20話 昇格









「爆炎のイリス登場~」


「お待たせ。アルスくんとリースさんも上手くいったようですね」


エメネの街の正門で待っていた僕とリースの前にイリスとレイラが戻って来た。


「お帰り。イリス、レイラ」


「盗賊退治は上手くいったようですね」


僕とリースがそう言うと満足そうに微笑むイリスと首をかしげるレイラ。


「私がたった1人で、大盗賊団を殲滅させたのよ。ダドン盗賊団っていう有名な大盗賊団をね」


「私の方もネルダ盗賊団という大盗賊団を倒しましたが、リースさんはここから、見てたのですか?」


「はい。森の木々が教えてくれましたよ。レイラさんの活躍と……ィ………暴挙を……」


イリスの活躍を聞こえないくらい小さな声で言ったリース。


あっ。そうか。話しを聞く前に僕とリースが安心して待ってたから、レイラは。あれだけ止めるように言ったのに、森を丸焼きにしたイリスはちょっとね。


「アルス達も上手くいったんでしょ」


「僕は何もしてないけど、リース達エルフがね。ムナドっていう兵士が責任を持って、奴隷にされているエルフを開放してくれるそうだよ」


僕がそう言うとレイラが驚いた表情に。


「神に愛されし子、ムナド。どんな強敵だろうが一撃で倒す王国最強。おそらく、オルス様よりも強い世界最強の男ですよ」


「え? あの男が? 武具に太陽の紋章があったから、それなりには強いとは思っていたけど……」


「ふふふっ。必死に命乞いしていたあの男が世界最強ですか」


「え? 命乞い? もしかして、アルスくんが勝っちゃった?」


「ふふふっ」


「はぁ~。僕は戦ってないよ。エルフ達だけだよ」


僕がそう言ったのに、ジト目で僕を見るイリスとレイラ。


レイラはジト目のまま呟く。


「アルスくんはムナドよりも強いのか~」


イリスはジト目のまま呟く。


「当然よね」


「はぁ~。だから、僕は戦ってないよ。エルフの王様がムナドっていう兵士を倒したんだよ」


って言ってるのにジト目のままのイリスとレイラ。レイラもイリスも僕の言うことを全く信じてくれてないようだ。
















「何だと!! あのダドンを倒しただと!!」


「ふふふっ。私があの【爆炎のイリス】。最強の魔法使いよ」


「爆炎?」


「あのって、どのだよ」


「知ってるか?」


「知らねぇな。まだ若そうに見えるが、あの3人で?」


有名な盗賊だったのか冒険者ギルド内は大騒ぎ。


「待て待て待て。イリスさんはまだD級冒険者だろ。レイラさんはB級冒険者だが、ダドン盗賊団の幹部達の強さはA級冒険者以上だぞ。S級冒険者の複数パーティで挑んでも無理だったのに、たった3人でなんてありえねぇよ」


「ふふふっ。3人じゃないわよ。この爆炎のイリス様が、1人で壊滅させたのよ。爆炎のイリス様がね」


呼んでほしい異名を何度も連呼するイリス。


「さすがに無理があるだろ。レイラさんは元ギルド職員だから、虚偽申告するとどうなるのか分かってますよね?」


「はい。知ってますよ。なので、私はネルダと、その幹部達の遺体を空間収納の指輪の中に入れて来ましたよ」


「は? ネルダ? ネルダも倒したというのか?」


「ははは。さすがにそれはないよな~」


「話し盛りすぎだろ」


驚くギルド職員と、呆れた感じの周りで聞いていた冒険者達。


しかしレイラがネルダ盗賊の幹部達の遺体を取り出していくと、ギルド内が静まりかえる。








「ネルダに間違いない。それに幹部達も。本当に大盗賊団をレイラさんが1人で?」


「はい。私がネルダ盗賊団で、イリスさんがダドン盗賊団を倒しましたよ」


「大盗賊を1人で……。それも2つも」


驚いているギルド職員にイリスが言う。


「リースもギブス盗賊団を倒したから、3つね」


ぎょっとした表情になるギルド職員と周りで聞き耳を立てていた冒険者達。


「ギブスまでも。って、エルフ? 君はエルフじゃないのか? エルフの奴隷は禁止に」


「エルフ王バルスの許可は得ていますよ。私達が人族とエルフ族の友好の架け橋になれるように、冒険者ギルドもサポートしてくださいね」


「奴隷でないエルフ族と人族がパーティを組むなど、前例がないが……リーダーはリース様でしょうか? それともレイラさんが?」


「リーダーはもちろん私よ」


自信満々に言い放つイリス。


「いやいや。レイラさんよりランクの低いイリスさんがリーダーになるメリットはないですよ。パーティのランクはリーダーのランクになるのですから」


そう言えば、そうだったか。B級冒険者のレイラの方が……!!


