第13話 ストレスは身体に毒です

「……どうしよう」


 魔王城の自室で俺は頭を抱えていた。


 数週間前に異世界召喚をされ、その後、すぐに敵側の魔王側から勇者対策として更に召喚された俺はその時に未来のハーレムメンバー? の暴力系でしょうがの白虎、自身の指を食い千切るなどの自傷行為で性的興奮を覚えるクレイジーサイコパス鶏女の朱雀とはぐれてしまったのだ。


 ……背に腹は代えられない。


『TO SCAN! SUMMON! GENBU!』


「…………ねむっ」


「よ、よろしくお願いします!」


 召喚されたロリっ娘の双子に俺は頭を下げる。


「お願いします! 俺のヒロインになって下さい!」


 頭を下げることでヒロインが手に入るならいくらでも下げてやる! 


「やだ」


「い、いいですよ」


 なにっ⁉


「今受け入れてくれたのってどっち⁉」


「わ、私です」


 これは奇跡か! 蛇女の改めマンタ(仮)がヒロインになってくれた!


「ありがとう! ありがとうよぅ~! ハーレム候補が二人も行方不明になるし、魔王城の女の子に声かけても無視されるし、ヒロインの不在はヒーローにとってあってはならないことなんだよぅ~!」


「い、いえ! お役に立てて嬉しいです!」


「なんて眩しい笑顔のマンタちゃん! 俺の好みとは少し離れるけれど、優秀なロリっ娘だ! あと数年もすればバインバインの美少女になってくれることを願うよ!」


「す、すみません。それは無理です」


「……え? 無理? なんで? お母さんが貧乳だったから?」


「そ、そういう訳ではなく……わ、私、男の娘なので」


「ぶち殺すぞっ、オラァァァァっ! むか喜びさせやがってよぉぉぉぉっ!」


「ひゃ、ひゃいっ! ご、ごめんなさい!」


 このクソガキ、こんななりをしているくせに男とか喧嘩売ってんのか! 蹴り殺すぞ! 俺の物語に男の娘はいらねぇんだよ!


「そもそも何で黙っていたんだよ、そんな重大なこと!」


「ひゃ、ひゃいっ! だ、だって……だってぇ……その〜……」


「男なんだろう! ぐずぐずするなよ! 胸のエンジンにはよ火でも付けんかい!」


「ご、ごめんなさい! ……で、でも普通自己紹介の時に自分の性別とか言わないです……よね? 『金剛仁、男です』とか……」


 …………。


「だ、だって自分のことを『私』って──」


「社会人なら仕事相手に対して敬意を持って接するべきです。その時の一人称は『自分』か『私』になります。私は後者を選んだだけですので……」


 …………。


「そ、それに玄武の蛇は男を表しているのは一般知識ですし、わざわざこの程度の知識をひけらかすような恥ずかしいマネをしたくないといいますか……」


 …………。


「だ、だって俺のヒロインになるって──」


「男の娘はヒロイン枠です。それに、女体は抱き飽きたので」


「……え?」


「女体は抱き飽きたので」


「聞き違いじゃねぇ! え⁉ どういうこと⁉」


 この蛇女改めマンタ改め蛇男、まさかスッゲ―モテていんのか⁉


「カードの時はいつも片割れと繋がっているので女体には飽きたんですよ」


「はいっ⁉ だって双子でしょう⁉ つまり近親相姦だぞそれ!」


「だってもともと玄武って亀はメスしかいないから、オスの蛇と交尾しなければ子孫を残せないという設定なので……そもそも神話なんて近親相姦とか当たり前にありますよ? 文明レベルが中世止まりのこの世界でも貴族とかなら普通にあると思いますし」


 なにそのエロゲーみたいな世界……地球でも昔は普通にあったのか。


 うぅ~ん、なんだが蛇男と話しているといろいろ勉強を受けているみたいで頭が痛くなってきた……待てよ……。


「じゃあ、俺のベッドでいつの間にかに寝ているあの亀娘って……」


「私の姉妹兼お嫁さんです」


「じゃあ、俺のハーレムに加わる可能性は……」


「1000%ありえません」


「くそぉぉぉぉっ! 今回で俺のハーレムメンバー候補がまた二人減ったぁぁぁぁっ!」


これで残りの希望は最後の一つ。未だ人間態を見ていない青龍だけになった。もしこれで青龍がヒロインになってくれなかったら俺はもうお終いだ! 


 この異世界で孤独に童貞のまま死ぬんだぁぁぁぁ~! 童貞は風俗とかではなくイチャラブで捨てるのが俺の夢の一つでもあるんだぁぁぁぁ~! 


「用事が済んだのなら戻りますね」


 俺が真剣に今後のことで悩んでいるのに玄武の二人はカードへと戻ると俺の懐へと入っていく。つまり、二人はまた繋がったということだ。


 この圧倒的な敗北感に潰されそうな俺は思わず膝をついてしまった。


 やばい、無意識に涙が出てきた……。


 さっさと青龍を召喚して懇願すればいいのは自分でも分かっている。だがしかし、これで断られたら俺はもう本当に孤独だ。孤独なヒーローも格好いいが俺は可愛いヒロインが欲しい!


 気付けば、俺はベッドにダイブして枕に顔を埋めていた。


「うわあぁぁぁぁ~! ヒロイン欲しいよぉぉぉぉ~! ラッキースケベしたいよぉぉぉぉ~! 異世界に来たんだからチョロインの一人や二人は普通はいるだろうがよぉぉぉぉ~!」


 他の部屋の迷惑にならないように枕で音量調節するくらい気が使える俺は間違っていないはずだ! ならば、どういうことだ! この世界が悪いのか!


 その時だった。


 部屋の扉が無造作に開かれ、ぞろぞろと魔王城の兵隊が雪崩のように部屋の中へと押し寄せてきた!


「え? なになに⁉」


「コンゴウジン! 貴様に魔王様から書状を承った!」


 兵隊の隊長らしき人物から渡された書状を恐る恐る読む。そこには一言。


『懲戒解雇』


 とだけ書かれていた。


「……どゆこと?」


 現状を呑み込めない俺が隊長に聞くと、

「貴様の度重なる悪行の数々! その結果、魔王様はストレス性の胃潰瘍になってしまわれた! 貴様がこれ以上いても魔王城の損失になりかねん! 明日までには荷物を持って魔王城から出て行け!」


「テメェらの親玉が勝手に俺を召喚しといて何だその言いぐさは! しかも何だよ、懲戒解雇って! ファンタジー世界でそんな言葉聞いたことねぇよ!」


「黙れ! いろいろ考慮しても貴様がやりすぎたんだ! 考えてみろ! たった一人の人間によって、魔王様がストレス性の胃潰瘍ってどういうことだよ!」


「こっちが聞きてぇよ!」


 俺は変身しようと懐のカードを取り出そうと手を掛けた時、


「捕縛しろぉぉぉぉ!」


 部屋を埋め尽くす兵隊たちによって俺はあっと言う間に身動きが取れないように拘束されてしまった。


「痛い痛い痛い! 数の暴力だ! 魔族がたった一人の人間によってたかって恥ずかしくないのか!」


「貴様の世界なら、正義のためなら数の暴力は許されているんだろう? そいつをさっさとつまみ出せ!」

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