第23話 仮面の剣士

















「え? 勝手に入っていいの?」


レオンくんは止まらない。


走って城の中へと入っていく。







城の外では魔物が襲って来ていたのだが……城の中には魔物はいない。


あれ? 誰もいないの?


僕の背中にいるホーラちゃんが口を開く。


「この城に来るのは2度目じゃ。嫌な思いでの城じゃな」


「嫌な思いで?」


「魔将バエルの城じゃよ」


「あっ!! 勇者を倒したバエル」


「そうじゃな」


悲しそうな表情のホーラちゃん。


勇者はこの城で……。












きれいな城だけど誰も出て来ない。なので無人なのかと思っていたんだけど……走ってたどり着いた奥の部屋に椅子に座っている人物がいた。


「ボスのお出ましだな」


僕達が勝手に城に、勝手に部屋に入ったというのに、そんなことを言うレオンくん。


ボスは仮面をつけていた。


「あれ? 前に見た時と違うよね? バエルはもっと大きかった。それに……角がない」


「アルク、何を言っておるのじゃ? バエルなら、ここに来る途中で倒したではないか」


「え? 倒したの? え~っと……誰が?」


「わらわが魔将バエル率いる千人隊に広範囲魔法をブチ込んだじゃろ。その隙きにイリスが倒したじゃろうが」


「え? 城の前にいた弱い兵士達? あれ? レオンくんが出番がなかったって怒って……城の中のボスは俺が倒すって言ってたよね?」


「ふふっ。私達にとっては魔将も雑魚だよね。……でも……少し強そうかも?」


レオンくんは既に戦いを始めていた。


ここまでに遭遇した魔物も魔族も瞬殺して来たレオンくんが苦戦していた。


剣と剣での戦い。


レオンくんもボスも小柄。


走り回りながら戦っているレオンくんとボス。


互角。いや……レオンくんが押している。


「今、イリスちゃんが攻撃したら勝てるよ」


「ふふっ。レオンに怒られちゃうわよ。それに……レオン、楽しそうだよ」


いや、負けたら終わりなんだから、倒せる時に倒した方がいいと思うんだけど。


「ん? ホーラちゃん、どうしたの?」


驚いた表情のホーラちゃん。何に驚いているのだろうか?


「まさか……。そんなはずはないのじゃ……」


ホーラちゃんの視線は……。ボスを見て驚いているのか?


「中々やるな。でも俺の敵じゃねぇ。本気で行くぞ。自在剣、レーヴァテイン~~~」


レオンくんはボスから距離を取り、持っていた剣を投げつけた。


ボスに向かって飛んで行く剣。


ボスは剣を構えた。


「甘いな。俺の剣は防げねぇ」


ボスが剣を斬り上げてレオンくんの剣を弾……こうとしたのだが、軌道が変化。


ボスの剣を避けるように上空へと軌道を変化させ……クルリと大きく円を描くように一回転。そして再びボスへと向かって飛んで行く。


ボスがレーヴァテインの動きに気を取られている隙きにレオンくんは走って近づいていた。もう1本の剣を手に。


「魔法剣、神速烈風斬り~~~」


風魔法で速度を上げて、高速の連続斬りでボスを斬り裂いていく。





ドヤ顔のレオンくんと?


「え? イリスちゃん? じゃない?」


レオンくんに仮面を吹き飛ばされたボスの顔は……イリスちゃんに似ていた。


「ノルンなのじゃ~~~」


ボスに向かって走るホーラちゃん。


ノルン? イリスちゃんにそっくりな……ノルン? あれ? それって……勇者ノルン?


「ホーラ? ホーラなの?」


「そうじゃ。ホーラなのじゃ~~~」


「本当に? だとすれば……失敗したのね」


「わらわは嬉しいのじゃ~~~。何が失敗なのか分からぬがノルンが生きてる。それだけで大成功なのじゃ~~~」


「ホーラ、ありがとう。で? 私の呪いを解いたあなたは? え!! 私……に似てる?」


「レオンとイリスじゃ。ノルンの孫のな」


「え? 孫? 私の孫? あれ? どれくらい時間が経ってるの?」


「およそ300年じゃ」


「え? あれ? 成功してたの? それじゃあ、どうしてホーラまで300年前と同じ姿なのよ」


「わらわも禁呪を使い、眠りについてたのじゃ。預言者あつしを倒すためにな」


「……ホーラも気づいてたんだ。預言者あつしの嘘に」


「ノルンも気づいてたのか」


「うん。確信はなかったけどね。だからね、私は離脱したの。バエルに倒されて死んだと見せかけてね。そしてバエルに頼んだのよ。私に禁呪を使って欲しいと」


「魔に身を落とす禁呪じゃな。その仮面を使用して」


「そうよ。聞いて、ホーラ。魔族も獣族も敵じゃないの。本当の敵は異世界から来た初代勇者。その名は」


「あつしじゃな。預言者あつしじゃな」


「知ってたの?」


ホーラは首を横に振る。


「知らなかったのじゃ。でも全てが繋がったのじゃ。なぜ歴代最強の剣士セレスが死んだのか。なぜ勇者ノルンが死んだのか。なぜ賢者リューナが自ら命を絶ったのか。全ては預言者あつしの嘘じゃな」