僕はギルド職員に聞く。


「リースがリーダーの場合のパーティランクはどうなりますか?」


「それは……前例がないですが……試験官がリースさんの実力を確かめた上で判断することになると思います」


「ちょっと、アルス。リーダーは私」


「僕もリーダーはイリスでいいと思うけど、登録はランクの高い人がした方が便利だよ」


「私もリースさんがいいと思います。リースさんならS級冒険者以上だと判断されるでしょうから、制限されることなく冒険出来ますよ。更にエルフ族の方が他種族に受けがいいですからね」


「え~。爆炎のイリスの異名を広げたいのに」


「それはリーダーじゃなくても」


「ちょっと待った。さすがにS級冒険者には。俺の一存では無理だぞ」


「それなら、ムナドに試験官になって貰えばいいんじゃ。まだこの街にいるみたいだし、権限もそこそこ

あるようだ」


僕がそう言うとギルド職員も周りで聞き耳を立てていた冒険者達苦笑い。


「リースはムナドよりも強いよね?」


僕が聞くとリースは笑う。


「ふふふっ。あれくらいの攻撃でしたら私には効きませんよ」


「いやいやいや。無理だぞ。ムナド様の一撃はただの魔力刃じゃないんだ。特殊スキルで魔法を組み合わせてるそうなんだよ」


「ふふふっ。あれはただの魔力刃と炎の魔法ですよ。魔力刃の魔力を魔法で強化するか、魔力刃の魔力を炎属性にしてから、炎の魔法を融合させれば、威力が増すでしょうが、それでもエルフ王バルス様には勝てませんよ」


「魔力刃を強化? ムナド様に勝ったエルフ王様なら分かるが……リースさんがムナド様より強いとはとても……」


困惑しているギルド職員。リースの見た目は20歳くらいの華奢な美人だから、仕方ないのかもしれないけどね。

















「ちょっと待った~。その勝負は私も受けるわ。この爆炎のイリス様がね」


リースとムナドの戦いを邪魔するイリス。


リースの実力を評価してもらうための戦いなのに。


「イリスは魔力刃を防げないだろ。A級冒険者以下の人としか戦ったらダメだって何度も言ったよね」


「も~。アルスは私の成長を侮り過ぎよ。この大盾なら、どんな攻撃も防げるんだから。後は衝撃を爆炎と突風で受け止めるだけでいいのよ」


「爆炎と突風?」


「リースが教えてくれたのよ。レイラさんの魔法刃でも防げたんだから」


「レイラ?」


「本当ですよ。私の本気の魔力刃を防ぐことが出来るようになりましたよ。まあ、本気で戦えば、まだ私の方が強いですけど」


てことは、どこに飛んで来るのか分かっていれば、イリスは魔力刃を防げるのか。でも魔力刃をいつどのタイミングで放たれるのかを見切るのが難しいんだよね。ん? いや、待てよ。爆炎の中に入れば距離を保てるから、十分防げるのか? う~ん。ついでだから、イリスとレイラがA級冒険者になれないか聞いてみようかな。







「本当に俺の必殺技を防げるのか? 貴様を殺してしまえば、和平交渉は頓挫してしまうのだぞ」


「ふふふっ。これくらい出来るようになってから、言ってくださいね」


リースはそう言うと杖を振った。


ん? 魔力刃……じゃないよな?


直径15cm程度の玉のような魔力の塊がムナドに向かって飛んで行く。


「魔力玉だと? 杖で放てる技術は凄いが、玉では刃に速度も威力も勝てぬのが分からぬのか?」


ムナドはそう言うと向かって来る魔力玉に向かって必殺技を放った。


激突する魔力玉と炎の魔力刃。


見た目は炎の魔力刃の方が強そうだったのだが、リースの魔力玉は炎の魔力刃を消滅させ、何事もなかったようにムナドに向かって飛んで行く。


「馬鹿な。俺の炎の魔力刃がまたしても撃ち負けただと」


「弾けて敵を討て。爆」


リースがそう言うと魔力玉がムナドの前で大爆発。


吹き飛んでいくムナド。

 

っていうか、周りの建物も吹き飛んでいるのだが……。


ギルドの横の空き地だったので……ギルドが崩壊してしまっているのだが。


幸いなことにリースとムナドの戦いを見るために誰もギルド内にいなかったようだ。いや、リースはいないことが分かっていたから……。いや、それでもやり過ぎだよね。


ムナドは壁に激突して、気絶していたのだが、命には別状ないそうだ。


「次は私の番ね」


周りの冒険者が呆然としているのに、空気を読まずにそう言ったイリス。


もちろん、イリスの番が来ることはなかった。








リース

年齢20?

レベル999

職業→魔法使い

冒険者ランク→S級








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