第4話 ジンの本質
このお嬢様は本当に気まぐれだ。さらには好奇心旺盛である。
俺から見たら何の変哲もない町のビルも、町外れにある小さな駄菓子屋にも駆け込もうとする。本来の目的を忘れたかのようにその時は突然やってくるのだ。もちろんそんなやつの相手をしていると……
「だぁーーっ!! まだ着かねえのかよおお!!」
こうやって許容の壁を越えて苛立ちが声に出てしまうわな。
「まだよ。あと10キロくらいかしら。あ、ねえ! あれはなに!?」
「あーうるせえーっ!! あれはクレープだ!! うっすい皮でフルーツとか包んでクリームかけて食っとけ!!」
もはや説明がちゃんとなってるのかすらよく分からなくなってきた。宇宙人さん、お願いします。ここまで来てください。早くアンタに会わないといつまでも死と隣り合わせのワガママに付き合わされてしまう……!
「へえ!! どんなのかしら!! ジン、これで買ってきなさい!」
そう言ってエルゼは数枚の紙切れを寄越してきた。
「……これは?」
「何って知らないの? 馬鹿なの? 見れば分かるじゃない、お金よ。人間はこの紙切れさえあれば生きていけるんでしょ?」
「馬鹿はテメェだああっ!! よく見てみりゃ、こいつは『ユーロ紙幣』じゃねえか!! ここはヨーロッパじゃなくて日本なんだよ!! 円を持ってこい円を!!」
「? 何で円盤を持ってこないといけないの?」
分かった! こいつは馬鹿だ! 馬鹿なくせに口が回るし、強いとかいう一番厄介なやつ!!
「もう黙ってろ! 俺が買ってきてやるからよ! おっちゃん! あのガキに一番うまいクレープを食わせてやってくれ!!」
「はいよ! 900円頂戴します!」
何だよ、結構高いじゃねえか! 今の持ち金の大半がぶっ飛ぶじゃねえかよ!!
「ほら! 食いながら歩け! ちなみにこれ以上金は出せねえからな!」
「えー、お金のない男はモテないんでしょ? そんなのでいいのかしら?」
何でそんな無駄な知識だけは持ってんだよ! 腹立つな!
「いいから歩く! さっさとしねえと犠牲者が増えちまうかもしれないだろ!」
俺は急かすようにエルゼの背を押す。しかしエルゼの体はどこにそんな力があるのかと思うほどにビクともしない。
「もう、なんだよ! まだなんか欲しいのか!?」
「……今の言葉、本心?」
「え?」
振り向いたエルゼの目は嫌悪感に塗れていた。まるで汚物を見るかのような荒んだ目で俺を睨みながら問いかけてくる。
「私は人じゃないから人の性質というものは正直あまり理解できないわ。だけどアンタは私が今までで1番長く見てきた人間よ。私から言わせてみればアンタがそんな善人のような言葉を吐く姿なんて想像がつかないの」
「な……んだよ、俺が悪人だとでも言いてえのか!?」
「いいえ、違うわ。アンタは善人でも悪人でもない。アンタの本質は自己中心よ。アンタは自分の行動に善と悪を勘定に入れたことがあるの?」
「……何言ってんのかよく分かんねえな。じゃあなんだ? 俺がこうして世話焼いてあげてんのに、テメェはこのありがたい行為すら自己中だって言いてえのか?」
「ええ、そうよ。だってアンタ、ずっと私の顔色ばかり窺ってるじゃない。こうやって私の機嫌をとってた方が宇宙人と戦うよりもよっぽど安全だとでも思ってるんでしょ?」
俺は何も言い返せなかった。だってそれは本当だからだ。俺の今までのこいつとの行動原理、原点。内側に隠したそれを当てられてしまうということは俺の姿なんてこいつには筒抜けということ。俺に逃げ場はないということだ。
背中を撫でるような寒気が襲う。こいつを馬鹿と称した俺がその実こいつの掌に転がされていたのだ。こいつは俺が保身に走り、嫌々付き添っていることを知ってるにも関わらず俺を切り捨てることはなかった。
エルゼは何を企んでいる? そういえばこいつに怯えるばかりで聞き出せていなかったが、俺はなぜエルゼと共にいるのだろう?
