第9話 馬刺し


「フワハハハッ! ざまぁみやがれ、このヒャッハー盗賊団め! 貴様ら程度、この俺様が直接手を出すまでもないわ!」


「こ、この野郎……ビビっていたくせに! 獣人の女共に助けてもらっていたくせに!」


 白虎と朱雀によって、荷馬車にあったロープで縛られたヒャッハー盗賊団の一人が怨めしそうに俺を睨み付ける。


 玄武の鎧に身を包んだ絶対防御の俺は、安全を確認して岩陰から身を出すと、


「フワハハハッ! 俺は二人のご主人様だ! つまり、二人の手柄は全て俺の手柄になるってことだ! わかったか、ヒャッハー盗賊団のモブがぁ!」


 ……あれ? どこかでこんな会話をしたような……気のせいか。


 俺は変身を解除すると、全ての女性を魅惑するクールなナイスフェイスを襲われていた女冒険者たちに向ける。


「大丈夫でしたか! 怪我はありませんか! クソっ、俺がもう少し早く着いていれば君たちを怖がらせずに済んだのに!」


 我ながら即興にしては見事な台詞だ。これぞ、憧れた理想のヒーロー像。


「彼女たちがやられる寸前まで茂みでコソコソ待機していた男がよく言えるわね」


「理想の自分を見せる為に他人を危険に晒す。ご主人様ってなかなかの逸材ですよ〜」


「そこのケモノっ娘二人! 今すぐお口にチャックしなさい!」


 たくっ、この二人はろくなことを言わないな。強制的にカードに戻す方法を模索した方がいいかもしれない。


 気を引き締めてクールな顔に戻した俺は、女冒険者たちに向けると、次の瞬間その場に倒れ込む。


「え……え? だ、大丈夫ですか⁉︎」


 女冒険者たちが食いついた。


 さあ、ここからが本番だ。男の……俳優の魅せどころだ!


 俺は抱えてくれた女冒険者に、無理に笑っているような笑顔を浮かべる。


「だ、大丈夫です、よ……ただ、ここ何日も飲まず食わず、な……だけ、で……うぅ……」


「み、みんな! 早く水と食料を出して! この人が死んじゃう!」


 シャアァァァッ! 俺の勝ち! 命の恩人は放っておけないでしょう! 


 いや〜、俺思っていた訳よ。自然になっている木の実よりも、人間が持っている食料の方が旨いに決まっているって! 


 そして、俺が荷馬車を助けた理由はもう一つ。


「ふぅ、ありがとうございます。おかげで助かりました。あなた方は命の恩人です。よろしれば街に着くまで護衛をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 女が四人もいるんだ。交流を図れば、一人くらい親密な関係になれるかもしれない。四人とも顔はまあまあ可愛いけれど、メインヒロインのレベルには及ばないな……まあ、ハーレムメンバーの一人としてカウントすればいいか。


「ごめんなさい。この人数では、全員で馬車に乗れないので無理です」


「……え?」


 このアマ、今なんつった?


「冒険者の皆さーん! 荷物の積み直し終わったので行きましょう! 時間がかかると先方に迷惑がかかってしまうのでー!」


「あっ、御者さん! はーい! 今行きまーす! 


 ありがとうございました、通りすがりの誰かさん! 私たち、もっと鍛えてそっちの二人の獣人さんのように強くなります!」


「いや、ちょっと……」


「ではお元気で! また機会があったらその時はご飯奢りますね!」


 動き始めた荷馬車に次々と乗り込む女冒険者たち。全員が乗り終わると、御者の掛け声を最後に、風のような速さで彼方へと去って行った。そして、


…………は?


「ざっけんじゃねえええぇぇぇッッッ!!!」


 俺は叫んだ。


「せっかく助けてやったんだからもっと豪華な謝礼を寄越せよ! 俺は正義の味方だぞ!」


 すると、ケモノっ娘二人が、


「英雄って言うのは、英雄になろうとした瞬間に失格なのよ」


「見返りを期待したら、それは正義とは言わねぇんですよ〜」


「だまらっしゃい! 今聞きたくない台詞ツートップだわ! クソォォォッ! このまま別れるなら後腐れなく一発ぐらいやらせろよ!」


「「「「「クズだな〜」」」」」


「盗賊のお前らにだけは言われたくねぇよ!」


 盗賊団こいつら、自分の立場を分かっているのか? 今、縛られて動きを封じられているんだぞ。え? これって、俺が完全に舐められているって解釈してオーケー?


「うん〜? あれ〜? 何か近付いてきますよ〜?」


 朱雀が指差す方向に顔を向けると、確かに何かが砂煙を上げながらこっちに向かって来ている。


 近付いて来たそれは、騎士の集団だった。


「我々は王国騎士団の者だ! 通行人から盗賊が暴れていると言う目撃情報が入り馳せ参じた!」


 二〇人くらいの全身甲冑に身を包んだ騎士たちが馬上から偉そうに俺を見下ろす……気に食わねぇ。


 普段の俺なら特に何も思わないだろう。しいて言うならば、馬デカイなぁ〜、くらいだ。だが、今の俺は違う。


 俺は既に怒っている!


「まずは馬から降りよや、コラァ。もしくは、馬上から失礼する、くらい言えねぇのか。王国騎士のくせにそんな教育も受けていねぇのかよ、コラァ」


「貴様ッ、平民のくせに王国騎士を愚弄するつもりか! 名を名乗れ!」


「金剛仁だ! なんか文句あんのか! コラァ!」


「なにっ!? コンゴウジンだと!?  貴様、勇者レンバーから聖剣を強奪して行方をくらませたあのコンゴウジンかっ⁉︎」


「…………………………」


 やっちまったぁぁぁぁぁ! あのバカ勇者、俺のことを国家権力にチクリやがったな! なんて格好悪い勇者だ! 勇者なら自分のケツは自分で拭けよ! なに国家権力に頼ってんだよ! 汚ねぇよ!


「……違う……です」


「もう遅い!」


 なけなしの抵抗は無駄に終わり、俺は騎士団に囲まれてしまった。こうなったらやることは一つ!


「びゃあああああっっっこ! すざああああっっっく! 助けてええええっっっ!」


 騎士団の視線が一瞬、ケモノっ娘二人へ行くが、


「白虎さんどこですかー(棒)? すぐに投降した方がいいですよー(棒)」


「朱雀さん、あなたも出て来た方がいいですよ〜(棒)」


 すぐに俺へと戻った!?


「テメェら! 後で覚えていやがれ! 和姦の味方もやる時はやるぞ! 勝手にヘタレ主人公扱いしたらエラいめにあうぞ! いいのか!?」


 俺の声が聞こえているはずなのに、白虎は口笛を吹いて明後日の方向を向いている。


 朱雀に関してはどこかウキウキしているというか、ワクワクしているというか……逆効果?


此奴こやつを引っ捕らえよ! 殺すのは聖剣の在処を吐かせた後でも遅くはない!」

「うわああああああっっっ!! 守って玄武ぅぅぅっ!」


『TO SCAN! PUT ON! GENBU! ERROR! LACK OF ENERGY!』


「盗賊戦の時に無駄に変身しなければ良かったぁぁぁっっっ! なら、青龍ぅぅぅっっっ!」


『TO SCAN! PUT ON! SEIRYUU!』


「ヨッシャー! 勇者をも倒した俺の力を見せてやる! かかってこいやぁ! 雑魚騎士団! 


 テメェらの馬、全部馬刺しにして食ってやるらぁぁぁぁぁっっっ!!!」

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