バールのようなもの

 『バールのようなもの』をご存じですか?

 ノベルゲームや推理小説などにおいて、凶器としてよく登場するといわれる、先がちょっと曲がった鉄の棒みたいな、アレです。


 バールのようなもの。

 妙な呼び方ですね。

 なぜ、このような呼び方をするのでしょう。


 まだ凶器が発見されていない段階で、バールと断定することが出来ないからでしょうか。それとも、正式名称がよくわからないからでしょうか。


 否。

 実はそこには、悲しい物語が隠されているのです。



 バールのようなものの正式名称は、『メッチャナグリヤスイヤーツ』といいます。

 もう一度いいます。『メッチャナグリヤスイヤーツ』です。


 メッチャナグリヤスイヤーツは、1961年の日本にて、「野山で出くわしたイノシシなどを殴って追い払うための道具」として発売されました。

 素材や重心に工夫がなされていて、実際すごく殴りやすいそうです。

 これが、大ヒットとはいかないまでも、そこそこ売れました。


 しかし、本来の用途とは違い。

 それはしばしば、人を殴るために使われてしまったのです。


 メッチャナグリヤスイヤーツの生産及び販売は停止され、販売済みのものは、そのすべてが回収の対象となりました。

 しかし、一部は回収しきれず、各地に残りました。


 今でもときどき、それは凶器として用いられます。

 それが正式名称で呼ばれることは、もうありません。

 その名を呼ぶことは、人々にとってタブーなのです。


 人はそれを、バールのようなものと呼ぶのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る