第15話 普通の子供












「お前達、何したんだ?」


ギルドマスターが困惑しているのだが……僕には見に覚えがない。


「え~っと……何も?」


ギルドマスターが魔鉱石と魔法石をテーブルの上に置く。


「どうして、B級やC級の魔鉱石や魔法石が宝箱から出るようになったんだよ。お前達はどこに撒いた?」


「え~と……。空間収納の指輪を預かっていたのを忘れてたので……全部ダンジョンボスの部屋に」


「ダンジョンボスの部屋か。そこで吸収させた方が進化するんだな」


「無理だぞ。アルク以外には勝てないからな。俺様でも無理だったのに、今は更に更に強くなってるから」


「ふふっ。6回も倒したからね」


「それは理解してるよ。中に入らなくても、いいんだよな?」


「ああ。ただし、ダンジョンボスの部屋は352階だぞ」


「はあ? お前達はこの短期間でそこまで何度も降りてたのかよ。はぁ~無理なのか……」


落ち込むギルドマスターに僕は聞いてみることにした。


「ダンジョンの中に撒いてるのは冒険者ですか?」


「いや、国の兵士達だ。秘密が絶対に漏れないようにするために国王の親衛隊が撒いていると聞いてるぞ」


「強い人達なら教えて上げれば」


「はぁ~さすがに最下層まで降りるのはな」


「階層ボスは弱かったですよね、レオンくん、イリスちゃん」


「俺達が強いから弱く見えただけだぞ」


「ふふっ。親衛隊ならA級冒険者並なんでしょ」


「だろうな。まあ、国に聞けばS級冒険者以上だと答えるだろうがな」


「ふふっ。なら100階層のボス部屋がオススメかな。転移石で楽に行けるからね」


「100階層まで行けるのか。その転移石は……」


「250階層まで行ける転移石もあるんだけど、100階層まで行ける転移石なら売ってもいいわよ」


「なるべく下の階層のボス部屋で撒いた方がいいんだな」


「ふふっ。誰も検証してないけどね。どうせ無価値なんだから、印をつけて50階層と100階層で比べてみればいいと思うわよ」


「そうだな。このことは俺が直接、国王と話してみるよ」


やる気に満ち溢れているギルドマスター。


閑古鳥が鳴いていた頃とは别人のようだ。


















「俺達に足りないのは攻撃力だからな」


……防御力も足りないと思うけど。まあ、ダンジョンボス以外は、ちゃんと2人で戦えてるけどね。




僕達はギルドマスターから教えて貰ったエセペクト火山にあるダンジョンを突破することにした。


攻撃系のスキルなら、エセペクト火山。


防御系のスキルなら、ハワカメイ海岸。


とギルドマスターは言っていた。


なぜか苦笑いしながら。







「赤魔鉱石だぞ」


「珍しいけど、鉱石は全て赤魔鉱石なんでしょ」


「そうみたいだけどよ。やっぱ、憧れなんだよ、炎の魔剣」


「剣士が属性付けると面倒くさいよ。矢に付けるのはいいけどね」


「いいんだよ。炎の耐久があっても攻撃力があれば」


「攻撃力がないから、ここに来たんでしょ」


「アルクと比べるとだけどな」


「攻撃力が上がるのは悪くないんだけど、アルクくんと比べられるのはね、ふふっ」















冒険者ギルドで、このダンジョンの転移石を購入したので僕達は80階層から攻略を開始しているのだが、遭遇する魔物はレオンくんとイリスちゃんだけで、余裕で倒していく。









100階層のボス部屋に入ると……既に他の冒険者に倒された後だった。


くつろいでいる冒険者達。


「俺の名はパイタラス。このエセペクトのダンジョンを突破予定だ」


「俺はレオン。もちろん、俺達もだな」


「ヘェ~、3人だけでか。俺達は30日後に挑戦するがレオン達は?」


「俺達の順番は5日後だな。挑戦を諦めた冒険者達がいたから、空きが出来ていてラッキーだったよ」


「はあ? 5日後? このエセペクトのダンジョンの最下層が何階層なのか知らないのか? 絶対に今からだと間に合わないぞ」


「大丈夫大丈夫。走って進むから」


「いやいや、最下層は188階層だぞ」


だよね。間に合わないって言うから、違うのかと思っちゃったよ。


「俺達の移動速度は1日20階層くらいだから余裕なんだよ。本気になれば、もっと進めるんだけどな」


「もしかして……ゼウルス?」


「ん? 何だそれ?」


「違うのか。ゼウルスは15日前に、このエセペクトのダンジョンを突破した冒険者達のリーダーだよ。このダンジョンだけで2回。他のダンジョンも合わせると、10回も突破している最強の冒険者って言われてるんだよ」


