第3話 新たなる日常
少しずつ夏の匂いは去り、秋の風が顔を出すようになった。オープンキャンパスのこの時期は高校生たちがウチの大学にも大勢やってくる。どいつもこいつも希望ってものを顔に引っ付けていて正直見るに耐えない。
今更かも知れないが俺は自他ともに認める捻くれ者だ。道端で食い物をせがむホームレスがいれば蹴りを食らわして見捨てるし、ガキが舐めた真似をしたら痛い目に遭わせて二度と顔を出さないようにしてやる。いつだってそうやって人に強く当たってきた。
だからといって別に人間全体が嫌いとかそういう訳じゃない。好きなやつもいれば嫌いなやつもいる。そこに関しては普通の人間の考えと大差ないはずだ。
俺は甘えや身の程を弁えないことが嫌いなだけだ。ホームレスになり、更生の道を探すこともなく人から食い物をもらって生きている奴には景気付けを、年相応の対応をせず生意気に背伸びをする奴には鉄槌を下すだけ。痛めつけることや俺自身が他の誰かより優位に立つことが楽しいなんて気は微塵も感じたことがない。
俺は覚悟を持って生きている。こうやって世間一般から見てみりゃクズな行為を何度もしてきた身だ。やるからにはやられても文句は言えない。
それと同時に自分の弱さもちゃんと分かっているつもりだ。俺は信念を曲げないなんて強いことは言えない。覚悟があると言っても命の危機が迫るようなことがあれば命乞いをするだろう。結局は自分が可愛くて仕方がないんだ。だけど俺はこれからもクズをやっていくに決まっている。
何故か? それはその時になるまで俺はやりたいようにやるだけだからだ。悔い改めることはない。そうなったらその時。それ以降何かあっても過ぎたことはどうでもいいし。
「あ、オハヨっす! ジン先輩!!」
「おう、マキタ。おはよう」
人懐っこい声で挨拶してきたこいつは
「ジン先輩は今日どうしたんっすか? 別に講義入ってなかったっすよね?」
「今日はサークルの勧誘に出ろって言われたからきたんだよ。ほら、ああいう」
武道場の前で正拳突きを繰り返す大男たち。あいつらはウチのサークルのメンバーだ。しかしその風貌と行動から大半の高校生たちは引いて逃げるように去ってしまう。やめておけと言ったのに、あいつらは聞く耳を持たずに永遠と正拳突きを二時間ほどぶっ通しで続けているのだ。馬鹿だ。
「先輩はやらなくていいんすか?」
「あんな馬鹿達と俺を一緒にすんな。やってらんねえから今から帰ろってな」
「さすが先輩っす! 先輩の行動が間違ってることなんてないっすから!」
それは口に出してはいないが間接的にあいつらを馬鹿と言ったのと同じだぞマキタ。
「お前はどうしたんだよ? 一年は勧誘メンバーじゃねえし、普通に講義か?」
歩く俺の横にピッタリとマキタがついてくる。まるで子犬のようだな。身長も150センチあるかどうかってところだし、まだまだ幼さを残した童顔が一層保護欲を掻き立てるというか。
「そのはずだったんすけど、休講になっちゃったんすよ。講師のカシワギ先生が急な体調不良を起こしたみたいで」
「へぇ、カシワギっつったら鉄仮面ってあだ名がつけられるほどお堅い歴史の先生だろ? よっぽど不調じゃねえと休まないんじゃねえか?」
「どんな具合かは分かんねえっす。ま、とにかく今日は休講になっちまって途方に暮れてたってところっす。でも、ちょうどよかったっす」
マキタは俺の前に出てきて道を塞ぐ。そして満面の笑みを見せながら背伸びをして俺の顔に顔を近づけてきた。
「な、なんだよ?」
「お昼、一緒にどうっすか? 最寄りの駅の近くに新しいカフェできたんですけど、評判いいらしいっすよ」
……全く、こいつは何で俺みたいなクズにこうも近づいてくるんだか。俺の悪名は学校中に広まってるはずなんだけどな。
「……お前が行きてえなら、そうしろ。俺も行ってやっから」
