最終話











「アルスさん。他の神達はアペプに付くそうです。アルスさんではアペプに勝てないと判断したようですね」


「まあ、そうだろうね。昨日までの僕は成長が止まり、ボケも始まっていたからね」


「神達を皆殺しにすればいいのね」


「少しは楽しめそうですね」


「いやいや。むやみに神達を倒すのはよくないよ。アペプに味方しないと、その神様の種族がアペプに滅ぼされてしまうからだよね。向かって来ない限り、手は出さなくていいと思うよ」


「分かったわ。腕がなるわね」


やる気満々のイリス。全然分かってくれていないようだ。


「アペプが呼んでいますが、行きますか? 行くと言えば私が位置を伝えるので、召喚してくれると思いますよ」


「まあ、弱いと思われてる僕達を罠に嵌めるようなことはしないよね。あるとすれば、逃げられない罠くらいだよね」


「でしょうね。まあ、イリスさんの特殊スキルなら逃げ出せると思いますけど。では、アペプに私の位置を伝えますよ」


リースがそう言ってから、10秒もしない内に僕達の身体は光りにつつまれる。そして、目の前の景色が変わる。


僕達を取り囲んでいる神達。


そして、いきなり、炎に包まれる。


罠だったのか。まさか、こんな卑怯な手を。いや、待てよ。この炎はイリスの仕業か。他の神達はイリスとレイラに任せて僕はさっさとアペプを倒そうかな。






「奇襲とは思い切ったことをする奴らだ。しかし、貴様が俺様に勝てなければなんの意味もない」


「あなたにこの違いが分かりますか?」


僕はステータス調整を使用する。


アルス

年齢15

レベル357

職業→剣士



アルス

年齢70

レベル412

職業→剣士




「違い? 何も変わってないではないか」


アペプにも僕の変化が分からなかった。


昨日、イリス達にも試したのだが、アペプと同様に僕の変化に気づくことはなかった。


ステータス調整のチートさに。


僕の特殊スキルはゼバス様の力。


ゼバス様の力の全てを引き出せる力なのだろう。


僕は更にレベルを上げる。


それでもアペプは僕の変化に気づかない。


「つまらぬ。ハッタリで乗り切れるとでも思ったか」


アペプが空間収納から剣を取出し、僕の方へと向かってくる。


速いが、速いが、今の僕には対応出来る速さ。


僕は更にレベルを上げる。


僕はアペプの剣を剣で右下へと受け流し、右下からアペプに向かって左上へと剣を振り上げる。


「ちっ。実力を隠してやがったのか」


アペプは慌てて後ろに飛ぶが遅い。今の僕には。


僕の剣はアペプの胸を斬り裂いた。致命傷にはならないが、アペプはかなり動揺している。


「馬鹿な。俺様に傷を負わせることが出来るやつなど……ペプクス以外には……ペプクスとゼバス以外には……」


「あなたが相手しているのが、ゼバス様の力ですよ。そして、周りの神達を蹂躪しているのが、ペプクス様の力です。まあ、ゼバス様とペプクス様は昔よりも強くなっていますけどね」


「強くだと。う、嘘をつくな。ゼバスは自らが生み出した子等を守るために全ての力を使い果たしたのだろうが。神達から聞いておるわ。ペプクスにしても俺様達の封印で神力を使い果たしている。強くなれるはずがないではないか」


「ならなぜ、あなたは僕に勝てない。ならなぜ7竜は倒されたのか。ならなぜ、周りの神達は蹂躪されているのか」


「7竜が倒されただと? 気配が消えていることには気づいていたが……」


僕は更にレベルを上げる。


「ゼバス様の力が分かりますか」


僕は更に更にレベルを上げる。






アルス

年齢1500

レベル1842

職業→剣士




見た目は15歳のままの僕。強さだけが増していく。




「予想よりは強いようだな。だが俺様は最強。力を隠していたのは貴様だけではないぞ」


強がるアペプ。


「それって神力を使ってなかっただけですよね。使用すると回復しないから」


「黙れ。神力とは神の力。俺様の本当の力なのだ」


「そのままの意味ですよね」


アペプがどこまで強くなるのか分からないので僕は更にレベルを上げていく。


特殊スキル=神力。つまりゼバス様の力。レベルの最大値はゼバス様の力の最大値。


ゼバス様の方がアペプよりも強いようだが、ゼバス様の力は僕とイリスとレイラに分かれている。出し惜しみすれば、負けてしまうだろう。


「最強たる神の力を受けてみよ。神魔天地斬」


アペプは剣に魔力と神力を纏わせ、僕に向かって剣を振る。僕は剣に魔力と神力を融合させ、受け止める。


「手加減は無用ですよ。次は僕からいきますよ」


「馬鹿な。俺様の攻撃を受け止めただと」


意味の分からないことを言うアペプ。


僕は後ろへと下がるアペプに向かって踏み込み、剣を振る。


アペプは? なぜか、剣に魔力と神力を纏わせただけで僕の剣を受け止めようとした。


もちろんアペプの剣を斬り落とすことが出来たのだが、なぜ?


なぜアペプは、魔力と神力を融合させないのか?


もしかして……出来ない?


いや、それはないよね。


慌てて剣を取り出すアペプ。


僕は試しにもう一度アペプに攻撃を。


……再び斬り落とせたのだが。


本当に出来ない?


もしかしてアペプは最初から強かったのか?


だから熟練度が全く上がってない?


もしかしてゼバス様も?


神様だから戦闘の経験が少ない?


僕には2千年の戦闘の経験にゼバス様の知識。そして何千年もの間に強化されたゼバス様の力の欠片。


2千年も頑張らなくても勝てたんじゃ? 2千年の間に仲間になると約束してくれた沢山の神様達はアペプに寝返って、イリスとレイラに蹂躪されてるし。


僕の2千年が無駄じゃなかったと思いたいけど……。


無駄じゃなかったよね?


ね? ゼバス様? 聞いてますよね?


何も答えてくれないゼバス様。ゼバス様の知識を得たことで、ゼバス様が完全に消滅しないことも、意識が消えないことも分かっている。ゼバス様は今、僕の中に封印されているような状態。僕には取り込んだゼバス様の力を全て分離することは出来ないが、一部くらいなら出来る。ゼバス様なら一部だけの力でも復活し、僕の中のゼバス様の力を分離して取り戻すことも可能。


はぁ。ゼバス様、聞いてますよね。僕の寿命はイリス達に合わせることにしますからね。僕の人生はイリス達と一緒に終わらせます。もちろん、楽しんでからですよ。その後は、ちゃんと復活してくださいね。

 

分かりました。では、そのように。


はぁ~。やっぱり聞いてたんじゃないですか。


ははは。時が動き出しますよ。今のアペプはアルスさんよりもずっと弱いですが、成長速度が速いので、今の内に倒してくださいね。封印はリースさんにお願いすればいいですからね。


成長速度!! そうか。アペプも強くなるのか。でも成長しているのはゼバス様もですよね。僕の中で2千年間成長してましたよね。そして今も。アペプよりも成長速度が速いゼバス様の力を僕が使えるのだから、僕が負けるはずがありませんよね。


