【プロローグ・エピローグ レイラ】無能な子達は強き魂を持つ子









誰もが特殊スキルを持って生まれてくるこの世界で、スキルを持たずに生まれたオルス。勇者と呼ばれたアルスと同じくらい活躍した伝説の冒険者。


オルスが逝き、アルスが逝ってから100年が経った頃から、特殊スキルを持たずに生まれて来る子達が急増した。特に期待されて生まれて来た子達が特殊スキルを持たずに。








「君はラナリスの……。あの英雄ラナリスの息子が無能だとは。可哀想に」


「馬鹿にするなよ。あのオルス様だって特殊スキルなしで、勇者アルス様と肩を並べるくらいの偉業を成したんだぞ」


「す、すまない。君の父英雄ラナリスには何度もこの街を救ってもらったのでな」


「別に謝らなくてもいいですよ。もう言われ慣れてますし。それより、僕とパーティを組んでくれそうな人はいますか?」


「すまない。今は……」


「そうですか。分かりました。また来ます」


「お兄様っ」


「レ、レイラ!! どうして、ここに?」


「もちろん冒険者になるためです」


「は? レイラはまだ5歳だろ」


「はい。今日で5歳になりたした」


「ほう。君もラナリスの。たしか……特殊スキルは一騎当千だったかな」


「はい。レイラです。よろしくお願いします」


「レイラさん。冒険者登録は5歳から出来るが、依頼内容は街の清掃や荷物運び。そして冒険者達が倒した魔物運び等の仕事だぞ。レイラさんは孤児じゃないんだから、そんな仕事はしなくていいんだよ」


「そうだよ、レイラ」


「うんん。予感がするの。恋の予感。運命の人に出会えるって」


「はははは。恋の予感か。それなら仕方ないな」


「はぁ~。孤児以外の冒険者に子供はいないぞ。だいたい冒険者は危険なんだからな」


「大丈夫です。私はお兄様より強いし、きっと運命の人は同じ年齢」


「相手も5歳で冒険者なら、絶対に孤児だぞ。お父様から怒られるぞ」


「誰よりも強い人。きっと、お父様よりも」


「はぁ~。お父様より強い人なんているはずないだろ」


















「本当に付いてくるのか? 街の外は危険なんだぞ」


「お兄様の方が危険ですよね。神力がないんだから身体能力が低い」


「神力? 特殊スキルのことか? お父様が言ってたが、レイラは記憶保持者なんだよな」


「分かりません。記憶はないと思います」


「誰にも剣技を教わってないのに俺よりも強いし、お父様に勉強を習った俺の知らない知識を持ってるし、俺もレイラが記憶保持者だと思うよ」


記憶? 生まれる前の記憶なんて知らないよ。















「レイラ、森はダメだ。強い魔物が出るんだぞ」


「誰かいます。きっと、私の運命の人です」


「はぁ~。絶対にいるはずないだろ。この森は本当に危険なんだ。レイラと同じ年齢の子供が入れるはずがないんだよ」


「いる。絶対に。ペプクスもそう言ってるよ」


「ペプクス? ペプクスって誰?」


「え? ペプクス? お兄様、ペプクスって?」


「いやいや、レイラが言ったんだろ」


ペプクス? 知らないよね?

















