42.195km(後編)

 しかし、これを見た王(大会最高責任者)が言うことには。

「優勝者が二人などというのは認められん。二人で追加の2kmを走り、真の勝者を決めるのだ」

 それを聞いたヌカレマイトスは言います。

「かしこまりました。しかし王様、2km先にはゴールの目印がありません。どうでしょう、2.2km先のポールまで走り、先にタッチしたほうを勝者としては」

「よかろう」


 こうして始まった最後の勝負。


 40kmを走った直後だというのに、二人は力を振り絞り、人間業とは思えない走りを見せます。

「おいヌカレマイトス、見ろ! ヴェスヴィオ火山が噴火したぞ! おい!」

 マエニデントスが相手の気を散らそうと叫びますが、ヌカレマイトスは完全無視。逆に叫び疲れたマエニデントスがわずかに遅れてしまいました。

 ゴールまであと少し。

 しかしここで、後方からのプレッシャーを受け続けたヌカレマイトスにも、スタミナの限界がやってきます。徐々にヌカレマイトスへ迫るマエニデントス。

「勝ったッ! ヌカレマイトス、貴様の負けだ!」


 そのとき、不思議なことが起こりました。

 マエニデントスがヌカレマイトスを追い抜かんとした、まさにその瞬間。

 ゴールとなるポールに、にゅっと足が生えたかと思うと、二人の方へ、生き物のように、5mほどてくてくと移動してきたのです。

 ヌカレマイトスは先にポールにタッチして優勝しました。


 ヌカレマイトスはこんなこともあろうかと、ポールの内部に仲間を待機させていたのです。


 そんなこんなで、ヌカレマイトスはゴールさえ動かす英雄として称えられ。

 記念として、その後フルマラソンの距離は、このとき二人が走った距離と同じ42.195kmになったのです。

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