第7話 すーざくちゃ〜ん

  翌朝。


「で、本当に良かったの? 泉の女神を返しちゃって」


「だって、消費するエネルギーを考えたら、流石に一晩ずっと見張っていられないだろ? 俺、しっかり寝ないと駄目人間だし」


「寝なくても駄目人間でしょうが」


 俺が昨日感じた仲間意識はリセットされたらしい。


「白虎、そこの木の影に隠れとけ。お前のことだから、多分また泉の女神を怒らせると思う」


「りょーかーい」


 白虎が隠れたことを確認した俺は、そこら辺に落ちている手頃な石を泉へと放り投げる。

 

 そして、ピカッと現れる泉の女神様。


「昨日のことは全部チャラにしよう。気絶したあんたに何もせずに泉に戻したんだ。川じゃないけど水に流そう」


「…………あなたが落としたのは、この金の石ですか? それとも、銀の石ですか?」


「ただの石でーす」


「正直者のあなたには、この金の石と銀の石をあげましょう」


「あざーす」


 ぶくぶくぶく、と沈んで行く泉の女神を見送り、


「な?」


「何が?」


 ドヤ顔を白虎に向けたが、何も理解できなかったらしい。


 やれやれ、と俺は呟くと、さっきと同じように落ちている石を泉に放り投げる。


「あなたが落としたのは、この金の石ですか? それとも、銀の石ですか?」


「ただの石でーす」


「正直者のあなたには、この金の石と銀の石をあげましょう」


「あざーす」


 ぶくぶくぶく。


「な?」


「だから何が⁉︎」


「ノーリスク・ハイリターン!」


「は?」


 相変わらず理解していないようなので、天才の俺が懇切丁寧に説明しよう。


「つまり、この行為を繰り返せばタダで金銀が手に入る! これらを街へ売りに行けば通貨が手に入る! 


 俺、大金持ち! 俺、生活に余裕ができる! 俺、趣味で変身ヒーローする! 


 俺、美女、美少女助ける! 俺、ハーレム! これこそ、夢の異世界生活!」


「……聖剣は? 聖剣がなければ魔王は倒せないのよ?」


「そんなの、大金で土木工事業者を雇って、この泉の水全部抜くプロジェクトをやるんだよ。


 そして、大金で世界中のエリート冒険者を雇って魔王を圧倒的な数の暴力でリンチして、トドメは聖剣を持った俺のジンダイナミィィィックだ。


 それと、知っているか? 正義の名の下ならば、例え五対一でも正義側は文句を言われないんだぜ?」


「……なるほど、十理あるわね」


「だっろ〜!」


 確信に変わった。白虎の中にも優先順位があるらしい。


 その中の一番は、俺を転移させた女神が言っていた『魔王を倒す』ということ。


 あそこまで聖剣を勇者に返すと騒いでいたのは、あくまで魔王退治を優先していたから。


 つまり、倒せれば聖剣を持つ勇者でなくても別に構わないのだ。


 あ〜怖い。こんな天才の俺が怖い! 


「よっしゃあ、白虎! 石を集めるぞ、全ての石はお宝だあ!」


「にゃあああ!」





 石、投げる。


「あなたが落としたのは──」


「ただの石です」


 石、投げる。


「あなたが──」


「石です」


 石、投げる。


「あ──」


「石」


 …………

 …………

 …………、


「「はあ〜、やり過ぎた……」」


 絶賛後悔中である。


 俺の天才的頭脳により導き出された作戦は確かに大きな成果を生み出した。


 だが、泉の女神が突如「いい加減にしろ!」と怒り出し、それ以降一度も出てこないのである。まあ、


「とりあえず、運びきれない分はそこら辺に埋めといて、街に行って売れるだけ売るか」


「でもどこの街に行くのよ。昨日あんたが逃げ出した街に行ってみなさい、勇者を強盗傷害したんだから死刑になるのは分かりきっているでしょうが」


「バッカだなぁ白虎は。別の街に行くに決まっているだろう」


「あんた、他の街を知っている訳? この世界に来たのは昨日でしょう」


 あっ……知らない。


「おいコラ駄目ご主人、顔をコッチに向けなさい」


 そんなこんなで今後の生活を話し合っているだけでも腹は空くものである。


「俺、腹減った」


「おいコラ駄目ご主人、露骨に話を逸らすな」


「昨日こっちに転移させられてから何も食べていないから、腹が減っているのは本当ですぅ〜。


 という訳で白虎、その猫科の嗅覚でこの辺に動物がいないか調べてくれ。あっ、モンスターを食べるのは抵抗あるから地球にもいる牛とか豚とか鶏とかでお願い」


「この森は家畜小屋か!」


 その時だった。


『TO SCAN! SUMMON! SUZAKU!』


 真っ赤に燃える神々しい火の鳥が姿を表す、と同時に少女の姿へと変わった。


「私の名前は朱雀といいます〜。好きな食べ物は鶏肉で〜、好きな色は赤です〜」


「朱雀さん、俺とおつき合い下さい」


 燃えるような真っ赤な瞳。神々しい金と炎の赤を連想させる髪を腰まで伸ばしている。昨日俺が失恋したレイチェルちゃん並みの巨乳、レイチェルちゃんのようなおっとりタイプ。


 はい、そうです。俺はおっとり巨乳が好きです。爆乳や神乳なら尚更いいです。


「いいですよ〜」


「いいの⁉︎」


 まさかの即答に驚いてしまった。


 やはりここは異世界! 俺の為のハーレムワールド! 俺のモテ期時代の到来だ!


「でも、つくのはご主人様だけでいいですよ〜」


「うん? それはどういう──」


「で、何か用があるから出てきたんでしょ、朱雀」


 俺の問いかけに割って入った白虎が、朱雀に対して鋭い視線を送る。


 何で? 朱雀、なんかした?


「はい〜。ご主人様がお腹が空いたと仰っておられましたので〜、ご主人様が先程所望していたお肉を、と思いまして〜」


 うん? 鳥だから、空から飛んで動物を見つけてくれるっていうこと?


「あんた、まさか……」


「はい〜。ご主人様、どうぞ私をお召し上がり下さいませ〜」


「唐突なエロゲ展開、ありがとうございまぁ〜〜〜すっ!」


「絶対そういう意味じゃないのを前後の台詞で分かるでしょうが、このバカちんがぁ!」


「ぶふっ!?」


 受け入れ態勢万全(?)の朱雀ちゃんにダイブした俺は、白虎の放ったローリングソバットによって顔面が抉れた。

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