「やったー!! んじゃ、行きましょう!」
マキタは子供のようにはしゃいで走って校内を出ていく。通りかかった高校生たちも怪訝な視線を向けていた。なんでここに子供がいるんだというふうに。
「はぁ……敵わねえな」
俺はゆっくりとした足取りでマキタの後を追うのだった。
◆◆◆
マキタは最低限の配慮はできるやつではしゃぎながら去っていったにも関わらず校門で待っていた。これでそのままカフェに直行していたら俺はどこか分からず家に帰るところだったが。
はしゃぎすぎたことを軽く謝り、マキタは俺を案内した。この町は都市部に近いこともあって中々の人通りのある交差点が多い。駅の近くは開発が進み、脱皮を繰り返す蛇のような早さで店が入れ替わる。今から行くカフェもそれの一つになるんだろうななんて考えながら俺は歩いていた。
「うわ、またっすか。例の怪死事件」
「……おい、マキタ。ながらスマホは止めろっていっつも言ってんだろ。危ねえから」
「あ、はい! すみませんっす!」
さっとスマホをポケットに入れ込んでマキタは前を向いて歩く。
「まあいい。で、その怪死事件が起きたのはどこだ?」
「え? 隣町の
「……ただ自分の家の近くじゃなけりゃいいなって思っただけだよ」
……そう。あれからもう1ヶ月が過ぎた。まだ怪死事件は続いている。つまり宇宙人はまだまだいるということだ。この体にも少しずつは慣れてきたが、未だに慣れないことは多い。
「いやー、このサンドイッチ美味いっすね!」
マキタは女の子らしからぬ大口でサンドイッチを頬張る。もう少しお淑やかにしろと言いたいところだが、これもこいつのいいところの一つだろうと思い、特に口出しはしていない。
「でも、ジン先輩ってこんな少食でしたっけ? 武術はよく食って鍛えるが一番だって言ってたっすよね?」
不思議そうな顔でマキタは俺の前に置かれたロールパン2個を見る。俺の頼んだメニューはロールパン2個とコーヒーのみ。昔の俺ならサンドイッチとビーフシチューにスムージーをつけていただろう。
慣れないことの1つは食事だ。もう死んでるらしい俺は飲まず食わずでも生活に支障をきたすことはなくなった。
実際にこうやって飯を食うのは5日ぶりだ。特に腹も空かないし、喉も乾かない。ただ何も摂取しないと少しずつ苛立ちが溜まることが分かった。エルゼ曰く、‘魂が汚れていく’らしい。だから最低限の食事は取るべきだと釘を刺されている。
とりあえず今回のように誘われたら食事を取る、といったスタンスで摂取しているのが現状だ。なんせ体の中身がないのだから消化や吸収といったサイクルがなされない上に排泄も行われない。つまり食ったり飲んだらしたものがどこに行っているのか俺には分からないのだ。気味がわるいために俺はあまり食事を好まなくなってしまった。
「いや、大事なのは食うことと絞ることだ。俺は最近肉がついてきたから減量するために食事制限をかけてるんだよ」
「えー? でも学校でも全然食べてるとこ見ないっすよ? 流石に食べないのはまずいんじゃないすか?」
やっぱりこいつは俺のことをよく見ているな。……ストーカーでもされてないだろうか?
「最低限は食ってるから安心しろ」
そう言って俺はコーヒーを啜る。──ああ、何も感じない。コーヒーの醍醐味である熱さも、渋みも、何も感じない。ただあるのは側から見てコーヒーを飲んでいる普通の人間というその外観のみ。虚しくて仕方がない──
「ゴフッ!?」
「うわわ、大丈夫すか!?」
「ああ……大丈夫、大丈夫……」
吹き出したコーヒーを手で拭き取る。俺の体は既に人間の常識では考えられないことができる。今回は俺の手がティッシュなんかとは比べ物にならないほど吸収率の高い材質に構成されてコーヒーの色素を吸い取った。
いや、すごいけど今はそんなことどうでもいい。何でアイツが外にいんだよ!? それになんか手振ってるし!!
