第8話 お約束は守る為にあるんです! 

 今回の話は少しグロいですが、ご了承下さい。


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「え〜と、朱雀さん。つまり、あなたは激痛が好きなドMだと?」


「はい〜、そうですよ〜。いくら身体を切り取っても勝手に再生するので、私は食べ放題ですよ〜。私の身体、鶏肉の味がして美味しいですよ〜。おひとついかがですか〜?」


「限度がある! 男心をくすぐるMにしても限度がある!」


 俺はSかMかで問われればおそらくSだろう。


 自宅のコレクションのジャンルに明らかな偏りがあるし、綺麗なお姉さんにイジメられたいM男の気持ちを理解できたことがない。


「私の気持ちが少しは分かったかしら?」


 溜息を吐く白虎は疲れたようにぐったりとしている。


「朱雀ったら、毎回毎回自分を食べさせようとしてくるのよ。あっ、ほら」


「え?」


 ムシャムシャムシャ──。


 朱雀が噛みちぎった己の指を無駄にエロい顔で食べていた。


「キャアアアアアァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」


 まるで探偵ものにある事件の第一発見者のような甲高い悲鳴をあげた俺は驚きのあまり尻もちをついてしまう! って、何やってんだこの鶏女⁉︎


「まっ、初めて見たらそういう反応よね」


「美味しいですよ〜♡」


「とんだクレイジーサイコパスだ! おっかねぇ!」


 やっば! さっきまであった性欲が一気にぶっ飛んだ! この絵図らは完全にアウトだろ!


 ボウッ──。


「あっ、指が再生した」


 朱雀の手の傷から炎が噴出し、次の瞬間には指が生えていた。そして、それを噛みちぎると、やたらとエロい顔で、


「口移しでど〜ぞ〜♡」


「いらない! そこに指がなければいくらでも舌を入れてやる!」


「なら、口移しする際に私の舌を噛みちぎっていいですよ〜」


「舌は噛みちぎるものじゃない! 絡め合ったり、舐め合ったりするものだ!」


「いや、食べたり話したりする為のものでしょう」


 既にこの状況に慣れているのか。白虎の冷静なツッコミを右耳から左耳に通した俺は、変態やドMという言葉で済ませてはいけない鶏女に恐怖すら覚えていた。


「す、朱雀さん……」


「うん〜? なんですか〜?」


 ムシャムシャムシャ──ボウッ──。


「と、とりあえず空から森を見回してもらってもよろしいでしょうか?」


 ムシャムシャムシャ──ボウッ──。


「ぼ、僕、お肉よりも木の実が食べたい

な〜、なんて……」


 ムシャムシャムシャ──ボウッ──。


「そうなんですか〜? いいですよ〜」


 朱雀は鳥の姿に変身すると、力強く羽ばたいて空へと舞って行った。そのことを確認した俺は、


「びゃっっっこぉ〜! こわかったよぉ〜! お前が全然まともな女に見えたよぉ〜!」


 盛大に泣き喚きながら白虎に抱きついた、が。


「私は元々まともな女だ! 泣いているフリして胸に顔を埋めるな!」


「ぶふっ!」


 ちっ、白虎め。俺の心を読みやがって! だが、これだけは言わせてもらう!


「まともな女なら垂直落下式のブレーンバスターなんかやんねーよ!」


「ご主人様〜ご主人様〜」


「ひ、ひゃっい! な、なんでひょうか朱雀さん!」


 人間の姿に戻った朱雀が空から降りてきた。


「あっちの方に実が成っている木がありましたよ〜。そして、反対の方角では〜、森を抜けた辺りに、いかにもヒャッハーしている人たちが荷馬車を襲っていましたよ〜。ご主人様、ヒーローになりたいって言っていましたけれど、どうします〜?」


「荷馬車に直行だ! 白虎!」


「了解! あんたを見直したわ!」


 動物の姿に変身した白虎に跨り、俺たちは襲撃現場へと駆け出した。





「ヒャッハー! 持ち物と有金全部置いて行け! そうすれば命だけは見逃してやる!」


 どこかで見たことあるような、色とりどりのモヒカンをした大勢の悪人顔の男たちがそれぞれの武器を手に荷馬車を取り囲んでいた。


「冒険者の皆さん、お願いします!」 


 いつでも逃げられるように、馬の手綱を持ちながら御者の男が叫ぶ。


 積荷スペースで待機していた冒険者たちが飛び降り、襲撃してきた盗賊たちと対峙する。


 盗賊たちの数は一〇人程度、それに対して冒険者たちの数はたったの四人。


 そこには倍以上の数の暴力が存在し、言っては悪いが四人とも女だ。誰の目から見ても圧倒的不利なのは分かる。


 二つの勢力の戦いが始まり数分が経つ頃。

 冒険者たちは全員捕まって縄で縛られてしまった。


「さあ、御者さんよぉ、命が欲しかったら分かるよなぁ」


「お頭ぁ、この女冒険者たち、一番いい女はお頭に残しておくんで残りの三人は俺たちで遊んでいいスかー?」


「おう、好きにしろ」


「い、いやっ……やめて──」


「おいおい、冒険者が随分しおらしくなったじゃねぇか。まっ、そっちの方が盛り上がるけどよ」


 下っ端の一人が捕らえた冒険者の身体に触れようとしたその時、


「和姦以外は許さない、正義の味方! 俺、参上ぉぉぉ!」


 タイミングよく駆けつけた生身の俺がカッコイイ台詞と共に、下っ端の盗賊に跳び蹴りをかました。


「な、何者だっ⁉︎」


「…………」


 ぞろぞろと俺を囲む盗賊たちを前に、俺は予め考えていた決めポーズをとりながら、これまた予め考えていたヒーローネームを口にする。


「異世界からやってきた正義の味方! 皆は俺を──」


「野郎ども、やっちまえ!」


「聞いてきたのはお前だろうがぁぁぁ!! うわあああああっっっ!! まずは名乗りと変身をさせてぇぇぇっっっ!!」


 生身で戦ってからの変身が等身大ヒーローのお約束でしょうが!


 これだから「名乗りをしている間に攻撃しろよwww」とかまともにツッコム西洋文化は気にくわん! 

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