19話 最強の冒険者








「エルフの王? リース。鑑定されれば、僕が人族のバルスだってことになるよね。エルフの王という称号があっても意味がないんじゃ?」


「ふふふっ。種族は誤魔化せませんが、種族の欄に称号を表示させればアルスさんが人族だってバレなくなりますよ」


「表示? よく分からないけど、鑑定されても人族だってバレないってことなんだね。まあ、バレても、バルスが犯罪者になるだけなんだけどね」


「ふふふっ。鑑定で優先されるのは名前。次に年齢。そして、称号ですね。SSS級の認識阻害の指輪を装備していれば、鑑定されるのは最高でも3つまで。4番目に表示される種族が見えなくなるのですよ」


「ってことはリースでも見えない?」


「はい。これでも私は魔法が得意なので、私よりも凄い鑑定魔法を使える者はいないと自負していますよ」


「いるとすればリースと同じ神様ってことか。なら安心だね」


僕は仮面で素顔を隠した。




















「殺せ。恨みを晴らせ~」


そう叫びながら、幼い子供に剣を振り下ろすエルフ。


僕はそのエルフを蹴り飛ばし、幼い子供を救出する。


「今だ。殺せ~」


僕の蹴りで地面に倒れたエルフに3人の人族の兵士が剣で襲いかかる。


僕はその3人の兵士を蹴り飛ばし、エルフを救出する。


「王よ。なぜ、邪魔をする」


助けて上げたのに僕を睨んでくるエルフ。


声を出さないと決めていた僕は面倒なので、エルフ達が陣をしいている方へと、そのエルフを蹴り飛ばした。














「貴様がエルフ王バルスか。我が名はラウドネ。この街エメネ最強。いざ、勝負」


エルフ達が暴走しないように街中を歩いていた僕に人族の兵士が名乗りを上げた。


ラウドネの構えている剣から強い力を感じる。


魔力を操れるということはS級冒険者並みの強さかな。


僕はこの街の戦いをなるべく早く終わらせるために、圧倒的な強さを見せることにしている。


迫って来た魔力を纏っているラウドネの剣を、僕は神力と魔力を纏わせた剣で受ける。すると斬れてしまったラウドネの剣。僕は受けただけのつもりだったのだが。これから僕の実力をみせようとしていたのだが。


「参った。降参する。他の兵士達も我が説得しよう」


あっさりと負けを認めたラウドネ。


始めから、勝てないと分かれば、降参すると決めていたのだろう。










ラウドネの指示でエメネの街から避難して行く住人達。


泣いている人や怯えている人は多いが、戦おうとする人はもういない。


ラウドネは叫ぶ。


「歯向かわなければ、彼等が襲ってくることはない。エルフ王バルスは信用にたる人物だと我は判断した。落ち着いて避難してくれ」








エメネの街の戦いは3時間もかからずに終結。


まあ、誰も勝てない巨大魔木が300匹も街の中に入り込んだのだから、兵士達の心がすぐに折れてしまったのは仕方ないよね。


って思っていたのだが、現れた。


最強の冒険者が。


「俺の名前はオグマ。住人の被害を最小限にとどめてくれたようだが、侵略者に手加減はしない。始めろ」


オグマが叫ぶとオグマと一緒に現れた30人くらいの人達が玉のような物をあちらこちらに投げ始めた。


それを見てリースは笑う。


「ふふふっ。魔法を使えない空間にしたようですが、エルフ王バルス様は元々魔法が使えませんよ。それに魔木ちゃん達も」


魔法が使えない空間? 魔力操作は出来るから、確かに僕達には不利にならないよね?


「エルフの魔法が脅威だって誰でも知ってるわよ」


「ナーナは下がっていろ。エルフ王バルスよ。引くというのなら、俺達は攻撃しない。俺達のほとんどが剣士。その剣士全員が魔力刃を使える者達だ。意味が分かるな」


僕は無言のまま剣に神力と魔力を纏わせる。


「冒険者共は下がっていろ」


そう言って前に出て来た兵士。


鎧と剣には皆が憧れる紋章が。王直属の騎士団であることを示す太陽の紋章。


「ムナド様。エルフの王を殺せば、人族とエルフ族の全面戦争になります。話し合いで」


オグマが前に出て来たムナドという名の兵士を止めようとする。


だが、ムナドは笑う。


「我々の国に攻め入った時点でエルフ族の未来は終わっている。コイツを倒し、残りのエルフ達も全て我々の奴隷としてくれよう」


ムナドはそう言い終えると僕の方へと走って来る。


ん? 剣に魔法? 魔法剣? いや、剣にも力が。魔力を操れるのに魔法も使えるのか?


