第14話 宝のダンジョン
「何なんだよ、お前達は」
なぜか怒っているナナマの街のギルドマスター。
レオンくんは不敵に笑いながら言う。
「俺達の他に挑戦者がいなかったから、問題ないんだろ?」
「うっ。それはそうだが……。買取額は大幅に下がるからな」
「ふふっ。別にいいわよ。アルクくんもいいよね」
「え? 大幅って……」
「アルク、違うぞ。イリスが言いたいのは、この街で、この国で売らなくてもいいってことだぞ」
「ふふっ。空間収納の指輪の中なら劣化しないからね」
レオンくんとイリスちゃんが言うとギルドマスターは焦り始めた。
「待て待て。ナナマのダンジョンで手に入れたなら、ナナマの街で売却するのが常識だろうが」
「え? そうなの?」
「アルク、そんなルールはないぞ」
「ふふっ。この人はアルクくんを騙そうとしてるんだよ」
「え? え? 詐欺師?」
「なっ。なわけないだろ。これでもギルドマスターだぞ」
それは知ってるけど……。
僕が疑いの眼差しで見ていたのが分かったのか、ギルドマスターは言う。
「分かったよ。もう2倍は無理だが通常の買取価格を出すよ」
レオンくんは首を横に振りながら言う。
「2回目のは4倍。3回目のは6倍。4回目のは8倍。5回目のは10倍だな」
「それは余りにも……」
イリスちゃんがため息を吐きながら言う。
「はぁ~。ギルドマスターなのに分かってないのね。ダンジョンボスは進化するのよ。分かっていて、通常の価格って言うなら詐欺だよね?」
「そ それは……」
「話にならないな。アルク、イリス、次の国にむかうぞ」
「ふふっ。楽しみね。次こそは私達だけで」
「そうだな。俺も強くなったから、アルク抜きでも」
「ちょっと待て」
レオンくんとイリスちゃんは気にせずにギルドの外へと。僕はその後ろをついて行く。
「どう?」
「凄いな。ナナマのギルドマスターからは聞いていたが」
「で? 払えるの?」
「ああ、もちろんだ。いや、おそらく買取金額は更に増えると思うぞ。国や商人ギルドからも、絶対にこの国で買い取れって言われてるからな。でも時間がかかるぞ」
「それなら問題ない。俺達はこれからダンジョンを突破しに行くからな」
「ふふっ。楽しみだよね。未知のダンジョンなんでしょ」
「未知と言われればそうなんだが……人気ないダンジョンだからな」
僕は気になったのでギルドマスターに聞く。
「どうして人気がないのですか?」
「あ~。それは単純に利益が少ないからだ。ダンジョンの中に出る魔物は西の樹海で出る魔物ばかり。安全に狩るなら西の樹海の方がいいんだ。一番問題なのが宝箱の中身がしょぼいんだよ。はぁ~。ダンジョンに入っても儲けは少ない。儲からないから強い冒険者は来ない。間引きがろくに出来てないから魔物の数が多いダンジョン。だから新人冒険者には厳しい」
「それでこの街には冒険者が少ないのですか」
「街もしょぼいよな。ダンジョンの近くなのにな」
「ふふっ。西の街が栄えてるんでしょ」
「はぁ~。こればかりはな」
僕は聞いてみる。
「儲けが出るダンジョンにすればいいだけじゃないですか?」
「はぁ~。ギルドからも国からも西の樹海の魔物と違って討伐報酬は出せないぞ。魔物はダンジョンから出てこないだろ。脅威があるのは西の樹海の魔物だからな」
「そうじゃなくて、宝箱の中身を増やせば?」
「中身を?」
「ふふっ。さすがアルクくん」
「おっ、それ面白そうだな」
「おいおい。俺にも分かるように話してくれよ」
「ふふっ。私達の取り分は3%でいいわよ」
「そうだな。人が増えれば国も潤うだろうから、国にも協力して貰えばいいだろう」
「だから、意味が分からないって」
レオンくんとイリスちゃんはギルドマスターを無視して、次から次にアイデアを出していく。
「だから、俺にも分かるように説明してくれよ~」
「さあて、どうかな?」
レオンくんが宝箱を開ける。
「ふふっ。成功なんじゃない?」
「まあ~こんなもんかな?」
宝箱の中には小さな魔石が5つと小さな魔法石が6つ入っていた。等級はF級かE級だそうだ。
「おおっ。本当に。大成功じゃないか。さっそく国に報告して、継続……いや。更に大量に」
冒険者ギルドは5組のC級冒険者達に依頼を出して調査を。国も調査のために兵士100人を派遣することに。
「おおっ。噂通りじゃないか」
「急いで来て正解だったな」
「そうだが、噂通りだとすると、これからも、ずっと1つの宝箱の中に大量の魔鉱石や魔法石が入ってるんだろ」
「本当ならな。まあ、どちらにしろ、稼げる時に稼がないとな」
ホクホク笑顔の冒険者達。
宝箱の中から次々と魔鉱石や魔法石を取り出していく。
「上手くいっているようだが、西の樹海はどうするんだ? ダンジョンに来ているのは西の樹海にいた冒険者達だろ?」
「そのことなら問題ない。しばらくは兵士の訓練として西の樹海の間引きをするそうだからな。良い噂はすぐに広がる。すぐに近隣の街からも、国中の街からも。そして他の国からも冒険者がやってくるだろう」
「それなら問題ないな。ダンジョンに人数制限をかければ、暇を持て余した冒険者が西の樹海で暇つぶしを」
「それにしても、よく思いついたよな。価値のなかったG級の魔鉱石と魔法石を吸収させるなんてよ」
「その情報だけは隠し通さないとな」
「ああ、絶対にな」
「はっきり言って、邪魔だな」
「ふふっ。その辺にバラ撒いておけば吸収されるでしょ。そうすれば等級が更に上がってまた宝箱の中に入るかもよ」
「まあ~そうなんだが……多過ぎるんだよな」
え? え? 多すぎる? バラ撒く? どうして? 売れるのに……?
