第25話 4番目の仲間
「アルク、さっきの奴は?」
「ごめん、逃げられた」
「アルクくんから逃げられた?」
「預言者あつしじゃったな。アルクなら瞬殺出来ると思っていたのじゃが」
預言者? 預言者あつし?
「奴を倒せれば、魔族と獣族を開放出来ると思っていたのじゃがな」
「アルクならな~」
「アルクくんならね~」
え? 僕が悪いの? 確かにそんなに強そうじゃなかったけど。避けるのが上手かったんだよな~。
「え~っと……開放って?」
「魔族も獣族も蛇神ナギを信仰しているのじゃ。蛇神ナギの言葉を伝えると言って現れたのが預言者あつしなのじゃ」
「蛇神の言葉?」
「死ねじゃ」
「え? 神様がそんなことを?」
「魔族、獣族、人族、エルフ族、鳥族、海族。全ての種族は戦いを選んじゃのじゃが、ダメじゃった。蛇神ナギが送り込んで来た巨兵、巨大龍、神魔狼に抗うことが出来なかったのじゃ」
「え~っと……人族もエルフ族も魔族も獣族も滅びてないよね?」
「預言者あつしが蛇神ナギと交渉したそうじゃ。各種族、1万人未満にすることを条件に存続を認めてもらうようにじゃ」
「1万人? 今、人族はどれくらいいるの?」
「500万人以上いるじゃろうな」
難しい表情のレオンくんが言う。
「エルフ族はそのルールに従ってるよ。人口が増えないように魔法で子供が出来にくくしてるんだ」
「エルフ族の人口はおよそ6千人だよ」
「魔法で……。魔族と獣族は?」
眉間にシワを寄せ、更に難しそうな表情でレオンくんが言う。
「1万人未満だ。増えれば、年寄りが戦いに身を投じて命を絶ってるようだな」
「え~っと……蛇神はどうして世界を滅ぼそうと?」
「その質問には僕が答えよう」
声のする方を見ると預言者あつしがいた。
「あつしは蛇神の使徒?」
「僕はこの世界を救うために神ナギによって召喚された真の勇者さ」
「救う? 滅ぼすんじゃなくて?」
「滅ぼしたのは君達だろ」
「え? 僕達? 何を?」
「この世界の住民を皆殺しにしたのさ。異世界から来た魔族、獣族、海族、空族、エルフ族、人族がね」
「異世界?」
「そうさ、神ナギの創造した世界からね」
ホーラちゃんが杖を構えた。
「セレスは言ったのじゃ。この世は弱肉強食じゃとな。火魔法、巨大爆発」
預言者あつしを中心に大爆発。
炎が消えると預言者あつしが見えた。
全く動いていないにも関わらずダメージを追っているようには見えない。
結界魔法でも使ったのだろうか?
「神ナギは言ってたよ。自分が君達を自由にさせていたのがいけなかったのだとね。君達はね、神ナギが創造した世界の生物を、資源を全て消費してしまったんだよ」
ホーラちゃんは更に魔法を放つ。
「風魔法、鎌鼬。この世界の神は受け入れてくれたのじゃ」
無傷の預言者あつし。
やはり、預言者あつしは結界でホーラちゃんの魔法を全て防いでいた。
「また世界を滅ぼすのかい? 空族と海族は僕が提案したルールより更に厳しいルールを作り、実行してるよ。自らのルールである千人以下の人口に調整しても楽しそうに暮らしているよ。エルフ族だって分かっているから、自らで考え、魔法を使い、調整してるんだよね」
「セレスは言ったのじゃ。自由に生きろと。水魔法、槍雨」
ホーラちゃんの魔法は全く効いていない。
なのに、次々と派手な魔法を放っていくホーラちゃん。
「アルクくんは、どう思う?」
「え? どうって……よく分からないよ」
「アルク。そいつは人族を滅ぼすつもりなんだよ。神の名を騙ってな」
「え~っと……滅ぼすのは、よくないよね」
「アルクが負ければ人族は滅びる。勝てば平和な世界になるのかもな。……しばらくは」
「確かに僕を殺せば、しばらくは平和な世界になるだろうね。でもね、また人口が増えれば、この世界も君達を受け入れ続けることが出来なくなるんだよ」
「他に手はないの?」
「まあ、僕が300年ごとに増えすぎた人口を減らせばいいんだけどね。正直に言って僕だってこんなことやりたくないんだよ。空族、海族。それとエルフ族のように自ら厳しいルールを作ってほしいな~。そうすれば誰もが幸せに暮らしていけるのにね」
ホーラちゃんは預言者あつしを睨みながら言う。
「セレスがそうならないようにダンジョンを作ってくれたじゃろ」
「分かってないんだよ。人口はどこまでも増え続けるんだよ。食料も資源も手に入るダンジョンがあっても、焼け石に水なんだよ」
「そんなこと分からないのじゃ」
「分かってからでは遅いんだよね。僕が生まれた世界もね、人口爆発により滅びに向かっていたんだ。平和になればなるほど、悲しいことに人口は増えるんだよね」
「わらわはセレスを信じるのじゃ。アルク、頼む」
よく分からないけど……。
「僕は仲間を信じるよ。神奥義。50連続突き~~~」
僕は預言者あつしに向かって走りながら神奥義を使用した。
本来なら両足で踏ん張り突きを放つのだが。
僕は槍術を習っていないが神奥義を発動させると身体が勝手に動いてくれる。
僕が決めるのはターゲットのみ。
預言者あつしを倒せ。
踏ん張ろうとする足を前に出す。預言者あつしの方へと。
無理な体勢になるのだが、身体が動いてくれる。
攻撃可能距離で突き続ければ当たる。
「ちっ、やっかいだな君は」
「今日は逃さないよ」
「君には分かって欲しかったよ。勇者を名乗る者よ、仲間を守りながら僕に勝てるのかな?」
預言者あつしがそう言うと地面に無数の黒い影が出来た。
その影から現れたのは複数の大きな狼の魔物。
……50匹以上いるのかも?
