第4話 嘘!?

 地面に倒された俺は、


「痛ぇ〜! 暴力系ヒロインは一部のファンにかモテないぞ! 俺、最近殴られすぎで可哀想じゃない⁉︎」


「あんたが悪いんでしょうが!」


 目の前の少女は腕組みをしながら俺を見下ろす。


 白くて肩にかかる程のセミロングの綺麗な艶のある髪。猫を思わせるキリッとした大きな青い瞳はどこまでも透き通っている。


 人にはない耳と尻尾、それにしなやかな身体。胸も結構デカい……。


「俺がマゾに目覚めたらお前が責任取れよ!」


「嫌に決まっているでしょうが!」


 まるで肉食獣が獲物を威嚇しているのかと思ってしまうくらいの圧力に俺は、


「玄武、俺を守ってくれ!」


『TO SCAN! PUT ON! GENBU!』


「違う違う違う! 召喚召喚! キャンセルキャンセル!」


 なぜか俺がスキャンすると、装着してしまうこの謎現象はどうにかならないものか。


 キャンセルの言葉がフィストチェンジャーに届くことはなく、青龍の鎧が霧散し、代わりに玄武の鎧を装着してしまった。


「ぐへぇっ!」


 変な体制で重い亀の鎧を装着してしまった俺は、まるで甲羅を下にしてひっくり返った亀のように手足をジタバタさせる。


「……何をやっているんだか、これが私たちのご主人様ってわけ?」


 むっ、なんだその目は。まるで俺がポンコツキャラだと言わんばかりのその目は。違うぞ、俺は変身ヒーローに憧れる顔と演技がスーパー凄いお兄さんだぞ。


「うん? ご主人様?」


 と、いうことはやっぱり……、


「白虎……さん?」


「一体それ以外の何に見える訳?」


「未来の俺のハーレムメンバーになるヒロインその一」


「なる訳がないでしょうが!」


「うわぁ〜! 待って待って、その大きく振り上げた踵落としは止めてぇ! 俺、今防御できないどころか亀の弱点である腹を曝け出しているんだよ!」


 生命の危険を感じ、急いで起きあがろうと身体を揺らしたり、手足を思いっきり使おうにも、


「…………」


 ヤバい、起き上がれない。


「誠に勝手なのですが、自分ごとで大変恐縮なのですが、出来ればでよろしいのですが……起き上がれませんので、助けて下さい白虎様」


「はあぁぁぁぁぁ……」




「うん! やっぱり仲間は助け合いでしょ!」


 白虎の何か言いたそうな視線に気付かないふりをしながら、俺は彼女に問いかける。


「で、これってどうすれば変身解除できるの?」


「念じればできるわよ、もしくは心の中で言ってみるとか」


「心の中でか……」


 変身解除。


「おおっ!」


 心の中で唱えると、玄武の鎧が先程の青龍の鎧同様に霧散した。そして、玄武のカードへと戻った。


「おし、お疲れちゃん。もうカードに戻っていいよ」


「…………」


 しかし、白虎はカードに戻らない。何で?


 白虎は溜め息を一つ吐いた。


「あんた、仮にも女神に選ばれし者でしょう。勇者を襲ってどうすんのよ」


 選ばれし者、か。主人公みたいでかっこいいな! まあ、女神の勘違いなんだけれど。


「いや、別によくね? ようは魔王を誰かが倒せばいいんだろう? それに俺、勇者あいつ嫌いだ! 俺の手柄も全部自分の手柄にしやがる! あいつは感謝もしねぇで、それが当たり前だと思っている! 


 ふざけんな、俺は勇者の世話係になった覚えはない! 俺は変身ヒーローになりたいんだ!」


「だからって勇者から聖剣を強奪する訳にはならないでしょうが!」


「つまり俺が勇者よりも強かったということだ! 俺がエクスカリバーを使えば、まさに鬼に金棒! 


