第3話 初めての……変身!
「「「「「ありがとう! ありがとうございます!」」」」」
満面の笑みを浮かべながら人々が走って来る。
これが俺の憧れたヒーローだ。
人々を助け、老若男女関係なく皆から感謝される。笑顔がなりよりの報酬だ。
まあ、欲を言えば俺自身が変身してドラゴンを直接追い払いたかったが、今はこれでよしとしよう。
俺も皆に負けないくらいの笑顔で、近づいて来る人々に答えようとする。
「みんなが無事でーー」
「「「「「ありがとうございます、勇者様!」」」」」
「……へ?」
俺を素通りした人々は、全てが終わってから目を覚ました勇者へと感謝の言葉を述べた。
「勇者様のおかげでこの街は守られました!」
「勇者様、ささやかながらこれはお礼です! 受け取って下さい!」
「勇者様! ぜひ私の娘をあなたの伴侶に!」
勇者様! 勇者様! 勇者様!
「…………」
俺だろ! 俺を褒めろよ! 俺を敬えよ! 勇者なんてなんの役にも立たずに気絶していただけじゃん! ミキュリーとレイチェルちゃんの方が何倍も頑張っていたのに、何で二人と俺には何の賞賛もないの⁉︎
「さすが私のレンバー、あなたは真の勇者よ!」
「レンバーさん、格好いいですぅ〜」
「何で二人もそれで納得しているの⁉︎ 二人と俺の手柄だぞ⁉︎」
俺の言葉に二人は困惑の表情を浮かべる。
「なに言ってんの、あんた?」
「勇者パーティーの手柄は全部勇者様の手柄なんですよ〜」
いやいやいや、当たり前のような顔しているけどおかしいでしょ! なら、俺だって勇者ポジションがいいよ! なんで寝ていただけのヤツが賞賛されて頑張った俺たちが賞賛されていないんだ!
まあ、頑張ったのは俺じゃなくて玄武だけど、それは置いといて……、
「ママぁー! どこぉー! ママぁー!」
勇者を賞賛する熱気の中、孤独に泣く少女がいた。どうやら、先程の戦闘中に母親と逸れたみたいだ。周りの人々は勇者を持ち上げることに夢中で全く彼女の存在に気づいていない。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
俺は少女に優しく声をかける。
「ママと逸れちゃったのかな?」
「ぐすっ……うん……」
「リカン!」
どうやら母親はすぐ近くにいたようで、無事に見つけらた我が娘を力強く抱きしめた。そして、ふと俺の方が一度見ると、
「ありがとうございます、勇者様! おかげで娘が見つかりました!」
「あはははっ! いえいえ、俺、勇者ですから! 当たり前のことをしただけです! これからも応援、よろしくお願いします! 俺、勇者ですから!」
「…………」
なるほどな、俺がいくら人助けをしようとそれは全て勇者の手柄になっちまうファンタジーはよ〜くわかった。俺はヒーローになりたい。人助けはあくまでヒーローになる過程であって、別に人助けが目的じゃない。
でも、だからと言って全てが勇者の手柄になるのは、持ち逃げされているのと変わらない。
俺は懐から青龍のカードを出し、フィストチェンジャーにスキャンした。
『TO SCA N! PUT ON! SEIRYU!』
カードが蛇に似た形状の青い龍へと姿を変えた。でもあれ? なんか小さくね? なんか俺と同じくらい?
「って、うわっ⁉︎」
青龍が俺に巻きついて来た! けれど全然苦しくない⁉︎
次の瞬間、俺は身体から青い光を発光させると、青い鎧を装着していた。はっきり言って何が起きたのか分からない。だが、
……力が漲る。本能が目覚める。ヤツを倒せと心が叫ぶ!
「この手柄泥棒があああああッッッ!!!」
気付けば俺は、レンバーに強烈な不意打ちをしていた。
「「「「「勇者様ぁぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」」
それから、再び気絶したレンバーからついつい勢いで、彼の持っていたエクスカリバーをかっぱらった俺は街から一目散に逃げ出したのだった。
レンバーたちと初めて出会った草原をさらに越えた先の森に辿り着いた俺は、適当な広間を見つけると大の字で寝転がった。
「ぜえ……はあ……ぜえ……はあ……つ、疲れたぁ〜!」
魂の叫びを上げ、この解放感を味わう。
どうやら追っては巻いたようだ。鬼の形相で追いかけてくる街の人々やミキュリー、レイチェルちゃんまで俺を冗談抜きで殺しにかかって来たからマジでビビった。
「だって俺悪くないじゃん! せっかく異世界に来たんだから少しくらいハメを外したってバチはあたらないっしょ〜!」
盛大な独り言を愚痴りながら、俺は手に持つエクスカリバーに目をやった。より正確には、エクスカリバーに無駄に装飾されてある数々の宝石にだ。
どうやらこの世界では勇者は絶対的存在らしい。なら、俺がこの聖剣を売ったとして大金を手に入れ、豪邸を手に入れ、美人なメイドさんやらと一緒に共同生活していたら足がつく可能性があるわけか……ならば、
「ふんぬぅ〜!」
俺はエクスカリバーから宝石を剥がし取る。思いのほか、簡単に取れた宝石は傷などはないように見えた。
エクスカリバー『ごと』が駄目ならば、この宝石を売れば大金が手に入るだろう。宝石はどこでも簡単に(?)手に入るからな。
さて、やることはやったし……、
「これ、どうやって変身解除するんだ?」
あの駄女神、チュートリアルもなしに俺を転移させやがったからな〜……全然分からなねぇ〜。より言うと、なんで玄武の時は召喚だったのに青龍の時は変身だったのかも謎だ。
「カードによって違うのか?」
試しに他のカード、白虎をスキャンする。
『TO SCAN! SUMMON! BYAKKO!』
『ガオォォォッ!』
現れた白虎はただの白い虎だった。いや、白い虎とかいて『びゃっこ』なのだから何もおかしくはないのだが……動物園にでも行けばすぐに会えるような気さえする。
うん?
白虎が白い粒子へと分解すると、ぐにゃぐにゃと不定形の状態へとなる。少しすると、それは人型へとなった。
そして、ピカッーーと。
「なぁにしてんのよ、このバカちんがぁ!」
「ぶふっ⁉︎」
白虎の光の中から出てきた女の子に俺は全力で殴られた。
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