ムナドが剣を上段に構えた。


「俺の一撃は誰にも防げない。喰らえ、炎の魔力刃を」


ムナドの炎を纏った魔力刃からは物凄い力を感じる。


だけど、脅威は感じない。


僕はその炎の魔力刃を神魔力刃で迎え撃つ。


激突した炎の魔力刃と僕の神魔力刃。


「馬鹿な。俺の炎の魔力刃が打ち負けただと」


「ムナド様。避けて下さい」


ムナドの炎の魔力刃を打ち消し、ムナドの方へと飛んでいった僕の神魔力刃を受けようとしたムナドにオグマが叫んだ。


オグマの声でムナドは僕の神魔力刃をぎりぎりで回避。僕は元々当てるつもりがなかったので、ホッと一安心。


「くっ。俺の剣が。王から頂いた最強の剣が」


僕の神魔力刃を避けたムナドだったが、僕の神魔力刃を受けたムナドの剣は斬れてしまっていた。


大切な剣だったのか。オグマの剣は斬らないようにしないとね。


「化け物め。コイツより先に女を殺れ。一斉に魔力刃を放つのだ」


ムナドの命令にオグマとオグマの仲間達は戸惑いの表情を。しかし、その他の剣士達がリースに向かって魔力刃を放つ。


僕がリースを見ると、リースは余裕の表情で微笑んだ。


リースに直撃した沢山の魔力刃。


リースに魔力刃は効かないことは分かっていたのだが、魔力刃がリースに当たるのを見ていて気持ちのいいものではない。


「馬鹿な魔力刃を喰らって無傷だと。うっ。奴が来るぞ。迎え撃て」


僕は走っていた。ムナドに向かって。


ムナドを守るように兵士達が前に出る。


僕は兵士達の剣を狙う。


身体に当てないように鎧を斬り刻む。


盾を斬る。


兵士達が怯んだ隙きに、ムナドの前に。


ムナドの鎧を斬り刻む。


盾を出したムナド。太陽の紋章が刻まれているので、高価な盾なのだろうが、僕の神力と魔力を纏った剣の前では意味がない。


斬れた剣と盾を手放し、怯えた表情のムナド。


僕は思いっきりムナドを蹴り飛ばす。


5メートルくらい吹き飛んだムナド。


地面の上で僕が蹴りを入れたお腹を押さえて、呻いている。


僕はそのムナドに向かって、ゆっくり歩いて近づいていく。


周りには兵士や冒険者がいるのだが、剣士の剣は斬れていて使い物にならない。魔法使いもいるのだが、魔法が使えない空間になっているので、誰もが怯えた表情のまま、動けないでいる。


オグマは僕が誰も殺さないと信じてくれているのか、仲間達と一緒に僕から一定の距離を保っている。


「わ、分かった。俺達の負けだ」


僕は負けを認めたムナドに向かって剣を伸ばす。


更に恐怖に顔を歪めたムナド。


「待て。殺さないでくれ」


僕は無言のまま、剣先をムナドの喉へ。


それを見たオグマが僕の考えを察知して言う。


「ムナド様。エルフ王バルスが求めているのは奴隷になっているエルフ達の開放でしょう。ムナド様の力ならば可能ですよね」


「ああ。可能だ。俺が直接、王を説得してみせる。だから、命は」


僕は剣先をムナドの喉に当てたまま、リースを見る。


リースは僕達に近づき、口を開く。


「人族に捕らえられている1203人のエルフ全員の開放を約束してください。もちろん、エルフの国で奴隷になっている人族5051人は全て開放させます」


ん? 人族の奴隷の方が多いのか?


僕の視線に気づいたリースが補足を。


「バルス様、元々奴隷として売られていた人族を労働力にするために人族の盗賊から購入したようですね。もちろん、攫われて奴隷になっている人族も多くいると思いますよ。ちなみにエルフはエルフを奴隷にすることはありません」


元々奴隷だった人族か。確かに犯罪奴隷や借金奴隷は多いからね。


僕と同様に人族に奴隷にされているエルフの方が多いと、人族もエルフ族も思っていたみたいで、周りのほとんどの人達が困惑していた。





話しがまとまったようなので、僕が剣を収めて離れると、オグマが僕の方へと走ってきた。


そしてオグマは小声で……。


「オルス様。俺は何があってもオルス様の味方ですから。俺に出来ることは少ないかもしれませんが、何かあれば力になりますから」


オグマはそう言うと微笑み、仲間達の方へと走りさって行った。


あれ? なぜバレた?


声も出してないのに。








エルフの奴隷が全員開放されるとエメネの街は人族に返還するそうだ。


エルフの死者5人。


人族の死者371人。


エメネの街の戦いの犠牲が多かったのか、少なかったのかは分からないが、エルフ族と人族は同盟を結ぶことに。












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