々しい、オキシトシンとアドレナリンがドバドバ溢れる素晴らしい演武であった」と。

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