アペプの剣から感じる力は上がっているように感じるが、それは僕の剣も同じ。


動き出す時。


アペプは諦めずに僕に向かって来る。


「何度も防げると思うなよ。神魔天地斬」


僅かな時間で攻撃を上げたアペプ。確かに凄いことなのだが、成長速度は成長しているゼバス様の力を取り込んだ僕の方が上。


再びアペプの剣を斬り落とす。


「馬鹿な、馬鹿な。最強の俺様が何度も何度も負けるはずがない」


そう叫びながら後ろへと下がるアペプ。


逃さないよ。終わりにしよう。


僕は前に出る。


「最強はゼバス様ですよ。この世界の神であるゼバス様です」


「止めろ~」


僕はアペプに向かって剣を下から上へと振り上げた。


剣も盾も持たないアペプ。僕の剣はアペプの身体を深く深く斬り裂いた。


それでも僕は追撃の手を休めない。剣をすぐに上から下へと振り下ろす。


アペプの斬り裂かれた身体はすぐに回復する。神力によって。


斬る斬る斬る斬る斬る。


回復しても斬る斬る斬る斬る斬る。


アペプが抵抗しようと新しい剣を取り出しても、すぐに斬り落とし、アペプの身体を斬る斬る斬る斬る斬る。


何度でも回復するアペプの身体。神力を消費して、


斬る斬る斬る斬る斬る。


アペプの回復力は凄いが、消費したアペプの神力は回復することが出来ない。


封印しても、いつかは復活するだろう。


その時には僕はいない。


僕のすべき事はアペプに全ての神力を消費させること。


そのために、斬る斬る斬る斬る斬る。


「俺様は神なのだぞ~」


苦痛の表情で叫ぶアペプ。


「違う。神はゼバス様。この世界では、あなたは神ではない」


「俺様は神だ~。ゼバスさえ倒せば、この世界でも」


「神様が消滅しないことは、あなたも知ってますよね。この世界の神様は永遠にゼバス様ですよ」


「クソ~~~。もういい。全てを終わりにしてやる。本当の俺様の力を。神の力を見せてやる。7竜よ、俺様の元に来い」


「7竜? それはレイラが倒しましたよ。 ん!!」


アペプの力が急激に増したのを感じた僕は後ろへと飛び、アペプから距離を取った。


「はははははは。もう7竜は復活することが出来なくなったが、仕方ない。まあ、貴様を殺し、ゼバスを消滅させれば、俺様がこの世界の神になるのだから、その後なら可能か」


あれだけ一方的に攻撃されてたのに僕に勝てるつもりでいるアペプ。


このままでも負けないと思うのだが、僕は再びステータス調整を使用することにした。最大まで。



アルス

年齢1500

レベル1842

職業→剣士






オルスとして生きた82年。


アルスとして生きた2000年。





アルス

年齢2082

レベル2424

職業→剣士





僕のレベルは2424まで上がった。


もはや、負ける気など全くしない。




アペプが自らの神力を分けて生み出した7竜はダンジョンの最下層で寝てただけ。


ゼバス様が自らの神力を分けた人族は特殊スキルを操り、成長して来た。


分けてた神力が戻って来ただけのアペプ。


分けてた神力が成長して戻って来たゼバス様。


僕が負ける要素は無い。











アペプの悲痛な叫び声が響き渡り、勝敗は決定した。














「楽勝だったわね」


「イリスはやり過ぎだよ。神達が涙目だよ」


「アルスに言われたくないわよ。無茶苦茶にアペプを斬ってたでしょ。見ていて、引いたわよ」


「あれはアペプに全ての神力を消費させるために仕方なかったんだよ」


「そう。じゃあ、私もそうよ」


絶対に違うと思うのだが、スルーする。


「アルスくんは、これからどうするの? 神にでもなるつもり?」


「な訳ないだろ。僕はレイラとイリスとリースと旅をするよ。楽しい旅をね」


「アルスさん。それではゼバス様は?」


「ゼバス様なら復活したよ。僕達の子供として生まれ変わりたいって言ってきたから、全力で拒否したら、僕から出て行ったよ。子供の名前がゼバスで神様なんて絶対に嫌だよね」


「それは嫌ね」


「私も嫌ですね」


「ふふふっ。私はアルスさんとの子供なら嬉しいですね」


「リースは神様だから子供は出来ないでしょ」


「ふふふっ。私は神を辞めましたよ」


「辞めた? そんなこと出来たの?」


「アルスさんから教えてもらいましたよ。ふふふっ」


「僕?」


「はい。神力を使い果たせばいいと」


「あっ。そうか。で? リースはどうなったの?」


「私にも寿命が出来ました。残された時間は100年という予感がしますね」


「そうか。後悔はないんだね」


「もちろんです。残された時間は100年しかないので、全力で楽しむつもりです。アルスさん、イリスさん、レイラさん。よろしくお願いしますね」


「そうだね、僕も残り67年しかないだろうから、全力で楽しまないとね」


「そうよね。アルス達と一緒なら、毎日が楽しくて一瞬で終わってしまいそうね」


「アルスくんとまた一緒の旅、楽しそうですね。残された時間は私が一番少そうだから、今日から全力で楽しみます」


たったの67年。僕の人生の3%の時間。


沢山笑おう。


イリスと一緒に。


沢山笑おう。


レイラと一緒に。


沢山笑おう。


リースと一緒に。




最後の時まで笑おう。皆で一緒に。







レイラは最後の時まで笑っていた。


レイラの冒険は終わり、伝説となる。






そして僕の番が来た。


もう口も開くことが出来ない。


僕は笑った。


泣いていたイリスとリースの表情が笑顔に変わる。





{神様、神様~。見てください。この人、ないですよ

。神様の力が。忘れてませんか? このままでは転生出来ません。大神様にバレると、大目玉ですよ~}


{ペプクス、私が忘れるはずが……。……。……。ふむ。今から付与しても、問題ないでしょ。どうせ、残された時間はあと僅かですからね。ペプクス、このことは内密に}






何だか……神様達の小芝居が始まったのだが。






ヘイムダル様とペプクス様。お別れを言いに来てくれたのですか? もしかして、ゼバス様とフレア様もいますか?






何も答えてくれない神様達。






僕の妄想だったのだろうか。





いや。幸せだった僕がそんな妄想をするはずがない。絶対に近くに、近くで……。僕の最後を看取りに来てくれたのか。きっとそうですよね。






ありがとう御座いました。僕は幸せです。









アルスの冒険が終わる。







【完】

















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死ぬ直前にチートスキルが開花したのですが、神様、忘れてたのですね。 あつし @atusi0523

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