「ふふ、いいわ、その表情。いつ殺されちゃうんだろうって怯えて……可愛いわね。でも安心なさい。私がアンタを殺すことはないわ」
「……なんでだ? お前ほどのやつなら俺みたいなゴミ、すぐに切り捨てちまったってなんも変わらねえだろ」
「ええ、アンタはゴミよ、ゴミクズなのは事実だもの。だけどアンタは私にとっては再生ゴミと同じで利用価値がある。本当に価値が無くならない限り私が処分することはない。これだけは約束するわ」
不敵な笑みを浮かべつつ、エルゼはまた歩き始めた。黒い貴族服を纏ったその背中が今の俺には例えだが──黒い翼に見えた──。
◆◆◆
しばらく歩いてから思い出したかのようにエルゼはこう言ってきた。
「あ、ジン。私がアンタを殺すことは今のところないけど、1つだけ守ってもらいたいことがあるの」
「……なに?」
「私の前ではえーっと、なんで言うんだっけ? あれ、クズでいなさい」
「……はあ?」
何を言い出すんだこのガキは。本人の目の前でクズなんて言い出したら普通は殴られても当然だぞ。殴ったら殺されそうだからこいつには殴らないけど。
「なに? 言ってることがよく分からないんだけど」
「だから素のアンタでいなさいってこと。変に善人ぶったりしたら許さないから。殺さないって言ったけど、もしかしたらアンタを衝動で殺しちゃうかもしれないわ」
「そんなに!?」
わ、わけがわからん。まさか俺はクズじゃなければ生きられないというのか? クズで命拾いするって字面にすると最悪なんだけど?
「正直アンタが思ってもないことを言うのは気持ち悪いのよ。だからこそさっきの発言は気に入らなかった」
「犠牲者が増えるってやつか? 言っとくけどな、あれは俺の本心だぞ」
「そうなの?」
ああ、なるほどな。こいつは俺が嘘をついたと思ってたわけか。だからいつもの言動とは違うその言葉が気に食わなかったと。
「お前が思ってることも間違いじゃねえ。簡単に言うと犠牲者が増えようがどうでもいいってのとだろ? その通りだよ。俺は別に犠牲者が出るってのはどうでもいい。だけどな、犠牲者を出すってのが気に食わねえんだ」
「それって同じことじゃないの?」
エルゼは首を傾げた。まあ、確かに何を言ってるのか理解されなくても無理はないだろう。これは俺のこだわりだからな。
「実は全然違うんだよ。確かに結果としては同じだわな。そしてその結果には俺は何も思うところはない。だけどその過程が気に食わねえんだよ。あの宇宙人たちが人を殺して犠牲者が増えるっていうことが気に食わねえ。別に人が死のうが生きようが知ったこっちゃねえけど、それだけは許せねえ。ただそれだけのことなんだよ」
「へえ、人間って難しいのね」
他人事のようにエルゼはそう言う。人ではないこいつは多分だけど人と人の生み出したものに強い興味を持っているんだ。だから何でもかんでも食いついてくる。さっきみたいに俺を糾弾したのもそれが理由か。
「まあこれに関しては俺が異常なだけだと思う。昔からこだわりだけは人一倍強かったし、興味のないことには全くと言っていいほど興味が出ないしな」
エルゼはまた不思議そうな顔をしながら見つめてくる。……そうだ。こういうことをこいつは言いたかったんだろうな。俺は、うん。異常だ。
◆◆◆
「……ここか」
エルゼが立ち止まったのは寂れたビル街に立つ修繕工事中の古いビルだった。
「ええ。それに……何人か人間がいるわね」
「んじゃ、さっさと行こうぜ。宇宙人に殺される気に食わねえ奴らが出る前に」
「ちょっと待ちなさい」
俺がビルの中に入ろうとするとエルゼが突然俺にしがみついてきた。
「え? どした? 急に甘えたくでもなったのかガキ?」
「違うわ。ここは人通りが少ないから近道しようかと思ってね」
しっかりとエルゼが俺を抱きしめると少しずつ風が吹いてきた。というよりもなんか足元から風出てません?