「すまん、マキタ。ちょっと急用だ。お代は置いとくから払っといてくれ」
「え? ちょっと! 先輩!!」
俺はマキタの呼びかけを無視して店を出る。店を出てすぐにアイツに目配りし、店から離れることにした。
「なんで電話かけてこないんだよ!! 教えただろ!?」
「だってよく分かんないんだもん。それよりもアンタの意識を感じ取って自分から向かった方が早かったから」
「……エルゼ。お前のその姿はこの町じゃ目立ち過ぎんだよ。外国人ってだけでも目立つのに」
そう。俺はまだエルゼと交流を持っている。というよりも絶賛継続中だ。俺はあの後エルゼの下に付いた。そしてエンプティのいろはを教えてもらい、この体になっても日常生活を送れるようになったのだ。しかし、もちろん対価はある。こいつが善意で誰かに力を貸すことなど決してない。
「──出たんだな。宇宙人」
「ええ、出たわ。今回も狩りの成果が出ることを期待してるわ」
「……お前はいいかもしれないけどな、こっちはいつ死ぬかも分からない中、ビクビクしながら戦ってんだぜ? もうちょい力貸してくれてもいいんじゃねえかな?」
俺はエルゼの目的である宇宙人殲滅に協力している。意外にも乗り気なのだが、それにはいくつか理由がある。
まず、こいつに力を貸していればしばらくはこいつに殺されることはないだろうということ。エルゼは味方のように見えるが、実態はいつ爆発するか分からない天災の凝縮体のようなものだ。別に情があって俺を助けてくれるわけじゃない。自然のような気まぐれでこの前は命拾いしただけだ。
そしてエンプティになってから分かるようになったのだが、こいつはダメだ。格が違う。例え今の俺が100人束になってかかっても瞬殺されるだろう。それならこいつの望みを叶えるために戦ったほうが生存率が高いと踏んだからだ。
もう一つは単純に宇宙人が気に食わないからだ。今も続く怪死事件。正体はもちろん宇宙人のあの管──搾臓器というそうだ。あれに刺され、体内の内臓を全て抜き取られることによって死亡した人たちは既に公に出てるだけでも20件近くある。エルゼから聞いたことだが、エンプティは誰しもがなるわけではなく、搾臓された人間の1割にも満たない限られた者のみがエンプティとして生まれ変わるのだとか。
理不尽に人をやめさせられ、死なずにいる人間は俺を含めて何人いるか。俺は死にたいわけではないが、終わりがないというのは限りなくキツい。人間としての感性は残されているため終わりが見えない人生など絶望でしかないのだ。
そうやって理不尽に人を殺し、生まれ変わらせる宇宙人は俺の最も嫌うものの性質を凝縮したようなものだ。許せるはずがない。正義感とかそういうものは微塵も感じちゃいねえが、アイツらをぶっ潰したいという気持ちは変わらない。
「アンタが死にそうなら頑張れとだけ言ってあげるわ。ほら、行きましょ?」
エルゼはヒールの音を鳴らしながら歩いていく。早歩きに見えないのに異常に進みが早いのは何故なのだろうか。
「……ま、助けられた身だしな。俺一人でもやってやるさ」
拳を握り締めて俺も足を踏み出す。気に食わないやつを殴りにいくために。
◆◆◆
エルゼが向かった先はまさかの地下鉄だった。
「おい、ここに宇宙人がいるのか?」
「いないわ。これで移動するのよ」
「は?」
エルゼは自慢げに停車している電車を指差した。
マジか。電話のかけ方も分からないやつが移動手段に電車を使うとか言い出した。これは舐めているとしか言えない。切符の買い方すら知らねえだろこいつ。
「ていうかお前と俺なら走った方が早いんじゃねえのか?」
「そんなことしたら変な男がいるって誰かに見られるじゃない。それにアンタだって疲れるでしょ?」
あくまでも自分は変な女だとは思っていないようだな。逆に俺は変な男だと。絶対こいつのほうが変だよな。それにこういうところは常識を守るのか。