「突破? じゃあ、ダンジョンボスは進化したってことだな」


「そりゃそうさ。怖気づいたのなら、止めた方がいいぞ。ボス部屋からは逃げられないんだからな」


「俺達が負けることはない。だけど……2人では厳しいかもな」


「はあ? 3人でも少ないのに2人でだと? さすがに舐め過ぎじゃないか? ダンジョンボスは火魔巨大鳥なんだからな」


「火魔巨大鳥は何度か倒したことがあるんだよ。まあ、ダンジョンボスじゃないんだが」


「それなら、攻撃パターンは理解してるのか。とりあえず180階層のボスである火竜と戦ってみることだな。火竜の3倍くらいの体力があったそうだから、進化で更に10%前後強くなってるだろうよ」


「10%? 進化しても10%しか強くならないのか?」


「しかって? 俺には10%もって思うんだけどな。まあ、このエセペクトのダンジョンボスは年に1回くらいの頻度で倒されてるから、情報が豊富なんだよ」


「10%。ダンジョンによって違う? スライム……狼の魔物……。人が少ない?」


僕が呟くように言うと、レオンくんが考えながら言う。


「人が少ないダンジョンと人が多いダンジョンか。ありえるな」


「ふふっ。ダンジョンは生きてるって言われてるよね。ダンジョンがエネルギーを何に使うかなのかな?」


「そうだな。ダンジョンの拡張、魔物を生み出す、宝を生み出す、宝の進化。そして、ダンジョンボスの進化か」


エネルギーを何に使うのか? 

















《 バタンッ 》


扉が閉まると部屋の中央が光り、巨大な赤い鳥の魔物が現れた。


「魔法弓、雷神速矢」


イリスちゃんはすぐに矢を放った。


矢は命中したのだが、巨大な赤い鳥の魔物は気にも止めずに部屋の上空を飛んでいる。


部屋の高さは10メートルくらいある。ダンジョンボスに合わせてダンジョンが部屋の作りを決めているのだろうか?


レオンくんはイリスちゃんの前に立って巨大な赤い鳥の魔物の様子をうかがっている。


「いい加減に降りて来なさい。魔法弓、雷神怒怒矢」


イリスちゃんが再び矢を放った。


矢はまた命中するが、気にも止めずに上空で旋空し続ける巨大な赤い鳥の魔物。


さすがに、このままだと攻撃出来ないか。でも向こうも攻撃出来ないから……このままでもいいのかな?


イリスちゃんは何度も矢を放ち、全て命中させている。


それでも旋空し続ける巨大な赤い鳥の魔物。


「イリス。この魔物は一定のダメージを与えればブレスを吐く。注意しろ」


「分かってるわよ。レオンこそ、そのチャンスを逃さないでよね」


ブレス? 空から? それってかなり卑怯だよね。


更にイリスちゃんの矢が5回命中すると巨大な赤い鳥の魔物が口を大きく開けて降下してくる。


「「魔法結界、氷厚壁」」


レオンくんとイリスちゃんが同時に氷の壁を出現させる。


巨大な赤い鳥の魔物は口から火を吐きながら、レオンくん達に向かって降下して来るが、完全に防いでいる? 


え? 止まらない?


氷の壁に突っ込んでくる巨大な赤い鳥の魔物。


「ワンパターンだな。魔法剣、巨大氷剣」


ワンパターン? そうか、この魔物と戦ったことがあるって言ってたよね。


2枚の氷の壁は体当たりで砕かれたのだが、レオンくんはそのタイミングに合わせて必殺技を。


高く高くジャンプしていたレオンくんは巨大な赤い鳥の魔物に向かって巨大な氷の剣を振り下ろした。


「ビィユユュ~~~」


レオンくんの必殺技は命中?


しかし巨大な赤い鳥の魔物は止まらずにレオンくんを弾き飛ばす。


「それくらい回避しなさいよ。魔法弓、雷神速矢」


いやいや、今のは回避無理だと思うよ。


レオンくんは3メートルほど吹き飛ばされていたが、すぐに立ち上がった。


回復魔法を使い、イリスちゃんの前に移動。


「コイツの攻撃は大したことないぞ。イリス、続けてくれ」


「本当に大丈夫? アルクくんの真似はしない方がいいと思うけど」


「分かってるが、魔法だと倒せない。アルクの真似になるのは癪だが、大ダメージを与えるには、攻撃させてから、隙きを作るしかないだろ」


「そうかも知れないけど……レオンまでヘンタイにならないでよね」


え? 僕はディスられてるの?









