第13話 S級冒険者の実力






「まさかダンジョンの中であの店のお肉が食べられると思わなかったよ」


「まだまだ沢山あるんだから、好きなだけ食べていいんだからね」


「さっきの弁当はアルクの金で買った奴だろ」


「ふふっ。そうなんだけどね。ほら、アルクくんは冒険者ギルドが初級冒険者達のために格安で販売してる美味しくない携帯食しか用意してないからね~」


「あ~。あのクソ不味いのか。腹減っててもゴメンだな」


え? クソ不味い? 孤児院の食事より美味しいんだけど? やっぱり、お金持ちの子供は違うんだな。







僕達は走りながら進んで行くのだが……イリスちゃんは倒した弱い魔物の魔核や魔物の部位を空間収納の指輪の中へ収納している。


「イリスちゃん、それ価値あるの?」


「ふふっ。この爪は人気だから金貨500枚くらい。この魔核は金貨10枚くらいだよ」


「え!! そんなにするの? 弱い魔物なのに?」


「ふふっ。アルクくんの基準が変なだけで、中々倒せない魔物だからね」


「え~っと……じゃあ、あの角は?」


「あれは金貨200枚くらいかな」


「え? え? さっきも倒したけど、拾ってないよね?」


「アルク、あの角は面倒くさいんだよ。取るのに5分以上かかるからイリスは諦めてるんだよ」


「え? え? え? たった5分? 5分で金貨200枚なのに?」


「ふふっ。まだまだ下層に降りるでしょ。そうすれば、もっと価値がある魔物がいるからね」


本当に? 本当なら孤児院の皆に美味しいお肉が。


「って、何してんだよ、アルク」


「ふふっ。それだと価値が少し下るよ。でも……金貨180枚くらいは貰えるかな?」


おおっ。これが、金貨180枚。


僕には解体することが出来ないので、魔剣で角を根元から斬り落としたのだ。





それから僕のせいで移動速度は落ちたが、それでも迷うことなく進んで行く。









10階層ごとにボス部屋があるので、僕らは安全な夜を過ごすことが出来た。














……あれ? 今日で何日目だろ? 10日目?



僕達の前方に扉が。


何となく分かる。


あの扉の先がダンジョンボスの部屋だということが。





「アルク。俺とイリスだけで戦うからな」


「ふふっ。200年間突破されてないダンジョンを私達が」


突破されてないなら……ダンジョンボスは強くなってないってことなのかな?






《 バタンッ 》


扉が閉まり、部屋の中央が光る。


現れたのはトカゲの魔物だった。


この魔物なら大丈夫そうかな。


「魔法弓、雷神速矢」


「魔法剣、炎纏強重撃」


いつものようにイリスちゃんが引き付けて、レオンくんが派手な攻撃を側面から叩き込む。


巨体にもかかわらず2mほど吹き飛ぶトカゲの魔物。


トカゲの魔物がレオンくんに狙いを変えると、レオンくんが引き付け、イリスちゃんが急所を狙う。


「レオン」


「分かってるよ。ブレスだろ。魔法結界、氷厚壁」


口から火を吐くトカゲの魔物。


それを防ぐ氷の壁?


長い?


僕は全力で走る。レオンくんの方へと。


イリスちゃんが叫ぶ。


「結界魔法、氷厚壁」


レオンくんの前に現れたもう1枚の氷壁。


前に戦ったトカゲの魔物のブレスは5秒ほどだったのたが、このトカゲの魔物のブレスは長い。大きさが1.5倍あるからなのか、ダンジョンボスなので、単純に強いだけなのか。


「結界魔法、氷厚壁」


レオンくんは更に氷の壁を出す。


1つ目の氷の壁が破壊されて、2つ目の氷の壁が破壊されて……長い長いブレスが終わる。


え? レオンくん?


