第1話 勇者との出会い
…………ドッキリじゃなかった。ここまで来れば流石に分かる。
謎の人型CGに転移された場所を見回す。現代社会のような建築物や人工物が一才見当たらない。
ただ、目の前に広がるのは広大な草原。青い空、白い雲。
そして、ゴブリンの集団。
「ギシャアアアアアッ!」
その内の一匹と目が合った俺は迷わずに逃げ出した。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁ!!! 何が『世界を救うのです』だ! このチートアイテムの使い方くらいマスターさせてから転移させろよ!」
緑色をした小鬼の大群が全速力で逃げる俺を容赦なく追い詰める。
中には走りながら石を投げてくるヤツもいてマジでムカつく! 何この意地悪! 俺はただの売れない俳優なんだよ! 何度も練習した殺陣ならまだしも俳優にリアルなバトル望んでんじゃねぇよ! って危な! 矢を撃ってきやがった!
いくら頭にきているからと言って、ゴブリンの数は数十を超える。まともに闘ってただの人間が勝てる訳がない。
「うわ〜! こんなことなら死ぬ前に借金してでも自作の特撮を作れば良かったぁ〜!」
「ライトニング・サンダー!」
高らかに叫ぶ少女の声が草原に響く。
絶対絶命の俺の命を救ったのは一人の魔法使いだった。彼女の呪文を唱える声が聞こえた瞬間、俺を追っていたゴブリンたちが悲鳴を上げた。
振り返ると、ゴブリンたちは近くにいた魔法使いの少女の杖から放たれる電撃によって全身を真っ黒に焦がされていた。
本物の魔法ってやっぱりCGと比べものにならない迫力だな、生だからだろうか。そして、
「なるほど、これが俺とメインヒロインとの出会いか」
異世界転移のお約束。メインヒロインとの出会い。まさか、こんなに早く出会えるとは。こんなに可愛い少女と付き合えるとは。
気の強そうな瞳の魔法使いの少女は、丸焦げになったゴブリンを無視して俺に近づく。
「あなた、このあたりで武術家を見なかった? この時間、この場所に現れるってお告げを聞いたんだけど」
……もしかして……俺のこと?
「どうなの! 早く答えなさい!」
もしかしなくても、俺のことだよな。
「おーいミキュリー、武術家はいたか?」
少し遠くから現れたのは一人の青年だった。頭以外を純白の鎧で覆ったいかにもな勇者だった。それにかなりのイケメンだ。ま、俺には負けるがな。
「ちょっとレンバーさ〜ん、待って下さいよ〜」
「遅いわよ、レイチェル! 早く来なさい!」
そして、その勇者の背後から、格好からしていかにもな僧侶の少女が息を切らしながら小走りで近づいてくる。おっ、この娘も結構可愛い! それに身体が俺好み! こっちはおっとり系か、それにもう胸がデカいのなんのって!
「うぅっ!」
俺の視線を釘付けにする罪な山脈に見惚れていると、腹に激痛が走る。
「さっきから何度も聞いているでしょう! 早く答えなさいよ! 次は火炙りにするわよ!」
こ、このアマ、人が眼福タイムを楽しんでいる間に容赦のない右を打ち込みやがった。
だ、だが許してやる。もう少しすれば俺のハーレムメンバーになるんだからな!
少しして息を整えられた俺は三人に自己紹介をする。
「俺の名前は
「いかにも!」
自分の胸に拳をドンッと当てた勇者が答える。
「俺が勇者のレンバー! そして!」
「僧侶のレイチェルといいます〜」
「魔法使いのミキュリーよ、覚えておきなさい」
全員の簡単な自己紹介を終え、レンバーが「そういえば……」と頭を傾ける。
「女神様には、君がここでゴブリンと闘っているはずだから、その闘いを見て君の実力を測るように言われたんだけど……君、逃げていなかった? 最強の武術家なんだろ?」
「…………」
ヤバい! 最初からヤバかったけれど、何て言い訳すればいいんだ⁉︎ ってか、あのCGって女神だったのかよ! いや、そんな感じは何となくしていたけれど!
ここで、本当はその女神様の勘違いで異世界転移させられた戦闘経験皆無の役者です! なんて言ったら絶対見捨てられる! 見捨てられて俺のチートアイテムを強奪されるに決まっている!
強奪されないまでも、絶対にあの手この手で俺からチートアイテムを奪おうとするに決まっている! 何故かって? 俺だったら絶対そうするからだ!
「……距離をとっていたんだ」
俺は必死に頭を回転させて言葉を絞り出した。
ここは演じるしかない、弱小でも役者は役者だ。素人くらい簡単に騙してやる! ここから先は俺と勇者のアドリブ合戦だ!
「距離? あんな雑魚モンスター相手に?」
納得いかないような顔をするレンバーたちに俺は言い訳を加える。
「俺は異世界から武術家だ。そして、俺の世界にはあのようなモンスターは存在していなかった。警戒するのは当たり前だろう?」
「……まっ、それもそうだな。いくら強くても油断は大敵、初見のモンスターを警戒して観察するのは当たり前のことだ」
ふぅ〜、良かったぁ〜。納得してくれたぁ〜。これでしばらくは闘わずに済むな。
この理由を使って闘わずに、しばらくの間は彼らの荷物持ちでもして時間を稼ごう。とりあえず、その先のことはその時に考えよう! 俺、天才!
心の中で勝利の余韻に浸っていた俺は、次の瞬間、ご都合的ではない現実へ意識を戻された。
「……おかしくない?」
背筋をビクンッ! と震わせた俺はその声の主に殺気を込めた視線を送る。
安心したのも束の間。暴力魔法使いミキュリーが俺と勇者の会話に割って入ってきたのだ。
「距離をとる為だかと言って、相手に背中を見せる? 仮にも最強の武術家なら、それは自分の弱点を相手の前に曝け出しているってことくらい分かると思うんだけど?」
このアマぁ〜っ! 余計なこと言いやがってぇ〜!
「確かに、それもそうですね〜」
明らかに鈍そうなおっぱい僧侶レイチェルちゃんも頭を傾けちゃった!
「あんた、本当に異世界最強の武術家?」
ビクンッ!
「どういうことだ、ミキュリー?」
勇者の質問にミキュリーは言ってはいけない一言を発してしまう。
「こいつ、本当は最強の武術家じゃないんじゃないかってこと」
ビ、ビ、ビクンッ!
「おおかた、たまたまこの辺を通りすがっただけの部外者で、私たちの話に合わせて自分を異世界から来た武術家だって名乗っているだけの嘘つきってこと」
「まぁ、女神様まで出してそんな嘘を? 神の使いとして許せません。教会に連れて行ってリンチしましょう」
怖いっ! レイチェルちゃん怖いよ! 君はもっとのほほんとおっぱいを揺らしていればいいんだよ! どこからか取り出したそのロープをしまっておくれよ!
「待つんだ、二人共! そんなことをして一体彼に何の得があるっていうんだ!」
そうだ、もっと言ってやれレンバー! それでこそ勇者様だ! 俺を守ってくれ!
「簡単よ、勇者パーティーに入れば一般冒険者よりも安全に高難易度クエストを完了できる。彼は、ゴブリン相手に『初見だから』という理由で逃げていたのよ。
きっとこれからも同じ理由で闘わずに……そうね、しばらくは荷物持ちでもして安全にクエスト報酬にありつこうって考えなんじゃない?」
ビ、ビ、ビクゥゥゥゥゥッッッン‼︎‼︎‼︎
当たらずとも遠からず!!
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