レオンくんとイリスちゃんとホーラちゃんでは無理か。
「逃げて。僕が引きつけて、数を減らすから」
「逃がすわけ、ないよね」
大きな狼達は僕を無視してレオンくん達の方へと向かう。
僕はすぐに走り出した。
対峙していた預言者あつしに背を向けて。
「僕を舐めないでくれるかな」
痛いっ。でも我慢だ。
「神奥義、50連続突き~~~」
僕は走りながら大きな狼達に突きを放っていく。
その隙きを見逃さず預言者あつしが攻撃してくるが、無視。
「神奥義、50連続突き~~~」
「いい加減にしろ。こんな戦い方があるか。連撃嵐」
痛いっ。凄く痛いけど、我慢だ。先に狼の魔物を。
「神奥義、50連続突き~~~」
「君は痛くないのかい? 連撃嵐」
「凄く痛いよ。でも僕が皆を守るんだ。神奥義、50連続突き~~~」
「君はイカれてるね。連撃嵐」
「レオンくんもイリスちゃんも僕のことを勇者と呼んでくれる。僕は本当の勇者じゃないけど、子供達の夢は壊したくないんだ。だからレオンくんとイリスちゃんの前だけは勇者として頑張るって決めたんだ。神奥義、50連続突き~~~」
「神ナギの眷族フェンリルがこうも簡単に全滅するなんて。連撃嵐」
「次は君の番だよ。神奥義、50連続突き~~~」
「ふん。誰があれで全てだと言ったかな」
再び地面に無数の黒い影が。さっきよりも黒い影が多い気がするのだが……。
「そ、そんな…………」
ざっと数えると100匹くらいいる。
「500匹のフェンリルの攻撃から仲間達を守れるのかな? 連撃嵐」
500!!
「止めろ~~~神奥義~~~50連続突き~~~」
「無駄だよ。君でも、この数は瞬殺出来ないよ。連撃嵐」
「守るんだ。絶対に。神奥義。50連続突き~」
「間に合うはずがないだろ。連撃嵐」
レオンくんの……左腕が食いちぎられたのが見えた。イリスちゃんをかばうために、左腕でイリスちゃんの背中を押した直後に。
「死なせるものか~~~神奥義~~~50連続突き~~~」
「だから言っただろ。間に合わないってね。連撃嵐」
「アルク、心配するな。イリスとホーラは俺が守り抜く」
あれ? 僕の見間違いだった?
レオンくんが左手で真っ赤な盾を持っているのが見えるのだが……。
「ちっ。エリクサーを持ってたのか。本当に君達はチートだよね。連撃嵐」
エリクサー? もしかして最上級ポーションを進化させた物がエリクサーってこと? そうだとするなら、レオンくんもイリスちゃんもホーラちゃんも沢山沢山持ってる。
「神奥義。50連続突き~~~」
「運がよかっただけさ。即死ならエリクサーも意味ないからね。連撃嵐」
僕にもっと力があれば。
« 貴様は十分に強いだろうが »
どこがだよ。僕がもっと強ければ。
« だから十分に強いっての »
「神奥義。50連続突き~~~」
僕はレオンくんを、イリスちゃんを、ホーラちゃんを守りたいんだ。
僕の仲間を……。僕の友達を。
「神奥義。50連続突き~~~」
« 貴様なら守れると思うが、どうしてもというなら俺様を呼んでもいいぞ »
って、さっきから聞こえる、この声は誰の声?
「神奥義~50連続突き~」
« 俺様が誰だか分からないだと? 俺様は貴様の友だろうが »
え? 僕の友達?
「神奥義。50連続突き~」
« さあ、俺様を呼べ »
え? だから誰?
「神奥義~50連続突き~」
« 呼べよ。貴様が来ないからマジで暇なんだよ。俺様にも戦わせろよな »
え~っと……本当に分からないんだけど。
「神奥義~50連続突き~」
« マジで分からねぇのか? じゃあ、ヒントだ。最後に手に入れた常備スキルは何だ? »
え? 常備スキル? それってダンジョンで手に入れたスキルのこと?
そういえば変な特典スキルだったかも?
【ダンジョンボス討伐達成】
【ダンジョン突破特典:常備スキル 僕の友達】
意味の分からない突破特典スキルだったんだった。
「神奥義。50連続突き~」
« さあ、俺様を呼べ »
え~っと……僕の友達?
「アルクの勝利を祈って、乾杯」
「「「 乾杯~~~ 」」」
「お肉~~~。美味~~~」
「ぷはー。美味い~。で? で? アルクちゃんは何と戦うの?」
「勇者だ。真の勇者を倒したいそうだぞ」
「え? 勇者と戦うの?」
アルクのダンジョンのスライムが召喚された。
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