【エピローグ(ダドン)】 魔人
「魔人だ。魔人が出たぞ~~~」
「化け物め。魔法を使える奴等は氷魔法を放ちやがれ」
「無理だ。魔法が効かねえよ。逃げるしかねぇよ」
「どこにだよ。奴を倒すしかねぇんだよ」
「くっ。逃げ道がねぇ。こんな化け物がいるなんて」
「くそ~。俺達には国も手が出せなかったというのに」
「テメェ等。殺るしかねぇんだよ。俺達に残された道は。魔人をぶち殺すんだよ」
クソが。何が魔人だ。あんな魔人はいねぇ。魔人はあんなんじゃねぇだろ。あれはただの化け物だ。
俺は心の中で怒鳴りながら、生き延びる道を探す。
周りは炎。
全方向に炎。
逃げるためには炎の中を通らなければならない。
化け物のいる炎の中を。
はっきり言って、それは無理だ。
全てが上手くいっていたというのに、たった一匹の化け物のせいで、俺の人生は終わってしまうのか。
本当に上手くいっていたんだ。
人族の盗賊から人族が作り出した武具を購入して、エルフ族の盗賊に。
エルフ族の盗賊からエルフ族が作り出した魔道具を購入して、人族の盗賊に。
財を成した俺は自分自身の盗賊団も作り上げた。
人族の盗賊と言えば俺の名が真っ先に上がるだろう。
盗賊王ダドンと。
それなのに、どうしてこうなったんだ。
ギブスから援軍要請が来た時にすぐに逃げていれば、よかったのか?
いや、あの時はこうなるとは誰も予想出来なかった。
俺の落ち度ではない。
「ダドン様。エメネの街が襲撃されたそうです」
「襲撃? エルフにか?」
「はい。エルフ王が魔物を率いて攻め込み、人族を追い出したと。エルフ達の圧勝だったようです。あの化け物もエルフの放った化け物じゃないですか」
エルフ。そうか、これで、人族とエルフ族は本格的な争いに。
俺の任務は完了したのか。
ならば、最後はこの化け物に一矢報いてやろう。
この俺の、ダドン様の生き様をこの化け物に見せつけてやろうではないか。
叫びながら焼かれていく部下達。
最強最悪の盗賊団と恐れられた俺の部下達が何も出来ずに焼かれていく。
化け物め。このダドン様の強さは桁違いだと見せつけてくれようぞ。
俺は魔法で火の耐性を強化し、炎の中にいる化け物に向かって走る。
息をすれば喉も肺も破られてしまうだろう。
息は出来ない。
勝負は一瞬。
全てをこの一撃にかける。
くっ。炎で視界が。化け物はどこだ。
何も出来ぬというのか。このダドン様が一太刀も浴びせることが出来ぬとは。
俺は何も出来ずに倒れ……最後に化け物を見るために顔を上げた。
炎の中の化け物は笑顔の女性だった。
陽気な声で人語を話す化け物。
爆炎の中の……。
俺の人生はそこで終わった。
ダドン
年齢→282歳
レベル91
種族→魔族
ダドン盗賊団の頭
エルフ族と人族の間に火種を作るために暗躍していた。
「あらっ。何かしら」
化け物は俺の中から放出された赤い宝石を手に取った。
その赤い宝石が魔神様が俺に与えてくれた神の力だとは知らずに。
どうやら俺の残されていた力も全て赤い宝石に吸い込まれたようだ。
赤い宝石は化け物の手の上で砕け散り、その中にあった力だけが、化け物の中へと。
……
……
……
俺は化け物の中へ。
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