僕はレオンくんとイリスちゃんの金銭感覚に困惑。
《 バタンッ 》
「アルク、手を出すなよ」
「ふふっ。人気のなかったこのダンジョンならね」
やる気満々のレオンくんとイリスちゃん。
部屋の中央が光り、現れたのは……狼? 大きな狼の魔物?
「魔法弓、雷神速矢」
イリスちゃんの放った矢が狼の魔物に……当たらない。
「偶然でしょ。魔法弓、雷神速矢~」
イリスちゃんはすぐに2射目の矢を放つ。
「魔法剣 神速風斬り~」
レオンくんは既に狼の魔物に接近していた。そして必殺技を。
狼の魔物は……イリスちゃんの放った矢を回避!!
そして必殺技を放っているレオンくんに突進。
レオンくんの素早さ重視の攻撃が当たる前に、狼の魔物がレオンくんに体当たり。
吹き飛ぶレオンくん。
横壁に激突……するが、回復魔法の光りが見えた。
僕は前に出る。レオンくんとイリスちゃんの戦い方では捕らえることが出来ないだろう。
「素早い魔物に攻撃するなら、足を止めること」
僕は槍を構えずに狼の魔物の前に出る。
伸びてくる狼の魔物の右前足の爪。
僕は耐える。
痛みに耐え、反撃。
「スキル、5連続突き~」
僕が攻撃すると、狼の魔物も。
「素早い魔物も走らせなければ、脅威ではないよ。スキル、5連続突き~~~」
狼の魔物は爪で、牙で、体当たりで僕に攻撃してくるが、僕は気にせずに、その隙きを見逃さず反撃。
「攻撃させると必ず隙きが出来る。そこを狙う。スキル、5連続突き~~~」
「はぁ~。どう考えても無理だよな」
「ふふっ。アルクくんは私達にも出来るって本気で思ってるみたいだよ」
「だから、タチが悪いんだよな」
「ふふっ。私達はヘンタイじゃないからね~~~」
全て聞こえてるんだけど。
僕が痛い思いをしながら戦っているのに、くつろぎながら話しているレオンくんとイリスちゃん。
狼の魔物は問題なく倒せたのだが、レオンくんとイリスちゃんには、もっと真剣に戦ってほしいよね。
【ダンジョンボス討伐達成】
【ダンジョン突破特典:常備スキル 森の賢者を守護するヘンタイ】
「どんどん食べろ。好きなだけ飲め。そこ~。喋ってる暇が、あったら食べる」
「美味しい~~~。アルクお兄ちゃん、ありがとう~~~」
「美味え~~。明日こそは俺が~~~」
「その……本当に私達も食べても? アルク様が育った孤児院ではないのですが?」
「だから、遠慮するなって。アルクの奢りだ。好きなだけ食べて、好きなだけ飲んでいいからな」
「アルクはまた何か?」
「ああ。とんでもないことをな」
「いったい何を?」
「#神魔狼__フェンリル__#を倒しやがったんだよ。それもダンジョンボスのだぞ。更にだな、その前に巨大なドラゴンを4匹も」
「え? え? フェンリル? ドラゴン……を4匹?」
「俺だって意味が分からねぇ。ただ、このままじゃアルクの金の1%を使うことは出来ねぇってことだけは分かる。だから、この街の皆で毎日祭りだ」
「飲食いが毎日無料。それをアルクって奴が全て支払ってるんだってさ」
「ふっ。やはりな」
「だな、アルクって奴はこのダンジョンでかなり儲けてるよな」
「冒険者ギルドも国も誤魔化そうとしているようだが、アルクのダンジョンは宝のダンジョンに間違いないだろう」
「ガンテが殺られたって聞いた時はとんでもねぇ冒険者が現れたって思っていたのによ」
「ふっ。俺達が宝のダンジョンを突破すれば、盗賊王ガンテの後を継げるかもな」
「ははははは。スライムを倒しただけで盗賊王かよ」
「冒険者ギルドと国が誰にも倒せないと謳ってるダンジョンボスのな」
「さあ、行こう。盗賊王になりに」
「サルク~~~。マルベ~~~。何なんだよ、俺様の幹部共が何も出来ないだと。ス スライムの分際で
。クソが~~俺様は盗賊王ウリフ様だ~~~~~」
アルクのダンジョンのスライムの伝説は続く。
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