第18話 Earth・Lord・Zenith
黄金の部屋は、その言葉の前に輝きを失った。
「お、まえ……!? 何言ってんだ!?」
「あら、驚くの? 今までの付き合いで分かりきっていたものだと思ってたけど。私は根本的に人類の敵よ。私を殺しにくるアヌンナキを全滅させたら、この星に住む人間をみーんな、私の手で殺してあげるの!」
幼い顔つきから繰り広げられる過激な発言。見た目は全く恐ろしさを感じないのに、本能的に感じる恐怖がある。そしてその言葉には全く嘘の色がなく、本当にエルゼはそれを実行すると決めているようだった。
「……だったら先に人間を殺せばいいじゃねえか。そうすればお前を攻撃できるエンプティがこれ以上増えなくて済む。お前の強さならその『運命を定める七人』とやらも苦労せずに倒せるはずだが?」
「……憎たらしいけど、それは無理なのよ。それじゃあ私は私じゃなくなってしまう」
「あぁ? 何言ってんだよ」
やっぱりよく分からないのかもしれない。こいつのことは。神の考えることなんてよく分からないし、話すことも難しいことばかりだ。人間であった俺が理解できた気でいるのが間違いだったのかもしれない。
「……ジン君。エルゼ様が一体何者なのか知ってるかい?」
グエンが俺を見定めするかのような目で見てくる。同時に腕を組んでいるアルベルトの視線も俺の目に突き刺さる。
「……神様なんだろ。この地球の」
「簡単に言ったねえ。じゃあこの地球に神様ってどれだけいる?」
「え? そんなのいっぱいだろ?」
「うん。いっぱいいるね。その神様が全部エルゼ様なの」
「……え?」
どういうことだ? エルゼは一人じゃないか? 全部ってどういうことだよ?
「これはアルベルトの旦那が教えてくれたことなんだけどね。エルゼ様はこの地球に存在する神様の原点。言い換えると全ての神様なんだよ。だからアマテラスもゼウスもキリストだって皆エルゼ様なの」
……つまり、エルゼは神様の集合体ってことか!? イザナミでもあり、アポロンでもあり、ラーでもあるってこと!?
「──全統括原点神話。彼女はそう呼称してるみたいだね。『全ての神話を統括する原点』である彼女が自らエルゼと名乗る理由は知らないけど、僕たちのE・L・Zの三文字に対する解はこれだ。
──
グエンは念押しするようにエルゼへ尋ねた。エルゼは縦に首を振った。
「ええ。そうしなければこの星を守ることはできない。アヌンナキの侵略によって今の地球は存在しなくなるでしょうね」
「だがお前がその力を持ったままアヌンナキを滅ぼしたら、人間はお前によって滅ぼされる……お前らしい理不尽な結末だな」
呆れと諦めが混じって笑っちまう。結局弱い俺たちはこいつに頼らなければ理不尽な侵略を止められないし、こいつに頼っていちゃ、しまいには滅びが待っている。弱者には選ぶ権利さえないってわけだ。
「ええ。私は人類の敵。それと同時に人類が生きる星を守護する神。私を生かさなければ滅びる。私を生かしておいても滅びる。だからグエン、アンタのその選択はこの星で滅びる未来を早めるだけそれは分かっていて?」
「勿論さ。僕は人類全てを背負う覚悟の上で人類派を率いている。一人でも犠牲者が増える前にアヌンナキを倒さないといけない。そしてエルゼ様がアヌンナキを滅ぼし、人類を滅ぼそうとするなら、僕たちは君を倒すしかない」
グエンは立ち上がり、エルゼの前に立つ。そしてグエンは手を差し出し、握手を求める。
「
「……ええ。分かったわ。足掻けるものならせいぜい足掻いてみなさい。人間」
「まあ僕たちはもう人間じゃないけどね」
エルゼはグエンの手を握った。条約を結んだにもかかわらず、二人の顔は固く閉ざされていた。
「さて、エルゼ様は納得してくれたようだけど、君たちはどうだい」
グエンとエルゼは二人して俺に顔を向ける。そんな期待の眼差しを向けられなくとも、答えは決まっている。
「俺はグエンさん、アンタにつく。エルゼ。お前と最初に約束したよな? 協力するって。一回は別れたけど、俺はお前との約束を破っちゃいない。──宇宙人を殲滅する──。これを終えるまでは少なくとも俺はお前の味方だ」
俺も手を差し出す。エルゼとの約束は絶対に守る。例えそれが人類の滅亡に近づく選択であろうとも、戦い抜かなければ未来はない。何よりも──俺は救われた運命に背くことはしない。
「ふふ。ありがと」
エルゼは俺に抱きついて感謝を伝える。エルゼは俺の腹に顔を埋めた。……こんな小さなガキが、人間を滅ぼす破壊神だなんて誰が思うんだ。
「……気に食わねぇ……」
「え?」
「いや……なんでもねえよ」
でもそれがエルゼなんだ。それだからこいつなんだ。こいつらしくあって、それが正しさってものなんだ。なら、どんなこいつの姿であろうと受け入れよう。それが本当に、こいつがやりたいことだというのなら……。
「……私は先輩についていくっす。私は先輩に助けられた。何度も助けられた。だから次は私が助ける番っす。人類がどうだって話はよく分からないっすけど、ただ私は先輩の役に立ちたいんっす」
ずっと黙って考え込んでいたマキタが口を開き、信念を持った顔ではっきりと言った。
俺の役に立ちたい──そうか。それがお前の望みか。
「……全く、お前らしい答えだな。昔からずっとそればっかじゃねえか。他にやりたいこととかはねえのか?」
「他なんてないっすよ。昔は警察になりたいとか思ってたっすけど、もう私は人ですらないんっす。だったら純粋に残った人であった頃の気持ちを肯定してあげたい。それがさっきの答えっす」
……大馬鹿野郎。そんなまっすぐな顔で言われちゃ、何も言い返せねえじゃねえか。
「分かったよ。グエンさん、俺たちを仲間に入れてくれ。その酷えデザインのロゴを背負ってやる」
「OK! ようこそ、
……やっぱり入るとこ間違えたかなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます