第11話 放り込んでおけばいい






「そろそろ……。あれ? レオンくんとイリスちゃん? 装備は?」


「ふふっ。秘密」


「あのスライムが相手だと装備なんて意味ないからな」


そ そうかも知れないけど……A級装備を手放すなんて……。あっ!!


「レオンくん。もしかして、お金に困ってた? 僕のために上級ポーションを大量に購入してくれたから?」


「なわけないだろ。アルクから、たんまり報酬を分けて貰ってるし、俺とイリスにも盗賊王討伐報酬が入ったの知ってるだろ」


じゃあ……何で手ぶら???




僕が魔剣を鍛えている間に2人でどこかに出掛けていたのは知っているのだが?




















「アルク、分かってるな」


「え? レオンくん、何が?」


「アルクくん、これが最後の戦いになるってことだよ」


「最後? え? どうして?」


「はぁ~。さすがにもう隠し通せないだろ」


「だよね。冒険者ギルドだけじゃなく、国も動くんじゃないかな」


「え? え? 国が動く?」


「1階層だけのダンジョン。アルクがギルドに持ち帰った宝箱の中身。誰もが欲に釣られるだろうな」


「うんうん。ヤマラさんが危険度を伝えても欲にはね」


「でも僕でも討伐可能だから、強い冒険者や強い兵士なら楽に。そうか。確かにそうだよね。沢山の人達が何度も何度もスライムを倒せば僕なんかじゃ倒せなくなるんだね」


「「…………」」


なぜか何も答えてくれないレオンくんとイリスちゃん。



まあ、いいか。


「レオンくんとイリスちゃんは絶対に前に出ないでね」


「ああ、いつも通りアルクに回復魔法を使うだけだから安心しろ」


「ふふっ。今回は上級ポーション100個買って来たからね」


ポーションの入った鞄を持っているだけで武器も鎧も装備していないレオンくんとイリスちゃん。魔力の指輪までないのだが……。












《 バタンッ 》


「最後の勝負だ。横斬り~。折り返し斬り~」


僕はスキルを使わずに戦った。


痛いが、痛いが、これが最後の戦い。













アルク

レベル40

HP  511/4255

MP 3109/3109





何となく分かる。


まだ10%もダメージを与えてないと。


スライムは強くなった。


僕も少しくらいは強くなったのだろうか。


「斬り上げ~からの斬り下ろし」


僕とスライムの攻防は続く。











「ねぇ、スライム。僕は強いかな? 少しは強くなったかな?」


もちろんスライムは何も答えてくれない。


ただただ僕に体当たりしてくるだけ。


僕が攻撃してスライムが攻撃。


ただそれだけを何度も何度も繰り返す。


これまでも何度も何度も繰り返してきた。


沢山沢山痛い思いをして来た。


でも……。


でも……。


僕は手に入れた。


笑顔を。


沢山の沢山の笑顔を。


僕は貧しい孤児。


「ねぇ、スライム。今日はね、僕の誕生なんだ。僕は15歳。人はね、15歳になると大人って呼ばれるようになるんだよ」


皆で食べた初めてのお肉。


本当に美味しかったよ。


アルクお兄ちゃん、ありがとうって笑顔で。


美味しいだけじゃなくて、嬉しかったよ。










僕とスライムの戦いは終わらない。


回復魔法で魔力を全て消費しても。


レオンくんとイリスちゃんの魔力を全て消費しても。


「本当に強くなったね。これ以上強くなられると、僕では勝てないよ」


上級ポーションを使用しながらスライムとの戦いを続ける。








僕は笑っているのかも知れない。


痛いのに、痛いのに。


僕はスライムとの戦いを楽しんでいるのかも、楽しんでいたのかも知れない。

















萎んでしまったスライム。


僕の魔鎧は進化したのだが、その喜びよりも……スライムとの戦いが終わってしまった悲しさ? 寂しさ? の方が上回っていた。


「スライム。今までありがとう」




【ダンジョンボス討伐達成】


【ダンジョン突破特典:常備スキル 勇者の旅立ち】










僕は萎んだスライムを寂しさを感じながら見つめていたのだが……。


「成功だな。これで俺達も」


「うん。これで私達はアルクくんの役に立てるようになるかもね。あっ、見て。空間収納の指輪も進化してるよ」


「上級ポーションもだぞ。宝石も魔道具までも」


満面の笑顔でレオンくんとイリスちゃんが大きな宝箱を開けて……装備品を!! 自分達の装備品を取り出していた。



















「アルク、すまない」


ヤマラさんが頭を下げた。


「え~っと……もうダンジョンには入れないってこと?」


「すまない。ダンジョンの調査隊が明日にはこの街に来るそうだ」


「そうですか。あっ、場所を教えましょうか?」


「いいのか? ……そうだな、自分から報告した方が印象がいいかもな」






僕はダンジョンの詳しい場所をヤマラさんに伝えた。


「アルクから預かっていた魔槍を返しておくな。もう盗賊王ガンテの死を疑っている奴はいないからな」


「僕には魔剣があるので、いつでもよかったのに」


「はぁ~。最高等級の魔槍なんだがな。御伽話の中にだけ描かれていたSSS級の魔槍なんだ、使いこなせるように努力しろよ」


「え~っと、そうですね。使いこなせれば少しは強くなれるかもですね」


「はぁ~。アルクはこれからどうするんだ?」


「そうですね……。僕も大人になったので冒険者として頑張るのもいいのかも知れませんね。でも、その前にレオンくんとイリスちゃんのレベル上げをした方がいいかな? 僕と同じくらいになるまでは」


ヤマラさんはなぜか苦笑い。


レオンくんは少し呆れたように言う。


「俺とイリスのレベルは126だぞ」


「え? 僕のレベルは40なのに?」


イリスちゃんは笑う。


「ふふっ。レベル上げのために、他のダンジョンを突破して回るのもいいよね」


「おおっ。それいいな」


イリスちゃんに乗っかるレオンくん。


ヤマラさんは苦笑いのまま。
























「アルクお兄ちゃん、美味しいね」


「アルクお兄ちゃん、今日が最後なの?」


肉を頬張りながらも、ちょっと寂しそうな表情。


「大丈夫。冒険者ギルドのヤマラっておじさんにお金を預けてるから。毎月お兄ちゃんが預けている1%くらいは使っていいって言ってあるから」


「また食べれるってこと?」


「そうだよ。お兄ちゃんももっと頑張って、もっともっと稼げるようになるから、良い子にしてるんだぞ」


「やった~。お肉美味しい~」


「あ~今日が最後か~。俺達も稼げるようになって奴隷冒険者から抜け出さないとな」


「ぷは~、美味しい~。今度からはお姉ちゃん達が奢るんだからね~。頑張るぞ~乾杯~~~」













アルク

レベル40

HP 352/6255

MP 0/5309


SP 33   

EX 181952


常備スキル 新たな英雄、歴戦の探索者、ぼっちの剣士、伝説の魔剣使い、ドMの魔鎧使い、超ドMの魔鎧使い、剣速王、魔鎧を着たドM神、闘神、勇者の旅立ち


スキル 剣技【受け流し】、【痛感軽減】、【連撃】


魔法 初級回復魔法


装備:A級の魔剣、F級の盾、S級の魔鎧、S級の指輪


アイテム:薬草玉341粒


所持金   金貨153979枚









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