レオンくんとイリスちゃんは真剣に話を聞いているようだけど……僕には意味がよく分からない。


後でレオンくんとイリスちゃんに分かりやすく教えてもらおうかな? 誰が敵で、誰が味方なのか。


「なら、セレスも生きておるのかもな。いや、生きておったかも知れないのじゃな」


「そうかも。でも300年経ってるからね」


「そうじゃが、セレスなら戦い続けておるのかも知れないのじゃ」


「そうね。セレスは戦うことが大好きだったよね」


「そうじゃ。セレスはヘンタイじゃ」


ホーラちゃんがそう言うと、ハッとした顔で僕を見つめるレオンくんとイリスちゃん。


「え? 何?」


「ふふっ。セレス様の生まれ変わりなのかな?」


「ヘンタイと言えばアルクだからな」


イリスちゃんとレオンくんがそう言うとホーラちゃんとノルンさんが僕をジッと見つめて来た。


「違うな」


「違うわね」


そう断言するホーラちゃんとノルンさん。


「さすがにアルクほどのヘンタイはいないよな~」

 

「ふふっ。セレス様の生まれ変わりだったら面白かったのにね」


「後はエルフ王タムンヤと賢者リューナだね。ホーラ、何か知ってる?」


「わらわが禁呪を使用するまでタムンヤは生きていたのじゃが、リューナは自ら命を絶ったと聞いているのじゃ」


「ふふっ。賢者リューナ様ならダンジョンボスになってるよ。未来の勇者のために自らの命を使用してダンジョンに干渉したそうだよ。そのおかげで、これらの指輪を手に入れることが出来たの」


「SSS級の指輪じゃと。全て!!」


「ふふっ。賢者リューナ様のダンジョンで手に入れられるのはS級なんだけどね」


「そうか。アルクのダンジョンで進化させたのじゃな」


「それから……ノルン様には言いにくいんだけど……お祖父様は殺されたそうです。獣王に」


「ドルゥガに?」


「名前までは知らない。重要なのは獣族が魔王軍に入ったということ」


「タムンヤ死んじゃったのか……。ハイエルフだったから……」












「アルクくん? 何かいいことあったの?」


「だって、もう戦う必要ないよね。ノルンさんが力を取り戻せば、僕が戦う必要ないよね」


僕がそう言うと首をかしげるノルンさん。


「私は禁呪で強くなってたんだよ。本来の力に戻ったから、レオンの足元にも及ばないわよ」


「え? レオンくんより……弱いってこと?」


「仕方ないよ。俺は強すぎるからな~」


「ふふっ。アルクくんと一緒に何度も何度もダンジョンを突破したからね。それに私達の装備はSSS級だし、アルクくんの装備は神級でしょ」


「え? 勇者なのに弱い?」


「アルクは馬鹿じゃな。アルクが子供扱いしているレオンとイリスは魔将を瞬殺出来るのじゃぞ。わらわ達、勇者ノルンのパーティが互角に戦っておったというのにじゃ」


「え?」


「ふふっ。アルクくんは何も考えずに、サクッと預言者あつしを倒せばいいのよ」


「だな。そいつを倒せば全てが解決みたいだな。アルクは考える必要ないからな」


何それ? 僕が馬鹿だって言いたいの?


コクリコクリとうなずくホーラちゃん。


「あっ。みんな、聞いて。大事なことを言うのを忘れてたわ」







ノルンさんが真剣な表情で言う。


3の巨兵が東より街を破壊し進撃を始める。


巨大龍が西の海より街を破壊し進撃を始める。


3の巨兵が南より街を破壊し進撃を始める。


3の巨兵が北より街を破壊し進撃を始める。


10の神魔狼が勇者を狙う。


その年は999年。






最後まで真剣な表情で話したノルンさん。


真剣な表情で聞いてたホーラちゃん。


興味なさそうなレオンくん。


クスクスと笑ってるイリスちゃん。


困惑している僕。


「真剣に聞きなさい。巨兵も巨大龍も神魔狼も魔族とも獣族とも関係ないの。蛇神がこの世界を滅ぼすために送り込んで来るのよ。人族だけじゃなく、エルフ族も魔族も獣族も滅ぼすつもりなのよ。そして預言者あつしは蛇神の使徒の可能性が高い」


ホーラちゃんは言う。


「時間がないのじゃ。魔族と獣族にも伝えて共闘するしかないのじゃ」


イリスちゃんは笑う。


「ふふっ。アルクくんが瞬殺したよ」


レオンくんが呆れながら言う。


「預言者あつしも蛇神もアルクが瞬殺しそうだな」


困惑した表情のノルンさんとホーラちゃん。


頭が追いついてないのか困惑した表情のまま、固まっていた。




え~っと……敵は……預言者あつし? と蛇神なのかな?


あれ? 魔王とは戦わなくていいってことなの?


獣王とも?


強そうな人達と戦わなくていいのなら、嬉しいかも。














「アルクに乾杯~~~」


「お肉~~~」


「お肉美味しいね~」


「ぷはー。で? で? アルクちゃんは魔王を倒したの?」


「いや、倒してはいないが、停戦を求めて来たそうだ。魔族も獣族もアルク達とは戦いたくないようだな」


「アルクちゃんは本当に強いよね。あ~今日のお酒も最高~~~」


「本人には自覚がないようだがな」


「院長先生最強~」


「お肉も最強~」


「美味しい~」














アルクのダンジョンのスライムは……今か今かと出番を待っている。










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