「あのー、なにを……」
「しっかり掴まってなさい。死ぬわよ」
「それがお前の口癖か……ってうおおおお!?」
何が起きるのか知る前にそれは起きた。突然俺たちはロケットのように地面を離れ、一瞬にしてこの町を一望できるほどの高さにまで上昇したのだ。
「高っか!! さっきの飛び降りの比じゃねえぞこれ!?」
さっきの倍くらいはあるぞこれ! ビルよりも高いんだが!?
「さあ降りましょう。あの屋上へ」
「え、ちょ……まって、うああああ!?」
空中で止まったかと思うと体が強い力で引っ張られるかのように下へと落ちていく。まるで流星のようだ……なんて冷静に判断してる場合じゃねえ! うわああああ!!
「あはははは!! たっのしいーー!!」
「なに笑ってんだああああ!?」
エルゼの笑い声が風を切るとともに流れていく。俺たちはどんどん加速していき、そしてそのままビルへと突っ込んだ。
「ぶはぁ!! いっ……たくないんだった。ってそのまま突っ込むやつがいるか!!」
俺たちはビルの屋上を貫通し、瓦礫を散らしながら中腹の階へと降り立った。無茶苦茶だ。こんなもの人が見てなくても大騒ぎになる。どうするんだよこれから……。
「ていうかお前、全然怖がってなかったじゃねえか。俺が飛び降りた時よりも高かったのになんで楽しげだったんだ?」
「? そんなの私の意志で落ちたからに決まってるじゃない。あ、別にアンタの飛び降りが怖かったわけじゃないからね」
……なるほど? つまりこいつは予想外の事態を怖がる傾向にあるということか?
「ま、いいわ。それよりも……見なさい」
「──! うっ……! こいつは……」
目の前に広がっていたのは赤い光景。崩れ落ちた瓦礫に潰されたのではない。彼らは人であり、そしてその人のまま死に絶えた。開く閑散としたフロアに無造作に散らばった死体たち。大量の赤い血はフロア全体を正しく血の海へと変貌させていた。
「……ざっと見て20人くらいか。しかし、こいつは……」
「気がついたかしら?」
「ああ、多すぎる。服装を見ても修繕工事の従事者じゃなさそうだ。数人のワル達が落書きでもしに来たってんなら不幸の一言で片付けてやるが……まるで自分から来たみたいな」
あまりにも不自然だ。こんな関係者以外立ち入る必要のない場所に私服姿の人間がごろごろいるなんて。それに加えて性別もバラバラ。死体はみな苦悶の表情で見るに堪えない。だがそれを堪えて死体を見比べると全員まだ若そうなやつらばかりだった。
「冷静ね。今まで何回も死体を見てきたのかしら?」
心のない声で呟きながらエルゼは死体を眺めていた。
「生憎だが死体を見るのは婆さんの仏サマ以来だよ。まあ見てていい気分にはならねえ。苛立ちが強まるだけだ」
「それでも普通の人間の反応じゃないとは思うけどね」
エルゼは血の海に足をつけ、先を進む。ピチャピチャという音がえらく不快だった。
「ここのやつ、強いわよ。この前に戦ったやつとは比べ物にならない。なんせこの手口を使うのは『パンテオン』という上位種。今までの棒切れとは格が違う」
「パンテオン?」
「棒切れたちを生み出して使役している存在よ。見た目はアンタたち人間とほぼ同じ、違う点としては背の高いやつが多いっていうのと、意思疎通が可能という点よ」
「日本語を喋るのか!?」
ワレワレハウチュウジンダとでも片言の日本語で話しかけてくる灰色の宇宙人を俺は想像した、が、見た目は俺たち人間と大して変わらないらしいな。
「残念だけどテレパシーね。意味合いとしてアンタたちには伝わるはずだから、それをアンタが脳内で日本語に変換することはできると思うわよ」
テレパシーってそっちのがすごくね?
