第12話 魔王幹部講習会
魔王幹部講習会とは、魔王軍の更なる発展・成長を目的とした理念に則り行われる幹部候補生全員が受講することを義務付けられている講習会である。
部下を導く知恵やチームワークを学んでみんな仲良く楽しく有意義に、打倒勇者を目指そう!
──魔王幹部講習会パンフレットより一部抜粋。
魔王の間にて。
「魔王様」
「バトラー、なに用だ?」
先日に行われた邪悪レベル無限の奇怪な巨人との戦闘により破損した魔王城の修繕箇所や城下への被害報告書に目を通していた魔王は、背後からの声に耳を傾ける。
「魔王幹部講習会でのことでご報告があります」
「なんだ? 言ってみろ」
「はい。実は講習会に参加した幹部候補生や講師からおびただしい量のクレームが届いておりまして、念のため魔王様のお耳に入れてもらおうと思い報告させていただきました」
「おびただしい量のクレーム? 今回の講習内容は特にこれと言って変更点はないはずだが……」
魔王は訝し気に眉をひそめる。
「いえ……その……」
「なんだ、心当たりがあるのなら言ってみろ」
セバスは口ごもりながらも講習会の一部始終を語り始めた。
「じ、実は……」
「ねぇねぇ、そこのサキュバスちゃん。俺とお友達になろうよ。俺、性欲には自信あるよ!」
「…………」
「ねぇねぇ、そこの吸血鬼ちゃん。俺とお友達になろうよ。俺、血液の味には自信あるよ!」
「…………」
「ねぇねぇ、そこの悪魔っ娘ちゃん。俺とお友達になろうよ。俺、欲望の大きさには自信があるよ!」
「…………」
「ちぇっ、つまんねーの! こっちはパンフレットに書かれている通りに仲良くしようとしているのに、全員ガン無視だよ。俺、可哀そうじゃない? ね、せんせー」
地球でいうところの大学(行っていない)の教室みたいな部屋で魔王幹部講習会を受けていた俺は、講師を務める
「あ、あのう……コンゴウさん」
「はい! 金剛仁です!」
「ここは女性専用の講習室ですよ? コンゴウさんのような男性は隣の部屋なのですが……」
「あっ、この部屋にいる時だけは、心は乙女なので問題ありません。本気を出せば真っ赤な極小ビキニでも着られます」
「それはそれで問題ですよ! 男性なのですから隣の部屋で講習を受けて下さい!」
そんな男だらけの部屋に行って何が楽しいんだ?
小さな希望だった白虎と朱雀が行方不明になった今、とにかく新しいハーレムメンバーが欲しい俺は少々面倒くさいが講師の説得に入る。
「ふふふっ。女性部門の陸上競技で、男が平気でドヤ顔優勝して優勝賞品を根こそぎかっぱらっていくのが当たり前の世界から転移してきた俺にその常識は通用しませんよ」
「……酷い世界ですね。そこまで男尊女卑が激しいとは……」
異世界からやってきた男の俺に、まるで化け物を見るような視線を向ける講師。周りの亜人ちゃんたちからの無言の視線の結構痛い!
「違う違う! これは心が女性ならば見た目が男でも問題ないということだ! 見た目は男、頭脳は女だ!」
「ただのおかまじゃないですか!」
「違う! 俺は女にしか性的興奮を覚えない! つまり、見た目は男、頭脳はレズ娘だ!」
「それ
自分の常識とは異なる世界観に疲労を隠せない講師は呆れたように分かりやすい溜息を吐く。
「もしそれが仮に本当だとしても、その常識はあくまでコンゴウさんの世界の常識ですよね。この世界の常識ではないので、とりあえず出て行ってもらってもいいですか?」
「……クソッ! ロリっ娘に論破された!」
郷に入れば郷に従えみたいなことか! 俺が異世界人に教えたかったことわざだ!
「ちなみに私は魔族なのでコンゴウさんよりも年上ですよ」
くそ~、これが全日本人が夢見る合法ロリ爆乳(牛)娘の実力かぁ~っ! ……合法ロリ?
「せんせー、最後に一つ質問してもいいですか?」
「はい、なんですか?」
「おっぱい出ます?」
「「…………はあああ~」」
つかの間の沈黙の後、どちらが示し合わせた訳でもなく頭を抱えた二人から長い溜息が漏れた。
「なんてバカな男を雇ってしまったのだ、私は」
「魔王様の仰る通りです。もう異世界召喚は永久封印にしましょう。二度も続けて外れでしたので」
「そうだな。もう異世界召喚はこりごりだ……ちなみにだが、他にも何かやらかしていることはあるのか?」
「もちろんあります」
「即答なのか……」
セバスは箇条書きで書かれたメモを読んでいく。
「城内の食堂では、毎日三食を一番高いメニューで注文。支払いの時に魔王様の名前を出して一方的にツケにする。
城内のスライムを魔王様の名前を使って呼び集めて『スライム製 男の夢 おっぱいベッド&おっぱい枕』なるものを制作。量産化する計画を立てており、成功次第自身の立ち上げたブランドの目玉商品として販売する。現在、カラーはブルーのみ。
城下では、『魔王様に選ばれし者』と自身を言いふらしてナンパを頻繁に繰り返す。なお、この時に城内の宝物庫から錬金術の最高峰、賢者の石をただのルビーだと思って持ち出しアクセサリーにしている。
それから──」
「もう嫌だぁ! 聞きたくない聞きたくない! 頭と胃が痛い痛い痛い! 死んじゃう死んじゃう死んじゃうぅ~!」
「ま、魔王様⁉ だ、誰か! 薬師を呼んでくれぇ~! あと最上級の精神魔法を扱える魔法使いも連れてこ―い! はやーくっ!」
一方、その頃。城下町にて。
「おっす、おっちゃん」
「おっ、コンゴウさん! らっしゃい! 今日は何が必要だい?」
「えぇ~と……ドラゴン避けの鈴とかある?」
「そんな熊じゃないんだから。あっ、でもドラゴン避けの壺ならあるよ。今ならおまけに壺の近くに置いておくと笛を吹く人形を付けておくけどいるかい?」
「言い値で買った! 金は後で魔王城に請求しといて。適当に勇者退治で使うとか言えば経費で落ちると思うから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます