第9話 盗賊の宝
「アルク。今日も1日中それを続けるつもりなのか?」
「アルクくん。5日目だよ」
「レオンくん、イリスちゃん。魔物退治は大変なんだよ。舐めてたら命を落とすことになるんだからね。それに、ほら。宝箱」
「はぁ~。回復薬くらい買えばいいだろ」
「そうだよ。それは人気ない薬草玉でしょ。大した回復力もないし、凄く凄く苦いんだよ」
「これは無料なんだよ。苦くても、ちゃんと回復してくれるし」
「はぁ~。アルクもS級冒険者だろ。戦闘中は回復に時間をかけれないことくらい理解してるだろ?」
「え~っと……無料なんだよ?」
「アルクくんの方が戦闘を舐めてるような……。強いから、死闘の経験が少ないのかな?」
「え? 僕はいつも死闘を繰り広げてるよ」
「はぁ~。あれは死闘なんて言わねぇだろ」
「え? え?」
なぜか飽きている2人。
はぁ~レオンくんもイリスちゃんも子供だから、派手な戦い方に憧れてるんだろうね。
僕は1人で黙々と戦い続けた。
そして……。
僕も驚いていたのだが、眠そうにしていたレオンくんとイリスちゃんが驚きながら、駆け寄ってきた。
「アルク。魔剣が進化したのか?」
「アルクくん。それってS級の魔剣になったの?」
僕の魔剣は普通の黒色の剣だったのだが……綺麗な黒色に。艶のある奇麗な……漆黒と言うのだろうか。何より力が溢れてきそうな力強さを感じる。
気になったのでステータス画面を確認してみると……増えてる?
アルク
レベル40
HP 455/755
MP 309/609
大幅に体力と魔力が増えている。試しに魔剣を床に置いてみたのだが、増えたままだった。
「さすが勇者様。S級の魔剣の使い手なんて、世界でも数人だよね」
「だな。一目見ただけで、凄い剣だと、S級の剣だと分かるよな」
「え? この魔剣はまだA級だよ」
「これでもA級なの?」
「マジかよ~。これでも最高等級の魔剣じゃないのか」
「まあ、毎日頑張れば、その内SSS級になるんじゃないかな?」
「SSS級? S級よりも上ってこと?」
「はぁ~。俺達の武具もA級なんだが……別次元だな」
あれ? レオンくんとイリスちゃんはお金持ちの子供だったの? てっきり孤児だと思ってたけど……家族は心配してないのかな?
僕達が街に戻るとヤマラが孤児院の前に立っていた。
「こんにちは、ヤマラさん」
「どうやら無事のようだな」
「え? 何かあったの?」
「厄介な奴が目撃されてな」
「強い魔物……強い魔物の群れですか?」
ヤマラさんは首を横に振る。
「盗賊ガンテだ。A級盗賊だから名前くらい知ってるだろ」
え? 有名な盗賊なの? 盗賊の名前なんて1人も知らないんだけど。
「私達を追って来たのかも?」
「はぁ~アイツはしつこいからな~」
「イリスちゃんとレオンくんは知ってたんだ。子供狙いの盗賊団ってこと?」
僕がそう言うとヤマラさんはため息を。
「はぁ~知らないのかよ。まあいい。すぐに討伐隊が編成されるから、アルク達はこの街から動くなよ」
街から動くなって言われたけど、安全な近くの小さな森ならって思ってました。
ヤマラさん、ごめんなさい。
「レオンにイリス。会えて嬉しいよ」
盗賊の首領ガンテがレオンとイリスをニヤニヤした表情で見つめながら言う。
「私は会いたくなかったんだけど、何かようなの?」
「おいおい、俺様の肩を射貫いておいて、その態度か?」
「私は胸の中心を狙ったんだけどね」
え? 殺すつもりだったってこと?
「ははははは。まだ俺様を倒せるつもりでいるのかよ。2度も不意打ちは喰らわねえぞ」
そんなやり取りをしていると階段を上がって来た盗賊が言う。
「ガンテの頭、中に入った奴らが殺られてましたぜ」
「バクンもか?」
「はい。ナカナもサンガも殺られてましたぜ」
ガンテがイリスちゃんを睨む。
「イリス。あの部屋は何だ? スライムがいるだけの部屋だと嘘つきやがって」
「本当だよ。なんなら、一緒に入りましょうか?」
イリスちゃんは笑いながら階段に移動。そしてガンテを警戒しながら降りていく。もちろんイリスちゃん1人だと危ないので僕も一緒に。
僕とイリスちゃんが部屋に入るとガンテとその仲間達も入って来た。
そして、少し後にレオンくんが、ドヤ顔のレオンくんが部屋の中に。
「外の雑魚は倒して来たぜ。残りはそいつ等だけだ」
レオンくんを睨むガンテと15人の仲間達。既に部屋の中央は光っているのだが……。
「もういい。レオンを殺せ」
「頭~~~」
「何なんだ、このスライムは~」
盗賊達は大混乱に陥った。スライムの1回の体当たりで3人の盗賊が横壁まで吹き飛ばされたのだ。僕とイリスちゃんは部屋の奥まで移動した。僕達を追ってきた盗賊達は部屋の中央を移動中だったので、スライムの標的になったのだ。
「バカヤロウ、慌てるな。色なしのスライムだろうが」
「効かねえぞ、こいつ」
「頭。剣も魔法もつうじねぇんだ」
「はぁ~。お前達はレオンとイリスを見張っていろ。なんで俺様がスライムの相手をしなきゃならねぇんだよ~」
ガンテはイライラした表情で叫びながらスライムに槍で攻撃。高級そうな槍で、重い攻撃のある突き……に見えたのだが……。
「俺様の攻撃が効かない? ぐふぁっ」
スライムがガンテに攻撃。
ガンテは2メートル程吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。
口からは血を垂らし……その表情は怯えているように見える。
スライムはブルブルと震える。
「く 来るんじゃね~。そ そうだ。お前らも戦え~」
それが盗賊王ガンテの最後の言葉だった。
盗賊達は更に混乱。何も出来ずに殺られ。スライムにしか目に入ってなかった盗賊はレオンくんとイリスちゃんに。
「アルク、すまないが……戦ってくれるか?」
「アルクくん、巻き込んじゃって、ごめんね」
「え? スライムとは元々戦うつもりだったから問題ないよ」
僕がダンジョンに入るために、穴を掘っていたら盗賊達が現れたのだ。なんでも認識阻害の指輪を装備していたらしく、索敵が得意なレオンくんとイリスちゃんでも気付けなかったのだと。ダンジョンの入口を見られてしまったのだが……盗賊達は全滅。後は予定通りスライムと戦うだけ。
「貴様の防御力を上回ってやる。魔法剣、炎纏強重撃~」
僕が戦うと言ってるのにスライムに攻撃するレオンくん。
し 死んでないよね。
今日も横壁まで吹き飛ばされて背中から激突したレオンくん。
すぐに右手を上げて、生きていることをアピールしてくれたのだが……床には大量の血が。回復魔法の光に包まれているのが見えるが心配だ。
「イリスちゃん、レオンくんの手当てを」
「私も一撃だけ試させて。魔法弓、雷神怒怒矢~」
派手な攻撃なのになのに……ぽよんと弾かれるイリスちゃんの矢。
「イリスちゃんとレオンくんは危ないから近づかないでよ」
「ごめんなさい、アルクくん。アルクくんなら大丈夫だと思うけど、スライムの防御力が前より上がっているよ」
「攻撃力もな。俺達が全く役に立たないなんて」
心配そうな表情のイリスちゃんと悔しそうな表情のレオンくん。
僕とスライムの戦いは……いつも通り。
いつも通り痛い。
アルク
レベル40
HP 740/755
MP 609/609
15回攻撃されたので1回のダメージはいつも通り1。
「アルク? どうしてスキルを使わないんだ?」
「魔力温存だよ。スライムの体力が増えてたら負けちゃうかも知れないからね」
スキル連撃を使えば与えるダメージは2増えるかも知れないが10回使ってもダメージは20与えれるだけ。スキルに使う魔力10があれば僕の体力を30回復出来る。魔力を回復に使う方が1.5倍お得なんだよね。ギリギリの戦いになるなら、少しでも効率よく戦う必要があるだろう。
アルク
レベル40
HP 18/755
MP 89/609
魔鎧が軽く?
いや、軽くなっただけじゃない?
アルク
レベル40
HP 18/1255
MP 89/1109
なんか体力と魔力が……凄いことに。
「グハッ。い 痛いっ」
ステータス画面に意識を取られてスライムから目を離してしまっていた。
まだ終わってなかったんだったよ。
でも分かる。なんとなくだけど。
「君の体力も残り少ないよね。そろそろ終わりにしよう。連続連撃~~~」
横斬り~折り返し斬り。振り下ろし斬りから斬り上げ。
「グハッ。も もう一度~」
横斬り~折り返し斬り。振り下ろし斬りから斬り上げ。
「グハッ。まだなの?」
僕とスライムの戦いは続く。
危なかったよ。最初からスキルを使ってたら……負けてたかも?
僕はそんな風に思ってたのだが……。
「アルクはヘンタイだな」
「私達も回復魔法を使えるんだから、スキルを最初から使えばよかったのに。それにアルクくんなら上級ポーションくらい沢山買えるよね」
え? そんな顔して、イリスちゃんまで僕をヘンタイ扱い?
【ダンジョンボス討伐達成】
【ダンジョン突破特典:常備スキル 魔鎧を着たドM神】
スキルまで僕を馬鹿にするのか……って凄い!!
魔鎧を着たドM神 HP1000上昇、MP1000上昇
アルク
レベル40
HP 6/2255
MP 19/2109
僕の体力と魔力が何だか凄いことに。
「俺の言いつけを守らずに出かけて……何したって?」
「だから僕は何もしてませんよ。ただ見ただけですから」
「はあ? 盗賊王ガンテとその幹部達がスライムに殺られるところを見たなんて誰が信じるんだ? つくなら、もっとマシな嘘にしろよ」
「え? 本当なんですよ。ほら、その証拠の荷物です」
「はぁ。それがとんでもない物だとは分かる。だがな、盗賊王の首も武具もないじゃないか。幹部達のもな」
「え? それは……」
「だから言っただろ、アルク。武具くらいは持ち帰ろうって」
「ふふっ。血がついてるから、いらないってね。売れば物凄い大金が入るのにね~」
レオンくんとイリスちゃんがそう言うとヤマラさんが僕を睨んできた。
「アルク、テメェは。盗賊討伐の報告義務は冒険者なら何度も言われてきたよな? 盗賊王ガンテに苦しめられてきた人達がどれくらいいるのか考えたのか? その死を知れば、どれくらいの人達が安堵するのかを考えたのか? 盗賊王ガンテと幹部達がいなくなれば、残党狩りの難易度が格段に下る。報告すれば沢山の冒険者が参加してくれて、盗賊達のアジトに捕らわれている人達を救えるかも知れないんだぞ」
ヤマラの怒鳴り声での説教が続く。
僕は何も悪くないと思うのだが?
それに報告義務? 初めて聞いたんだけど?
「アルクにはこれから講習を受けてもらうからな。昇級した時の10倍は覚悟しろよ」
「え? 昇級した時ですか?」
僕がそう言うとヤマラさんは、ハッとした表情に。
「まさか……昇級した後に受けてないのか?」
そんな話は誰にも聞いていない。
「はい。誰から言われるのですか?」
僕がそう言うとヤマラさんが僕から目をそらした。
「まあ、あれだな。今回は仕方ない。明日でもいいから、盗賊王ガンテの武具や幹部達の武具を出来るだけ提出してくれ。もちろん、討伐報酬を出す。武具は売却しても、アルク達が使っても問題ない。以上だ。お疲れ様」
急に話が終わったのだが?
「美味しい~~~。アルクお兄ちゃん、美味しいね」
「美味しい。アルクお兄ちゃん、これも美味しいよ」
「それは南国から取り寄せして貰ったんだ、美味いだろ。そっちは北国の料理だな」
「私、これ好き。沢山収納しよう」
「ぷはー。最高~。冒険者奴隷として盗賊王ガンテ討伐隊に参加させられた時は死ぬかもって思ってたのによ。あ~美味え~」
「アルクちゃんに乾杯~。これはここだけの話なんだけどね。盗賊王ガンテは勇者様に倒されたって噂なのよ」
はぁ~。そんな大声で言うと秘密にならないと思うんだけど。それにその噂が本当ならスライムが勇者様になるんだけどね。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。誰に聞いたの?」
「ぷはー。秘密よ。ここだけの秘密なんだからね。それはね、イリスちゃんからよ」
イリスちゃんからって。
「ぷはー。そしてレオンくんからもよ」
はぁ~レオンくんもなんだ。
「ぷはー。そしてそしてギルドマスターからもよ」
ヤマラからも? 誰も秘密を守ってくれないんだね。
「お会計は小金貨3650枚になります」
「え? え? う 嘘だよね?」
店員さんは苦笑いしながら首を横に振った。
アルク
レベル40
HP 6/2255
MP 19/2109
SP 33
EX 178952
常備スキル 新たな英雄、歴戦の探索者、ぼっちの剣士、伝説の魔剣使い、ドMの魔鎧使い、超ドMの魔鎧使い、剣速王、魔鎧を着たドM神
スキル 剣技【受け流し】、【痛感軽減】、【連撃】
魔法 初級回復魔法
装備:A級の魔剣、F級の盾、A級の魔鎧
アイテム:薬草玉156粒
所持金 金貨83979枚
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