「とにかくさっさと行こうぜ。そいつのところに」
「……前を見なさい」
「え?」
そう言われて前を向くと──
“まさかそちらから来るとはな、星の支配者”
という意味合いの情報が伝わるとともにそいつは血の海の上に立っていた。
デカい。身長180センチの俺が見上げなければならないほどの巨体。古代人のような布中心の服装を纏い、白い宇宙人とは比べ物にならないほど大きな羽、いや、翼を持っている。
鋭い眼光を持った男の姿だ。筋骨隆々。武術サークルのやつらなんてゴミみたいなものに見えてくる。それに加えてこの圧倒的な圧力。エルゼが負けるとは思えないが、少なくとも今の俺の数倍は強い。
“つまらない景色ね。量が多いだけで品がない。前に殺したアイツ……なんていったかしら、確か……ウトゥとかいうやつ。アイツはまだマシだったわ。死に際も素直だったし”
お前もテレパシー使えんのかい。それにしてもウトゥ? こいつらにも名前があるのか?
“ウトゥ様は正義を司るお方であった。しかしなぜルル・アメルの原体にあそこまでの情を持って接するのか私には理解できん。ルル・アメルなど消耗品、作り続けなければ、数がなくてはすぐに尽きてしまうであろうが”
テレパシーゆえか宇宙人の表情は微動だにしない。伝わってくるのは言葉の意味だけで声の抑揚といった感情の表現はないため、目の前にいるこいつは無感情な巨漢という不気味な雰囲気を醸し出している。
“アイツはそんなこと考えていなかった。アイツにとってはエンプティの生産とは子を成すことのようなものだって言ってたわ。愛情なくして優良なエンプティは生まれないと。立派な考えだけど私にとっては害虫が増えるのと同じよ。芽はこうやって摘み取っておかなきゃ”
突然背後で爆発音が聴こえた。後ろを振り向いてみるとそこには一人の男性が破裂し、死に絶えた光景があった。
「エルゼ!! なんで殺す必要があるんだ!?」
「見なさい。彼の姿を」
鉄のように冷たい声で話しながらエルゼは目配りする。言われたように彼の姿を見てみると彼の脳天には搾臓器が刺さっていた。白い宇宙人の姿が見えないのは……恐らくエルゼが消し飛ばしたからだろう。
「……だから殺したのか。芽を摘み取るために」
「ええ。彼はもう助からなかった。完全に搾臓されて死に絶えるか、エンプティとして生まれ変わり私に殺されるかの二択。なら早いうちに介錯してあげたほうが嬉しいでしょ?」
「……だからってすぐ殺すのはどうなんだ? もしかしたら俺みたいに味方になるかもしれないじゃねえか──」
そう言い切ると共にエルゼの細い腕が喉元へと突き立てられた。そして鋭い目に殺意を込めてこいつは俺を睨みつける。
「呑気なこと言ってんじゃないわよゴミ。自意識過剰もここまでくると腹立たしいわ。アンタは味方じゃない。私に生かされてるだけのゴミクズよ。エンプティが私の味方になる? 笑わせないで。アンタたちの存在意義は私を殺すため、なんだから」
過去に類をみないほどのエルゼの殺意。その目はもはやあのちゃらんぽらんなガキが見せるものではなく、絶対的な支配者が気に食わない反乱者を見下す時のようなものだった。その威圧感はあの宇宙人の比じゃない。だけど、俺は……
「……少なくとも馬鹿で何もわかっちゃいないゴミクズに今できることはお前に協力して生き延びるための味方ごっこだ。今はそれをちゃんと踏まえさせてもらう。これは本心だぜ……?」
怯むことはない。俺は俺の信念が恐怖や欲望を常に上回るからだ。そしてその信念に殉じて矛を向けるべき相手は目の前の殺人野郎。善も悪も関係ない。ただただ吐き気がするくらい気に入らない。それだけで俺にとってそいつを殴る理由になる。
“星の支配者よ。なぜルル・アメルが私に反抗を見せる”
“さあ、なんでかしらね。アンタたち親があまりにも気に食わないから殴りたいって言ってるわ。子に嫌われるなんて可哀想な親たちね”
“ルル・アメルよ。立場を弁えよ。貴様が楯突いていいような相手ではない。そもそも貴様の敵はそこの支配者であろうが。しかとその命を果たせ”
「知らねえよ。なんだテメェ。俺はな、上から目線で物事を言ってくるのに対して別に腹立たしさを感じたりはしねえ。俺だってするからな。だけどな、指図されて『はいわかりました』ってへこへこ頭を下げんのだけは絶対にしねえ。死んでもしねえ。俺はお前が気に食わない。このガキも気に食わねえが、テメェの方が100倍気に食わない」
体を身構える。力の差は分かってる。だけど引くことはない。馬鹿だよ、ゴミだよ。このままじゃ絶対勝てないのに逃げないなんて、助けを呼ばないなんて。だけど俺は戦うんだ。理屈とかじゃなくてそれが俺だから。
“では死ぬか”
その意味合いと共にその巨体は一瞬で目の前に現れた。
「なっ!?」
そしてその剛健たる拳が俺の
エンプティになって備わった反射機能が自然と両腕をクロスさせ、最大限の防御を取った。しかしその拳には敵わず、腕が二本とも貫通し、凄まじい破壊力によって俺の体は後方へと吹き飛ばされる。
「ぐっ! あッ……!」
一面の血の海に体が浸かる。ぬるりとした感触が気持ち悪い……って、え?