「……確かに噂を広められると面倒だ。大人しく電車乗るか。ほら、着いてこい。場所さえ知ってるならそこまで案内してやるから」
俺がさっさと移動しようとすると。エルゼは立ち止まったまま膨れ顔で俺を見ていた。
「どした? ガキ?」
「なんでアンタがリードしてんのよ。アンタは私の
言っておくが俺はエルゼの僕ではない。あくまで協力関係にあるというだけだ。
「つってもお前、電車の乗り方分かんの? え? 電話も使えねえやつが電車になんて乗れるはずねえよなぁ?」
「っ……! 分かるもん! こうやって乗るんでしょ!?」
全てを投げ出したかのように叫ぶとエルゼは突然ホームを走り出した。
「は!? え!? ちょ、ちょっと待て!」
俺は上り側に向かって走り出したエルゼを追いかけるために人目を気にせず走る。
「ちょ……! 速すぎだろっ……!」
もうこの時点で目立っちまってんじゃねえか! アイツに追いつくためにホームを走ってる俺もやべーやつだが、アイツはガキで外国人だぞ。しかも履いてるのヒール! どうやったらあんなのでここまで速く走れるんだよ!?
「おい! エルゼー! 待ちやがれええ!」
はたから見たら幼女を追いかける男じゃねえか俺!? やばい! 駅なんてネットのおもちゃの宝箱みたいなもんだぜ!? このままじゃ変態ロリコン爆走野郎なんて名前がつけられかねない! さっさと捕まえねえと一生人前に出れなくなっちまうかもしれねえ!
「ほら! 見なさい! 乗ったわよーー!!」
結局追いつくことができず人混みにエルゼが隠れたかと思うと、ものすごい速さでエルゼの声が近づいてくる。まさか……。
「やっぱりかテメェーー!? 確かに乗ってるけど、走ってる電車の上に乗るやつがいるかーー!!」
エルゼは特急電車の上に乗っていた。風をモロに受けているはずなのにイライラするほど爽やかな笑顔を見せながら俺に向かって手を振っている。
俺はもうムカついてなんとしてでもこいつを懲らしめてやろうと思った。すると俺の体は勝手に動く。向かってくる特急電車が俺の目の前ですれ違う間際、黄色線の手前で足がバネのように縮み、そしてその反発のまま電車の上に飛び乗った。
上に乗ることを許さないと言わんばかりのものすごい突風が体を叩きつける。しかし風が来てるということは分かるが、全て透かすように俺の後ろへと気流を変えてゆく。
俺は少し荒い足取りで進んでいき、エルゼの腕を握った。
「え、ちょっと、何すんのよ!」
「俺はお前に何してんだよって言いてえよ! てか今言ったよ! とにかくこっから飛び降りるぞ!」
「は!? 何言ってんのよ!? アンタ、元人間なのよ! 怖くないの!?」
「……怖えよ。だけど、なんでだろな。なんか、体が行けって言ってる」
足に力が入る。俺の意識とは関係なく、下に見える河川敷へと狙いは定められている。高さは目測で約20メートルほど。常人なら飛び降り自殺だが──今の俺は常人ではない。
「よし、掴まれよエルゼ! うああああ!」
「ちょ、待って……! まだ心の準備が……きゃあああ!?」
エルゼを抱えて俺は電車の上から飛び降りる。
高い。高校の頃よく昼寝をした屋上から飛び降りたらどうなるのだろうと考えていたが、それをいま俺は実行している。風切り音を鳴らしながら二人の体が自由落下する。加速、加速、加速──減速。
水面直近まで落下。衝突寸前。急激なブレーキがかけられる。水面を沿うヘリコプターのプロペラが起こす波紋のように俺の下で水が跳ねている。落ちることなく、重力に逆らってエルゼを抱える俺の体は浮いていた。
「……今の声なに? エルゼちゃん?」
だが驚くべきことはそんなことじゃない。これは地球の自転が逆転するくらいの衝撃だ。
