ビシャビシャ毘沙門天

 どしゃ降りの雨の日に、小さな寂しい公園なんかで。

 傘もささず、ぽつんと、ただじっとたたずんでいる人がいたら。


 怖いですね。

 一体何をしているのかと思いますよね。

 でも大丈夫。怖がることはないのです。

 それはきっと、人ではなく、ビシャビシャ毘沙門天なのです。


 ビシャビシャ毘沙門天には実体がありません。

 幽霊のようなものです。

 「毘沙門天の幽霊」というと何が何やらですが、他に適切な表現が見当たらないのだから仕方がない。


 ビシャビシャ毘沙門天がなぜ現れるのかは、謎です。

 喋らず、動かず、表情も変わらず。

 ただ、じっとたたずんでいるだけです。

 何か伝えたいことがあるのかもしれませんが、さっぱりわかりません。


 そして、放っておくと、いつの間にか消えてしまいます。


 知人(自称大学教授)による、有力かどうかわからない証言があります。

 ビシャビシャ毘沙門天は、よく見ると小刻みに震えているそうです。

 どしゃ降りの雨に打たれて、寒さに震えているのです。

 毘沙門天なのに。


 気の毒に思い、ホットの缶コーヒーを差し入れると、スーッと消えたそうです。

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