トカゲの魔物が横回転し、尻尾を振り回したのだ。


氷の壁が砕かれ、レオンくんは吹き飛ばされてしまう。


地面に倒れているレオンくんの身体を温かな光が包んでいる。レオンくんが自らに使った回復魔法の光だとすぐに分かった。


トカゲの魔物の狙いはまだレオンくん。


僕は慌ててレオンくんとトカゲの魔物の間に立ち、魔槍を構える。


「止まれ。止まらないなら僕が相手するよ」


って言ってもトカゲの魔物が止まるわけないんだけどね。


僕が止めないと。魔槍ちゃん、力を貸して。


『【5連続突き】を覚えますか』


「え? え? 5連続? お 覚えます」


僕の方へと向かってくる巨大な巨大なトカゲの魔物。


僕は足をぐっと踏ん張り、槍で突きを。


「スキル、5連続突き~~~」


僕が突いた槍がトカゲの魔物の顔に刺さる。


身体が勝手に動く。


槍を素早く引いて、素早く突く。


それを素早く繰り返す。


トカゲの魔物は止まっていた。


「グォオオオ~~~」


トカゲの魔物は叫び……火を。ブレスを吐いてきた。


僕は火に包まれてしまう。


熱い。熱いのだが……。


ダメージは1だった。


「隙だらけだぞ。魔法剣、炎纏強重撃」


「ふふっ。レオン、結局アルクくんに守ってもらってるじゃない。魔法弓、雷神速矢」


「ちょっと油断しただけだ。魔法剣 神速風斬り」


「ドラゴンがどんな攻撃をしてくるのか分かってたでしょ。魔法弓、雷神速矢」


「コイツはデカ過ぎるんだよ。普通のやつなら。魔法剣、神速烈風斬り」


レオンくんとイリスちゃんは動き回り、素早い攻撃でトカゲの魔物を一方的に攻撃している。


凄い連携攻撃だけど、レオンくんもイリスちゃんも魔力は持つのかな?












「ちっ。効いてるはずなのに。魔法剣、神速風斬り」


魔力が尽きかけているのか、移動速度が落ちているレオンくん。よく見るとイリスちゃんもだ。2人とも魔法で素早さを上げていたのだろう。


まあ、素早さ重視で、攻撃力が低そうな必殺技ばかりだったからね。


僕は前に出た。


「スキル、5連続突き~~~」


トカゲの魔物の横腹に5つの傷が出来、血が吹き出す。


トカゲの魔物は僕の方を向く。


レオンくんもイリスちゃんも氷の壁を出せないかも知れないからね~。


「グォオオオ~~~」


ブレスが来るのが分かっていたのだが、気にせずに更に前に出る。


「スキル、5連続突き~~~」














「ヘンタイだな」


「さすがに、ちょっとね」


「はぁ~。まただぞ」


「アルクくんにはドMの魔鎧使い、超ドMの魔鎧使い、魔鎧を着たドM神っていうダンジョン突破特典の常備スキルがあるみたいだけど……さすがにドン引きだよね」





頑張って戦っている僕の後ろで、のんびりくつろぎ、そんなことを話しているレオンくんとイリスちゃん。


「スキル、5連続突き~~~」


ブレスが来ても気にせずに。


「スキル、5連続突き~~~」


体当たりされても気にせずに。


「スキル、5連続突き~~~」


尻尾が来ても気にせずに。


「スキル、5連続突き~~~」







「自分らだけで倒せるようになりたいが、ああはなりたくないよな」


「ふふっ、さすがにね~」


横たわるトカゲの魔物を見つめながら、そんなことを言うレオンくんとイリスちゃん。





【ダンジョンボス討伐達成】


【ダンジョン突破特典:常備スキル 森の賢者の守護神】




















「ヤマラオジサン、美味しい~~~」


「美味しい~美味しい~ね。ヤマラオジサン、ありがとう~~~」


「俺じゃねぇぞ。アルクの奢りだから、アルクに感謝しろよ」


「アルクお兄ちゃん?」


「そうだ。アルクからは預けている金の1%を毎月使ってくれって言われてるんだよ。院長さんも遠慮せずに食べろよ」


「私は見てるだけで、子供達の笑顔を見ているだけで幸せですから」


「はぁ~。頼むからいっぱい食べてくれ。毎日この店に来てもアルクの金は減らないんだからな」


「減らないとは?」


「はぁ~。アルクはまたダンジョンボスを倒しやがったんだよ。それも200年間以上も突破されてないダンジョンの。それもそれもだな、ダンジョンボスは巨大なドラゴンだったんだとよ。はぁ~巨大なドラゴンをまるごと冒険者ギルドに売却したから、アルクの金は~。更にダンジョンボスを倒した後に出る宝箱からも、とんでもない物がな」


「アルクがドラゴンを?」


「ああ。だから遠慮するのは無駄だぞ。逆に金が全く減ってないと、アルクに心配させることになるからな」


「はぁ~。それじゃあ、1本だけ」


「だめだだめだ。そこにあるのは全部食え。まだまだ注文してるんだからな」


「わあ~。またお肉来たよ~~~」


「焼き鳥大好き~~~。美味美味~~」





















「ははははは。何だよ、あの映像~」


「ふふふっ。私なんか、すぐに笑っちゃたわよ」


「まあ、仕方ないだろう。1階層のみのダンジョンを国だけで独占したいのだろうからな」


「調べればすぐに分かるのにね」


「国であっても、情報が得られないのだろう。冒険者ギルドは独立しているからな」


「それにしても14歳の子供がF級からS級なんて無理だろ。俺達S級冒険者を馬鹿にするなって話だよな」


「ほんとほんと。ありえな~い」


















「ははははは。マジで色なしの魔核だぜ」


「ふふふっ。一撃で終わっちゃはないでよね~」


「あっ。ララム、抜け駆けかよ~。え? え? え?」


「ララム? 嘘でしょ?」














「イヤ~~~~~どうして開かないのよ。こんなの嘘よ~~~。私達が何も出来ないなんて。そ、そうよ。これは夢。夢なのよ~~~~」









アルクのダンジョンのスライムの伝説は続く。









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