エルゼが悲鳴を上げた。あの、あのエルゼがだ。涼しい顔で宇宙人の心臓を握り潰し、弱者が苦しむ姿を見て愉しむような
「な、なんのことかしら? それよりもアンタのあの情けない声はなんなのよ!」
「俺のは気合いを入れるための雄叫びだ。だけどお前のは違ったよなあ? 『きゃあああ!』なぁんて可愛らしい悲鳴が耳元で聞こえたんだけどなあ?」
「風を切る音じゃないの?」
顔を真っ赤にしながらエルゼはしらばっくれる。熱を感じる機能は俺の体に存在しないはずなのに、どこか懐かしい温かみが胸の奥に伝わった気がした。
「……お前も可愛いとこあるんだな。見直したよ」
「はぁ!? 見直したってなによ! 私はいつも可愛いでしょ!?」
そういう強がりなところとか、さっきみたいな女の子らしい悲鳴とか(本人は否定してるが)がな。普段のお前は怖くて敵わん。
「はいはい、可愛いですよ。エルゼ様」
エルゼが降ろせと動くので俺は水面に向かって降ろしてあげた。何食わぬ顔で降ろしたけど、俺ら水面の上に浮かんでるんだよな。
しかし、意外とこいつは人間らしい感性や配慮というものは知っているのかもしれない。だけど結局は傍若無人で自分を中心にして世界を回しているやつなんだろう。だって馬鹿にされてすぐに突拍子もない行動をする奴だもんな……ん?
「……なあ、エルゼ。お前、電車に乗ってどこに行くつもりだったんだ?」
「え? アカタノとかいうとこだけど?」
「……なあ、エルゼ。もしかして電車に乗ったのって案内表示版に上りって書いてあったからか?」
「うん! だって地図を見たら上にあったもん。この電車は上に向かってたんでしょ?」
…………スゥゥ──…………ハァ…………よし。
「……あのな? エルゼ。電車っていうのはな、『上り』と『下り』ってのがあるんだ。それは終点駅から起点駅に向かうのを上りといって、起点駅から終点駅に向かうのを下りっていうんだ」
「そうなのね。初めて知ったわ」
「馬鹿野郎!! 今ので気づけ!! 上りだからって上の方向に向かうわけじゃねえんだよっ! 赤楽町は地図で見りゃ確かに上にあるが下り方面なんだよっ! つまり俺たちは逆に向かって移動したんだっ!!」
ああもう!! 次からはぜってーこいつにはついてかねえ!! 見逃したら日本の端から端まで振り回されそうだ!
「あら、そうなの?」
「もうちょっと自分のしでかした失態に責任を感じてくれませんかねえ!?」
聞く耳も持たずエルゼは急に目を閉じる。そしてゆっくりと目を開けると真剣な表情をしてこう言った。
「……でも、ここにもいるわよ。宇宙人」
「……俺が狩るべき宇宙人は赤楽のやつだよな?」
「いいえ、宇宙人は皆殺しよ。私の計算通りね。ここに宇宙人がいるから上に乗ったのよ」
絶対違うし、上りと電車の上でもかけてるつもりなのだろうか。しかしこいつの探知能力はGPS並みだ。確実にいるのだろう。それに──こいつに逆らうことの方が宇宙人と戦うよりも100倍リスクが高い。
「……分かった。とりあえずここのやつを狩る。だけどお前はもう俺から離れるな。俺がお前について行けるくらいのスピードで移動してくれ」
流石に次も暴走されては宇宙人を狩るどころか、俺のメンタルはこいつの奔放さに破壊されてしまう。せめて軽く走るくらいにとどめてほしい。それでも短距離ランナーのスピードくらいは出るのだろうが。
「仕方ないわね。アンタがやる気を出したことの褒美として軽く走るくらいで許してやるわ」
……はぁ、こいつの軽くは人間の全力よりも速いんだよなあ……。
宣言通り軽く走り出したエルゼは一瞬で川沿いの堤防の上に立っていた。俺はこの約束をすぐ忘れられないだろうかと心配になりつつも必死について行こうと決意を固めたのだった。
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