21話 獅子族













「参った~」


開始直後に逃げ出した冒険者。


A級冒険者だと聞いていたのだが……。


「私の勝ちでいいのね」


勝利を確信したイリスは笑顔でそう言った。


周りで見ていたギルド職員や冒険者達は苦笑い。


「あれはありなのか?」


「普通は逃げ出すよな」


周りで見ていた冒険者達の視線はイリスの実力を判定するために来ていたギルド職員に集中する。


「これが爆炎の中のイリスか。っていうか、仲間達と連携して戦えるのか? いや、爆炎を放たれても大丈夫な、チートな仲間達なのか」


いやいや、爆炎の中で戦うなんて、僕達も嫌だよ。


「昇格で構わない。責任は全て、俺が負う」


ムナドがそう言うとギルド職員が口を開く。


「レイラさんとイリスさんの冒険者ランクを特例として、A級に昇格します」


「S級でもよかったのにな~」


笑顔でそう言うイリス。


「君はいいのか? 仲間の3人の実力がこれなら、君もそこそこ戦えるのだろ? 今なら俺の権限で昇格試験を受けれるぞ?」


ムナドが僕に話しかけて来た。


「ありがとうございます。でも僕はE級冒険者のままで大丈夫ですよ」


「そうか。まあ、君のパーティはエルフ族との架け橋になってもらうために優遇されるだろうから問題ないと思うが、実力を伴っていなければ、批判はその分多くなるだろう。旅の目的はあるのか?」


「特には。まあ、次の行き先はレイラが決めると思いますよ。感で」


「ふっ。感か。俺も強くなるために一緒に行きたいのだが……」


「え?」


「心配するな。リースさんにもイリスさんにも断られたよ。足手まといはいらないってな」


苦笑いするムナド。


今まで最強と呼ばれていたのに、新人冒険者のイリスに足手まといだなんて呼ばれたなんて、ちょっと可愛そうかな。


「ムナドさん。ありがとうございました」


僕がお礼を言ってから立ち去ろうとするとムナドが言う。


「君は……あのオルスの息子なのか? いや、何でもない」


僕が振り返るとムナドは首を横に振った。


僕がオルスの息子? そんな噂があるのか? まあ、イリスかレイラがそんな話しを人前でしたのかな?













「ここから南にある、パントナの街のダンジョンがいいと思いますよ」


「それって、またレイラさんの感?」


「私はレイラさんの意見に賛成ですね」


「パントナ? 僕は聞いたことがないけど……南?」


「私もないよ。どんな街なの? 遠いの?」


僕とイリスがそう言うと、なぜか首をかしげるレイラ。


「さあ? 何となく、その街がいいかなって頭に浮かんで来たんだけど……どこにある街だったか思い出せないっていうか……聞いたこともないような……」


意味不明なことを言うレイラ。自分で南って言っていたのに。


「ふふふっ。パントナの街は獅子族の街ですよ。ちょっと遠いので、私が獅子族と交渉してみましょう」


交渉? リースはそんなことも出来るのか。さすが、神様ってところだね。














「魔石は必要ないですよ」


「「 え? 」」


困惑する兵士さんと僕。


「リース。どうするの? そこに魔石をセットしないと魔法陣は発動しないのよ」


イリスがそう言うとリースは魔石をセットするための台座に手を伸ばす。



「魔石は魔法陣に補充する魔力を蓄えたアイテム。ここから転移に必要な魔那を送れば同じことですよ」


兵士さんも聞いたことがないって顔しているのだが、魔法陣が光を放つ。


困惑顔の兵士さんに見送られて、僕達は転移した。







転移の光が消えると、僕達の周りには獅子族の兵士達が。


「約束通り、貴様達の実力を見せてもらうぞ」


「約束? リース、約束って?」


僕がリースに聞くと、リースは笑う。


「アルスさんの実力が知りたいそうですよ」


「僕の?」


僕とリースが話していると、高級そうな服を着た兵士が口を開く。


「人族最強の実力を見せてもらおうか」


「え? リース?」


「ふふふっ。人族最強の実力を見たくないですかと伝えた所、転移の許可をくれましたよ」


「はぁ~。なら仕方ないのか……。リースが戦う?」


「ここは私の出番ね」


にっこり笑うイリス。


しかしリースが言う。


「獅子族は女性も強いですが、決闘をするのは男性ねみなのですよ」


「てことは対戦相手も?」


「はい。なので、アルスさんしかいないので、お願いしますね」


「アルスなら、余裕よ」


「そうですね。人族最強のムナド様より強いはずがないので、問題ありませんよね」


「まあ、僕はムナドさんとは戦ってないから、何とも言えないんだけどね」


「ふふふっ。アルスさんなら負けても、死ぬことはありませんよ」


この時の僕はイリスとレイラの余裕の言葉で、リースの言葉を聞き流してしまっていた。重要なことを教えてくれていたというのに。









「俺の名はドルガ。貴様の名は?」


「僕はアルスです。よろしくお願いします」


ドルガという名の獅子族は剣だけを持ち、高級そうな服を着ているだけで鎧等の防具は一切装備していない。僕はかなり舐められているのだろう。


それにしても……?


周りで見ている獅子族達のほとんどが怪我をしている。破壊された鎧や盾を装備し、剣が折れてしまっている人達が多い。僕達が来る前に何かあったのだろうか。


獅子族達は大人しく見ているだけで、罵声などが、一切ない。真面目な種族なのだろうか?


「さあ、かかって来るがいい。リースに認められし、勇者よ」


「勇者?」


この時の僕は勇者と言われたことに困惑していて、ドルガが、リースのことを知っているということに疑問を持つことが出来なかった。


「どうした? 来ないなら、俺から行くぞ」


ドルガはそう言うと僕の方へと走って来た。


は、速い。


ドルガは一瞬で僕に接近し、剣を振り下ろす。


慌てた僕は剣に魔力を纏わせて受ける?