「なんで感触が……ぐううっ!?」
何故だ。何故腕がちゃんと貫通している……! 痛い、痛い、めちゃくちゃ痛い!!
「パンテオンはアンタよりも上位の存在よ。アンタの魂の輝きではコイツの輝きにその靄、
「そういうことは早く言えっ!!」
一度距離を取る。どうやら再生はすぐにくる。だがしっかりと攻撃を受けた時はダメージを負うし、痛覚も戻る。その時だけ人間に戻るような感覚だ。まずい、まさかこんな特性があるとは。
“貧弱な体だな”
もう一度やつは目の前に現れる。次は蹴りだ。風を切る音がジェット機の轟音にも等しいほどのもの。
「おらあ!」
だが次は当たらない。意識を避けることに集中させればエンプティの体はそれが可能な能力にギアを上げてくれる。蹴りを避け、俺は避けた勢いのままやつの脇腹に反転蹴りを入れる。
“ほう、技はあるようだな”
しかし、通らない。少しその体を揺らした程度のダメージ。分かる。次は避けられない。
その予想通り俺の頭に撃墜が下される。こんな貧弱な地面ではその衝撃に耐えきれず貫通し、俺の体は1階、2階とドミノ式に落とされていく。
ぼんやりとする。人の感覚を久しぶりに感じ取る、意識が薄れるあの目眩。上からは赤い血が滝となって俺に降りかかる。
血に溺れる。体全体に血が入ってくる。人間の感覚がまだ残っている。血とはここまで濃厚で気持ちの悪い液体だったのか。ドクンドクンと胸が鼓動を叩く。体に入ってくる死者の魂の源が彼らの記憶となって俺に語りかける。
──あんたなんていなければよかったのよ! なんで、なんで、こんなやつのために私が……。
──ねえ、本当にアイツって気持ち悪いわよね。もう存在してるだけで臭いし、汚いし!
──お前みたいなやつに居場所はねえんだよ。一生引きこもってママのミルクでも吸ってな! ギャハハハハ!!
ああ、気に食わねえ……そうか。こいつらはみんな気に食わねえことに支配されて生きてきたんだ。それに抗う力がなかったから、求めたんだ。
──変わりたい。死んでもいいから、変わりたい。
ああ、だけどな、それの方が気に食わねえ。お前たちは真っ当な人間を捨てたんだ。「奪われた」んじゃなくて「捨てた」んだ。俺や他のエンプティみたいに人生を奪われたんじゃなくて、クソみたいな人生を変えるためにクソみてえにここへ死にに来たんだ。それが本当に気に食わねえ。
「キ……に……くわ……ねえ……」
許せねえ。なんで人が死ぬ。なんでお前らのその汚い力で死ななきゃならねえ。俺たちは人間で化け物なんかじゃない。人だ。人生を持った命だったんだ。その人生を終わらせ、終わりのない地獄を見せるテメエらを俺は許せねぇ……ッ!!
「グッ……お……おおお……っ!!」
起こせ起こせ起こせ、覚めろ覚めろ覚めろ……っ! そうだ、これはお前らのせいだ……俺はなりたくてなったんじゃない……これはお前らのせいだから……なァッ……!!
爆発する感情。呼応する反射機能。目覚める隠されし、その力。
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