「レイラ。今の攻撃力はなんだよ。魔物だけじゃなくて、太い木まで真っ二つじゃないか」


「剣に神力と魔力を纏わせただけです」


「え? お父様が使える魔力刃のこと?」


「違います。お父様は魔力しか操れないから弱いけど、私はちゃんと神力と魔力を融合させてるよ」


「は? お父様が弱い? お父様は最強だぞ。まあ、レイラには手加減してるから、そう感じるのかも知れないけど」


「お父様が言ってましたよ。神力と魔力は人には使っちゃダメだって。お父様にもね」


「……レイラは……天才なのか? 天才と無能の違いなのか……」


「お兄様は天才ですよ。だから、特殊スキルがないってペプクスが言ってます」


「はぁ~。だから、ペプクスって誰だよ」


「え? ペプクス? ペプクスって?」


「はぁ~。もういいよ。レイラ……俺は……本当に才能あるのか?」


「はい。お兄様は天才です」


「はぁ~。レイラが言ってくれたんだよな。お父様に……そのことを」


「はい。間違いなくお兄様は天才ですから」


私がそう言うとお兄様はなぜか苦笑い。


でも、その後、優しく私に微笑んでくれて私の頭を撫でてくれた。












「お兄様っ。誰かいます」


「えっ? どこに」


私は気配がした方を指差す。


「誰もいないぞ?」


「いますよ。何だか……懐かしい気配です」


「は? 懐かしい? なら、お父様の知り合いかな?」


「戦闘の気配もします」


「え? 戦ってる? あっ。子供が襲われてるぞ」


お兄様はそう言うと走り出そうとした。


私は慌てて走り出そうとしたお兄様を止めた。


「お兄様、ダメです。あの人達は強い。お父様でも勝てないかも」


「そんな訳ないだろ。レイラはお父様を見くびり過ぎだぞ」


男の子に襲いかかる沢山の大人達。


私の胸にギュッと痛みが。


身体がなぜか熱くなる。


助けないといけないのに、胸が苦しい。


「あの子、強すぎないか? っていうか襲っているやつらは人だけど、人族じゃないぞ。アイツラは北の街を襲撃した狒々族じゃないのか?」


狒々族? 知らない。でも……あの男の子は……。知らない?


初めて見る男の子なのだが、だが、だが……。


「レイラ。あの子が勝つぞ」


勝つ? 男の子は強いけど、あそこで、見てる狒々族も強い。いや、きっと……強すぎる。男の子よりもつよそうに感じる。


「お兄様。隠れてください。あそこにいる狒々族は強すぎます。応援を呼ばないとあの男の子がやられます」


「は? あの子よりも強いのか? お父様よりも強いんだろ? なら、誰も勝てないなら応援の意味が」


確かに。でもあの男の子を助けないと。私……では足手まとい。もっともっともっともっともっと強くならないと、男の子を助けることは出来ない。





男の子は襲いかかって来た狒々族達を全員倒し終えると声を出した。


「リース。足止めはもういいよ。後は僕に任せて」


リース? どこかで聞いたことのある名前。懐かしいような……。




強すぎる気配のする狒々族が男の子の方へと歩き始めた。


男の子も逃げ出さずに狒々族の方へと。


男の子は手に持っていた立派な剣を……地味な剣に持ち替えた。


なぜ? 


立派な剣の方が強そうなのに? あの地味な剣は? 懐かしい? 懐かしい感じがする?


「なんだよ、あの速さは。ほとんど、2人の動きが見えないよな」


私には2人の動きが見えるけど、私のレベルでは全く相手にならない。一緒に戦いたいけど、足手まといにしかならないだろう。


「お兄様、戻りましょう」


「え? 見ないのか? まあ、あまり見えないけど」


「強くならないと、助けられない。もっともっともっともっともっともっともっともっともっと強くならないと。一緒に戦いたいけど、一緒に行きたいけど、足手まといにはなりたくないです」


「レイラ? 泣かないでいいんだよ。あのレベルには誰も勝てない。あの2人が異常なんだからな」


「私は一緒に戦いたい。強くなって助けになりたいです」


「はぁ~。レイラ……。レイラ、俺は……天才なんだよな?」


「はい。お兄様は天才です」


「よし、決めた。俺も強くなってやるよ。レイラの手助けが出来るくらいにはな」


「お兄様」


「ふっ。だから泣かなくていい。絶対に強くなろう。レイラにはこの天才フラリス様が付いているんだからな」


「お兄様、ありがとう」
















私とお兄様はこの日からパーティを組み、強く強く強くなっていった。





強く強く強く。






お兄様は強い。私よりは遥かに弱いけど。


でもお兄様は天才だ。


特殊スキルは生まれて来る時にしか手に入らないと言われているのに、覚えることが出来たのだ。


それも英雄と呼ばれたお父様と同じ特殊スキルを。








私達は強く強く強く強くなった。



でも、あの時の男の子の強さには追いついていないだろう。


あの男の子は強すぎた。


更に強くなっているだろう。










……会いたい。


強くなってからだと決めてしまった私。


努力すれば追いつけると。


でも無理だった。


年老いた私は強くなるどころか、弱く弱くなっていく。














「レイラ。ありがとう。レイラのおかげで、レイラが天才だと言ってくれたおかげで、俺はお父様のように英雄と呼ばれるように。レイラには全く敵わないんだけどな」


「お兄様は天才よ。お父様の意思をついで、幾つもの偉業を。英雄に相応しいのは私ではなくお兄様。私は誰よりもお兄様を尊敬してましたよ」


「ありがとう、レイラ。俺は先に逝くよ」








お父様が逝き、お兄様が逝った。




そして私にも最後の時が。




あの子にもう一度会いたかったな~。




強くなってからだなんて意地を張らずに探しに行けばよかったのかな。




でも、それだとイリスに負けた感じが? あれ? イリス? 誰だったかしら? 




アルスに会いたかったな~って、アルス? 




あの男の子の名前?




アルス。



アルス。



アルス。



……
































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