第18話 成長









 

「院長先生。魔物は強いの?」


「強いよ。攻撃されると涙が出そうになるくらい痛いからね」


「痛いのヤダ~~~」


「僕もイヤ~~~」


「院長先生。どんな魔物と戦ったの?」


「最近だと、狼の魔物かな。30匹もいたから、何度も攻撃されて、泣きそうになっちゃったよ」


「え~。院長先生、可哀想~」


「いっぱいはダメだよね」


「私も院長先生と一緒に戦う~~~」


「僕も~~~」


「ダメだよ。魔物との戦いは危険なんだ。戦いに1度でも負けたら死んじゃうんだからね」


「私が守る」


「僕も~」


「ありがとう。でも僕より孤児院を守って欲しい。お願い出来るかな」


「出来るよ」


「私も~」

















「アルク、賢者リューナについて知ってることを教えてくれ」


真剣な表情のヤマラさん。なぜかノアさんもいる。


「え~っと……」


「俺から話そう」


僕が迷っているとレオンくんが立ち上がった。


「賢者リューナは未来の勇者とその仲間達のために禁呪を使ったそうだ」


「禁呪?」


「自らの命を使用してダンジョンに干渉した」


レオンくんはそう言うとダンジョンで手に入れた指輪をテーブルの上に取り出した。


「これは!! 全てS級なのか」


「ああ。魔族は人族より身体能力が高い。それを補うために賢者リューナは自らの命を使用したんだ」


「自らの命を……。そうだ、アルク。孤児院の地下室に賢者リューナの日記があったのだろ?」


「あ、はい。え~っと…………。これです」


僕が賢者リューナの日記をテーブルに出すとヤマラさんとノアさんが中を確認。







「これだけなのか?」


「いや、このページが怪しい。魔力? そうか、エルフの魔力だね。レオンくん、このページに魔力を流してくれ」


ノアさんがそう言うとレオンくんがすぐに実行した。


浮かび上がって来た文字。


それを見たヤマラさんとノアさんの顔が青ざめる。






3の巨兵が東より街を破壊し進撃を始める。


巨大龍が西の海より街を破壊し進撃を始める。


3の巨兵が南より街を破壊し進撃を始める。


3の巨兵が北より街を破壊し進撃を始める。


10の神魔狼が勇者を狙う。


その年は999年。





勇者よ。その日までに強くなれ。


勇者よ。その日までに仲間を集めよ。


勇者よ。その日までに装備を集めよ


勇者よ。人々の希望の光となれ。


勇者よ。そなたに未来を託す。







ヤマラさんは呟く。


「魔王軍が攻めて来るのは……今年。間に合わないではないか」


ノアさんが言う。


「ムスペルにヨルムンガンド。そして勇者を狙うフェンリルの群れ。今すぐ全ての王国に。全ての冒険者ギルドに情報の共有と協力依頼を。勇者を守るために兵士と冒険者の派遣を」


「そうだな。今ならまだ間に合うかもしれぬな」


レオンくんはため息を。


イリスちゃんはクスクスと笑い、テーブルの上にあったペンを手に取り、日記に……線を引いた。


「イリス、何をしておる」


「ダメじゃないですか。この日記の映像を送らなければならないのですよ。……これでは読めません」


「ふふっ」


「はぁ~読めなくていいんだよ。な、アルク」


「え? どうして?」


ヤマラさんとノアさんが真剣な表情で僕を見ているのだが……僕には意味が分からない。


「ふふっ。巨兵は9じゃなくて12だったよね」


「神魔狼も10じゃなくて30だったな」


「だった? だったとは……もしかして?」


「ああ。倒したよ。アルクがな」


「ふふっ。巨大龍もね」


「「「 え? 」」」


驚くヤマラさんとノアさん。そして僕。


驚く僕をジト目で見てくるヤマラさんとノアさん。


「倒したのか? 12のムスペルを?」


僕は首を横にブンブンと振る。


「30のフェンリルに襲われたのか?」


僕は首を横にブンブンと振る。


「ヨルムンガンドを倒したのか?」


僕は首を横にブンブンと振る。


「レオンくん、イリスちゃん? そんな伝説の魔物は倒してないよね」


ヤマラさんはジト目で僕を見つめながら言う。


「ダンジョンでフェンリルを倒したそうだな。封印されていたフェンリルより、ずっと弱いのだと思っていたのだが……」


ノアさんはジト目で僕を見つめながら言う。


「そう言えば、最近、超巨大ゴーレムが現れたと噂になってましたね」


「え? え? フェンリル? 超巨大ゴーレム? あれ? 巨大龍は?」


「ふふっ。ハワカメイ海岸で倒したでしょ」


「え? あれは大きな蛇だよね?」


「ふふっ。アルクくんにとっては蛇だよね。伝説のヨルムンガンドもね」


「え?」


「では……ここに書かれてることは……」


「既に終わったことだな」







「「 命をかけた賢者リューナ様に感謝を 」」


「あ~ちなみに賢者リューナをアルクがボコボコにしてたぞ」


「ふふっ。50回もね」


「「 え? 」」


ジト目で僕を見つめるヤマラさんとノアさん。


いや、あれはただのゾンビだよね。

















《 バタンッ 》





「奥義、20連続突き~~~」




さすがに1度では無理か。なら、もう1度。


「奥義、20連続突き~~~」





スライムは……ブルブルと? 


高速で震えるスライム。


「グハッ」


スライムが僕に体当たりを? して? 地面に着地して?


「グハッ」


すぐにまた体当たりを。


い、痛いっ。連続攻撃なんて酷いよ。痛すぎだよ。












僕はスライムをすぐに倒せるくらい成長したと思っていた。


「グハッ」


「グハッ」


なのに、なのに、痛い~~~。凄く凄く痛い~~~。


エセペクト火山で攻撃力を物凄く上昇させたのに。


ハワカメイ海岸で防御力を物凄く上昇させたのに。


「奥義、20連続突き~~~」


攻撃しても。


「奥義、20連続突き~~~」


攻撃しても。


《 グハッ 》


スライムは萎まない。


《 グハッ 》


萎んでくれない。





繰り返される僕とスライムの攻防。














「やっぱりアルクはヘンタイだよな」


「ふふっ。もう10時間も戦ってるからね。楽しそうに」


椅子に座って、のんびりくつろいでいるレオンくんとイリスちゃん。


前の日に装備も指輪等のアイテムも全てダンジョンに吸収させていたから、最初から戦うつもりはなかったと思うけど。けどね。僕が凄く凄く痛い思いをしてるんだから、応援くらいはして欲しいよね。













「奥義、20連続突き~~~」




「奥義、20連続突き~~~」




《 グハッ 》




《 グハッ 》








僕とスライムの戦いは……終わらない。












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