ヤバい。何て力だよ。っていうか、剣が保たない。


僕はドルガの剣を何とか逸らすことが、出来たのだが、剣にヒビが入ってしまった。


僕は後ろへと飛び、ヒビ割れた剣をドルガに向かって投げつけ、すぐに空間収納の指輪の中から、新しい剣を取出した。


この人、強い。


僕は剣に神力と魔力を纏わせる。


「ははははは。中々の動きだな。もう少しスピードを上げても大丈夫そうだな」


ドルガは笑いながら、そんなことを。


ハッタリなのか? それとも本当に手加減してくれているのか? くっ。は、速いっ。


ドルガが一瞬で僕に接近し、剣を振り下ろして来た。


「ほう。今度は神力と魔力を融合させたのか。俺は本当に舐められていたようだな」


そう言いながら剣を振るドルガ。


防戦一方だが、何とか。


強過ぎる。今の僕では……!!


「ドルガさん。僕の予想よりずっと強いですね。僕も本気で戦った方がいいですか?」


「俺はまだ舐められているのか? 本気を出せるなら、出してもらおうか」


「分かりました。レイラ、頼む」


僕は時間を稼ぐために、あえてドルガを挑発し、レイラにお願いした。レイラはすぐに僕の考えを理解してくれた。


レイラから受け取った僕は構えを取る。


「ま、まさか。その剣はアペプの剣なのか?」


「この剣は冒険者をしていた父の形見の剣ですよ。詳細は分かりません」


「その剣が本物なのか試してみるか」


ドルガはそう言うと動き出す。


速いが、速いが、追えない速さではない。今の僕ならば。


ドルガの剣を受け、僕もドルガに向かって剣を振る。


僕の剣を余裕で受けるドルガ。


それに対して僕はぎりぎり。このままでは負けてしまうだろう。


ドルガの剣を受ける。受ける。受ける。


ニヤリと笑ったドルガ。僕の実力がこの程度だと思ったのだろう。


年齢を上げれば……。しかし、それは出来ない。なら……。


僕は斜め後ろへとジャンプ。


ドルガの剣を受ける。受ける。受ける。


僕は斜め後ろへとジャンプ。


そして、剣を振る。


下から上に。地面の砂や小石を巻き上げながら。


「ちっ。姑息な手を」


僕は振り上げた剣を前に出ながら振り下ろす。


太陽を背にした僕の攻撃。


ドルガに砂や小石は防がれたが、太陽の光でドルガの視界を塞ぐことに成功。


視界を失ったドルガはそれでも僕の剣を剣で受けるが、受け流すことは出来ない。


神力と魔力を纏った僕の剣はドルガの剣を斬り裂き、僕はドルガの顔の前で剣を止めた。


「どうですか? まだやりますか?」


「はははは。まさか俺に勝てる人族がいるなんてな」


笑いながら、斬れた剣を持った右手を下げるドルガ。どうやら、戦いは終わりらしい。


リースが僕の横に来て、口を開く。


「ドルガも全然本気ではなかったように、アルスさんも本気ではないですよ」


いやいや。僕は本気だったよ。


笑っていたのにリースの発言で僕を睨むドルガ。


「そうだったな。人族には特殊スキルがあるのだったな」


「そうですよ。アルスさんが本気になれば、今の数倍の力になりますからね」


いやいや。数倍は盛り過ぎだよ。


「はははは。そうか。それは楽しみだな」


楽しみって? もう一度戦うってことなのか?


「で? 答えをお聞きしてもいいですか」


リースがそんなことを言うとドルガは周りで見ていた獅子族達を見渡し、僕に視線を向けて口を開く。


「いいだろ。俺はゼバス側につこう」


「え? ゼバスって……神様だよね?」


「ふふふっ。獅子族の神ドルガに勝利するとは、さすがアルスさんですね」


「え? 神? ドルガさ……様は神様?」


「ふっ。安心しろ。俺の実力はあんなものじゃないからな。アペプには勝てないが、他の神の相手なら俺に任せろ。アルス達はアペプの眷族の7竜と戦えるくらいには成長しろよ。ゼバスとアペプをタイマンで戦わせるためにな」


「タイマン? え~っと……。本当に神様……。ゼバス様とアペプが1対1で戦えばゼバス様が?」


「それは間違いないだろう」


「ですね。ゼバス様が最強ですからね。この世界では」


「え~っと……。戦いは……数千年後ですよね?」


僕が聞くとドルガはリースを見る。


「そうなのか、リース?」


どうやらドルガは分かってないらしい。


「ふふふっ。私もいつになるのかは分かりませんが、アルスさんがゼバス様とアペプの戦いの鍵になりそうだという予感はしますよ」


「僕が生きてる間なら100年以内ってことになるよね?」


「リースの予感は当たる。アルスの寿命が後100年というなら、100年以内ということだろう」


今の話しを聞いてどんな反応をしているのかとイリスとレイラの表情を見ると驚いているようには見えない。意味が分からないだけなのか。それとも察しているのだろうか。


「ふふふっ。イリスさんとレイラさんも無関係ではないという予感はしますが、アペプとの戦いには関わりがないという予感もしますね」


無関係ではないけど……戦わない? それは……。


思ってはならないことが僕の頭をよぎる。


その僕の表情を見たリースは笑う。


「ふふふっ。心配しなくてもイリスさんとレイラさんは寿命を全うしますよ。そういう予感がするので安心してくださいね」


死じゃなかったか。ならなぜ? レイラは分からないけど、イリスなら絶対に戦うと……。いや、レイラもきっと。









神々の戦いが始まる?


















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