 この世界で俺に敵う者など誰一人として存在しないのだー! ウワーハッハハッ!」


 ヒーローになりたいはずなのに、何故か流れで悪役的な台詞を言ってしまった。しかし、これは仕様がないことだ。正義の為ならば、俺は悪の汚名を受け入れよう!


「いいからよこしなさい! 気付かれないように返してくるから!」


「ば、バカお前! こんな大きい刃物を強奪しようとするな! 二人共怪我するだろう!」


 ヒューンっ、ポチャ。


「「あっ!」」


 俺と白虎が揉み合っていると、俺の手から滑って飛んだエクスカリバーが近くにあった泉に落っこちてしまった! ヤバい、俺のエクスカリバーが!


「白虎どうすんだよ! お前が強引に奪おうとするからこうなったんだぞ! 全裸になって泳いで取ってこい! 全裸!」


「大抵の猫は潜水できないのよ! そもそもあんたが勇者たにんの物を盗むからでしょうが! どういう教育を受けてきたんだ、親の顔が見てみたい!」


 そうやって俺と白虎が互いに責任のなすりつけ合いをしていると、ピカーッ! と金色の輝きと同時に驚く程の美人が出てきた。


「あなたが落としたのは、この金の聖剣ですか? それとも、この銀の聖剣ですか?」


 ……これ、あれだ。泉の女神様だ。


「落としたのは金の──」


「びゃあああああっっっこ! しっ! しっ!」


 何の考えもなしにバカ正直に答えようとした泳げない白猫の口を全力で塞ぐ。モゴモゴ何かを言おうとしているが、こいつは俺が思っている以上に危険だ! 


「お願い! お願いだからまずは俺の話を聞いて! なっ?」


「モゴモゴモゴ! モゴモゴ!」


「ああ、分かっている分かっている! 俺がどの世界でも最高にイケメンだということは俺が一番分かっている!」


「…………」


 おとなしくなった?


「いいか? 離すぞ? 絶対に余計なことは言うなよ? 言っておくけど、これはフリじゃないからな? さん、にー、いち──ぐふっ!」


「乙女の唇をいきなり奪うとか、あんた底無しのバカなんじゃないの⁉︎」


 言うまでもなく手で塞いだぞ!


「語弊が生まれるでしょうが!」


「『でしょうが』は私のものでしょうが!」


「誰のものでもない……でしょうがwww」


「なによ、その小馬鹿にした感じのでしょうがは!」


「あの〜……まだですか?」


 ヤバい! 泉の女神が困った顔をしていらっしゃる!


「すみません、あと一分下さい!」


 彼女の機嫌を損なえば、もしかしたら金も銀も貰えないかもしれない。それは絶対に嫌だ! 俺は目の前に確実に手に入る宝があれば必ず手に入れる! それが俺だ!


 白虎の首に腕を回した俺は、彼女にしか聞こえないように小声で話す。


「いいか? これは正直に言えば、金と銀、両方貰えるビックチャンスだ。ここは俺に任せておけ、儲かった分で美味い飯奢ってやっから。な?」


「分かった、顔が近い、早く離れて、殴りそう」


「…………」


 照れが全く含まれていない異性からのこの台詞は、俺の心臓を想像以上に抉る。性格はアレだけど、見た目が良いぶんこの女は余計たちが悪い。


 気を取り直して、俺は泉の女神に言う。


「落としたのは金の聖剣だ! だけど、今あんたが持っているヤツじゃない! 装飾品のルビーが一つ取られている金の聖剣だ!」


 どうだ、俺の完璧な答えは! 落としたのは金の聖剣だから、なんと言えば良いのか迷ったが、これなら大丈夫! 俺、マジ天才!


 しかし、


「あなたは嘘を吐きました。あなたは渡すものは何一つありません」


「…………は? いや、待て待て待て! 俺、嘘吐いてねぇぞ! ちょっ、白虎も待って、そんなガルルルって喉を鳴らさなでぇ!」

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