23話 アイツは後でいいよね









「アルス。約束通り、助けに来たわよ」


「アルスさん。私も微力ながら力になりに来ましたよ」


約束? 2人の綺麗な女性は僕を知ってるのか? どこかで会ったことが?


これだけ綺麗だと、そうそう忘れることはないと思うのだが……2人が神様ならだいぶ前ってことも。100年前に挨拶しただけとかなら、忘れていても無理ないよね。


私を取り込めば思い出しますよ。


ゼバス様は覚えてるのですか?


はい。よく覚えてますよ。アルスさんの大切な女性達ですからね。


大切な女性?


2人は記憶が壊れないように大事に神力の中にとどめておいたのでしょうね。


壊れないように? ゼバス様、意味が分かりませんよ。


神でないアルスさんには全ての記憶を維持するのは無理だということですよ。彼女達の名前はイリスさんとレイラさん。アルスさんの最愛の女性達ですよ。約2千年前の話ですけどね。


最愛? リース以外に? 2千年前……。2千年前?


ボケてるつもりはないけど……さすがにそんなに前の記憶は……。


そろそろ時が動きますよ。私を取り込めば全てが解決しますよ。


はぁ~。綺麗な女性に嫌われないために、ゼバス様を消滅させるなんて、出来ませんよ。


2人には、それだけの価値がありますよ。それだけアルスさんは2人のことを思っていたのですよ。


はぁ~。神様よりも2人の記憶の方が価値があるなんて。さすがに。


では、リースさんなら、どうですか? 私を取り込まなければ、リースさんとの記憶が全て失われるとしたら。


それは……。僕は……リースを選びますね。


そうですよね。だからこそ、2人の記憶を取り戻さなければならないのですよ。


「アルス? どうしたの? もしかして、私に見惚れてる? 惚れ直した?」


綺麗な顔を僕に近づけ、そう言う女性。


「え? す、すいません」


この綺麗な女性がイリスさん。


「アルスさん? もしかして……記憶が?」


心配そうに言う女性。


この綺麗な女性がレイラさん。


僕の記憶にない2人の女性。


「ねぇ、アルス。私の武具は?」


「あっ。私もお願いします」


「そうだったね」


僕は空間収納の中から2人の武具を取出し、渡す。


「さすがアルスね。前よりも等級が上がってるわね」


「本当ですね。全てがLR級なんて、アルスさんは相変わらずチートですね」


あれ? あの装備が2人の装備?


僕は無意識で渡してしまったのだが……。


誰かのために用意していた装備。


僕と一緒に戦ってくれる誰かのために……。


胸が痛い。


思い出したいのに……。


思い出さないといけないのに……。


アルスさん。お別れの時です。


え? ゼバス様?


このままではアルスさんが壊れてしまいます。心を無くし、邪神にでもなられたら、今までの苦労が水の泡です。


意味が分かりません。


もっと早くこうするべきだったのですが、アルスさんの中は居心地が良かった。


意味が分かりませんよ。本当の、この世界の神様がいなくなるなんてありえません。


この世界には神は必要ありません。元々私は何もしてませんでしたからね。ありがとうございました。さよならの時です。


ゼバス様。ダメです。ダメですよ。


「ゼバス様~~~~」


「アルス?」


「アルスさん?」


僕の目の前に首をかしげたイリスとレイラがいた。


「イリス。レイラ」


僕はイリスを抱き寄せ、レイラも抱き寄せた。


「ちょっと、急にどうしたのよ。私に発情するのは分かるけど、木を降りてからにしてよ」


「アルスさん? 何かあったのですか? 神様の名前を叫んでましたが?」


真っ赤な顔のイリスに、不思議そうな表情で僕を見つめるレイラ。


リースが微笑みながら口を開く。


「お久しぶりですね、アルスさん」


「久しぶり? リースとは……いや、久しぶりだね。僕はリースのことも忘れていたよね」


「ふふふっ。人の記憶力には限界がありますからね」


「アルス、私のことも忘れてたのね」


「それで、アルスさんの表情がよそよそしかったのですね」


「本当にゴメン。でも、もう大丈夫。全てを思い出させたし、全てを知ったから。4人で全てを終わらせ、また楽しい旅を始めよう」


「アルス。アペプに勝てるのね」


「もちろん。僕の特殊スキルはチートだからね。上限がなくなった今、僕に勝てる者は誰もいないよ」


「じゃあ、私が7竜を倒すわ」


イリスが自信満々に言ったのだが。


「ふふふっ。イリスちゃん、それは無理ね」


レイラが笑いながら、そう言った。


「レイラは知らないだろうけど、私の剣と魔法の熟練度は神の領域まで上がってるのよ」


「ふふふっ。それでも無理です」


7竜が強いということは知ってるけど、今のイリスなら……?


レイラが空間収納の指輪の中から大きな魔核を取り出していく。


金色。紫色。黄色。緑色。青色。赤色。黒色。


7つの大きな魔核。


七色の大きな魔核。


「抜け駆けしたわね。ズルいわよ」


「ふふふっ。自分の実力を知るために試しただけですよ」


「7竜を全て倒して来たのか。レイラもチートだね。もしかして……アペプよりレイラの方が強いってことないよね?」


「私はゼバス様の力の欠片を多く取り込むことでペプクス様よりは強くなりましたが、本気のアペプには勝てないようです。アペプが神力を使わなければ勝てるでしょうけどね」


「じゃあ、私がアペプを倒すわね」


「イリスは他の神様達の相手を頼むよ。う~ん、さすがのイリスでも無理かな?」


「出来るに決まってるでしょ。アペプ以外の神なら何人でも相手してやるわよ」


「だよね。レイラと一緒に頼むよ」


「神が相手なら本気を出せますね。イリスちゃん、頑張ろうね」


「レイラは援護だけでいいわよ。私の力を見せつけてやるんだから」


「ふふふっ。では再戦しますか? 呼べばアペプは転移してくると思いますよ」


「サクッと終わらすのもいいけど、まずはイリスとレイラとリースとの再開をお祝いしないとね」


「そうね。アペプなんかいつでもいいわね」


「ふふふっ。今まで頑張って来たのにアルスくんが瞬殺してしまうと、ちょっとね。4人でアペプを倒すぞ~って、酒のつまみの話にしたいわね」


「分かりました。仲間になってくれた神達には明日アペプを倒すとだけ言っておきますね」


「そうだね。アイツは後でいいよね」






僕達は街で再会の宴を。







4人で宿に泊まり、再会の宴を。












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