イリスちゃんとレオンくんはまた同じ作戦で巨大な赤い鳥の魔物を迎え撃つ。









何度も何度も同じ作戦で。






巨大な赤い鳥の魔物の攻撃はワンパターンのみ。






ん? ポーション?


「レオンくん、魔力切れ?」


「心配するな。魔力を温存しているだけだ。絶対に俺達だけで倒す」


レオンくんは回復魔法を使わずにポーションで体力を回復。


イリスちゃんはまだ問題なさそうだ。


「魔法弓、雷神速矢~~~」


あれ? ブレスを吐かない?


巨大な赤い鳥の魔物がレオンくん達に向かって降下しているのだが、口が開いていない。


「ふふっ。そろそろみたいね。結界魔法、氷棘牢」


「これで決めてやるよ。結界魔法、氷太柱」


巨大な赤い鳥の魔物は気にせずに突っ込んでくる。


「終わりだ。魔法剣、巨大氷剣~~~」


イリスちゃんが魔法で作り出したのは棘棘の網目状の複数の壁。


レオンくんが魔法で作り出したのは太い1本の氷の柱。


イリスちゃんの狙いは翼?


レオンくんの狙いは停止?


巨大な赤い鳥の魔物はぶつかり、勢いを落とし、地面に着地した。


イリスちゃんとレオンくんの作戦が成功?


それとも、もう体力の限界に?


振り下ろされたレオンくんの巨大な氷の剣。


「ビィユユュ~~~」


叫ぶ巨大な赤い鳥の魔物。


「しぶといわね。でももう逃さないから。結界魔法、氷棘牢」


「ビィユユュ~~~」


「今度こそ、終わりだ。魔法剣、神速烈風斬り」


巨大な赤い鳥の魔物は?


「ふふっ。止めは私みたいね。魔法弓、雷神速矢」


レオンくんの攻撃では倒れなかったのだが……イリスちゃんの矢が額に刺さると巨大な赤い鳥の魔物はゆっくりと地面に倒れた。


「ちっ。最後をもっていかれたか」


「ふふっ。別にいいでしょ。2人で倒せたんだから」


「はぁ~まあ、そうだな」


ちょっと納得出来ていないようなレオンくん。


「ふふっ」


そして、とても嬉しそうなイリスちゃん。


2人はまだ子供だから、自分の手柄を求めてしまうのはしょうがないよね。


よし、次はレオンくんが止めの攻撃が出来るように僕も戦おうかな。


















「美味しいね。私、お肉初めてなの」


「ほらほら、遠慮せずにどんどん食えよ」


「美味しい~~~。院長先生ありがとう~~~」


「そこ、見てないで食べる。全てアルク院長の奢りだからな」


「院長先生は?」


「旅に出てるから、いつ帰ってくるのか分からないが、許可は貰ってるから安心して食べろ」


「お 美味しい~」


「ねぇねぇ。本当に明日も?」


「ああ。毎日だ」


「まさか、アルクが大きな孤児院まで作るなんて。立派になりましたな」


「まあ、孤児院は俺のアイデアなんだ。この街の人数を少しでも増やさねぇと減らないだろ」


「はははは。またアルクが何か?」


「よく分からねぇ。アルクの口座に知らない奴から毎日のように大金が振り込まれているようだし……また別のダンジョンを突破したみたいなんだよ。院長さんよ、アルクは賢者リューナの血縁者なのか?」


「え? アルクの両親は他の街の商人でしたよ。この街に移動中に魔物に襲われて亡くなりました」


「ん? なら、賢者リューナとは?」


「無関係かと思いますが」


「ただの孤児?」


「そうだと思いますよ。最近までは普通の子供でしたから」


「普通の子供???」


















「おい。あれ」


「ああ。盗賊のギウルスに間違いない」


「最近、盗賊が多すぎないか?」


「はは。お前、知らないのかよ」


「何をだ?」


「ヤマラさんが噂を流してるんだよ。アルクのダンジョンの色なしのスライムを倒した者が次の盗賊王だってな」


「なんだそれは。はぁ~それで盗賊ばかり」


「俺達はこの認識阻害の指輪で隠れて見ているだけでいいんだから楽でいいだろ」


「まあ、これで悪名高い盗賊団が18も壊滅だからな」










アルクのダンジョンのスライムの伝説は続く。









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