17話 才能
「私はエルフのリース。よろしくね」
「ダンジョンの中で出会ったんだよ。一緒に旅をしたいようなんだけど、いいかな?」
「アルス。それよりもダンジョン攻略したの?」
「アルスくん。ダンジョン攻略はあのオルス様でも成し遂げたことのない偉業ですよ。どうなの?」
「え~っと……。ダンジョンを攻略するとダンジョンが消えるってこと? よく分からないけど、僕達はダンジョン脱出のアイテムを使用したんだよ」
僕達の周りには沢山の冒険者がいる。ダンジョンが消える前に強制的に脱出させられたらしい。
「秘密なの?」
「アルスくんにしか出来ませんよね。他の冒険者じゃ100階層にたどり着くのも無理ですよ」
「え~っと……。そうだ。リース、ダンジョンが消えた理由が分かるかな?」
「はい。ダンジョンマスターがいなくなったのが原因ですね」
「ダンジョンマスター? あの巨大魔木のこと?」
「いいえ、違いますよ。ダンジョンマスターとは神。もしくは神の眷族達のことですよ」
神って、リースのことか。リースがいなくなったからダンジョンが消えた。
「も~。ダンジョンの中に神様がいるはずないでしょ」
「そんな話は私も聞いたことがないです。……リースさんとはダンジョンの中で出会ったのですよね? 123階層よりも更に下層で」
「え? 私達よりも強いってこと?」
レイラとイリスに視線を向けられたリースが口を開く。
「私は弱いですよ。しかし魔那は大量に使えるのでイリスさんとレイラさんの足手まといにはならないと思いますよ」
「魔那? 魔力操作が出来るってこと?」
「そうですね。魔那を自分の魔力のように操作することも出来ますね」
ん? 魔那? 魔力とは違うのか?
「はじめまして、レイラです。リースさんは鑑定魔法が使えるのですね」
「あっ。私はイリスです。よろしくおねがいします」
「ふふふっ。よろしくおねがいします」
「リースさん。今の私達よりも本当に弱いというのなら、足手まといになりますよ。なので、試させて下さい」
レイラはそう言うと剣を構えた。
「え? え? え? アペプの剣? もしかして……アルスさんはアペプからも神力を奪い取ったの?」
「アペプ? アペプって? あれ? 神力ってことは神様?」
「神竜のことよ」
「黒竜さんのダンジョンで入手しましたよ。たぶん神竜様とは関係ないかと」
「大アリよ。怖いことするわね~。アペプが怒って向かって来たら誰も勝てないんですからね」
「神竜様がいるダンジョンじゃなくても神力は奪える?」
「はぁ~。アペプのいるダンジョンと7竜のいるダンジョンに行けば奪えると思うわよ。まあ、その神具があればだけど。でも……? イリスさんの力って……。ふふふっ。面白そうね」
急に笑い始めたリース。
「リース? 何か? イリスの力が面白い?」
「ふふふっ。私がイリスさんに魔那を送れば、イリスさんの力で、どこにでも逃げることが出来そうなのよね」
「逃げる? それって、イリスの特殊スキル危機脱出? 送れば……イリスの特殊スキルを強化して逃げるってこと?」
「ええ、そうよ。アペプからでも逃げることが出来そうな予感がするわね。ふふふっ。レイラさんの力も面白そうだし、面白いメンバーね」
予感か。神様の予感なら当たるのか。
「リースさん。話が終わったら、お願いします」
「ふふふっ。私はいつでも、いいわよ」
武器も持たないどころか、構えすら取らないリース。
「行きますよ」
レイラは剣を上段に構えたまま、リースに向かって走る。
リースは動かない。
リースに向かって振り下ろされる剣。
リースは剣を細い左腕で受ける。
斬れないリースの細い腕。血が出ているようには見えない。
驚いているレイラ。おそらく、寸止めしようとしていたのに当ててしまったので、驚いているのだろう。斬れてないことにもかな?
「どんどん斬り込んでいいわよ。でもアルスさんのように神力と魔力を融合させるのはダメだからね」
レイラはムッとした表情に。
舐められているとでも、思ったのだろうか。
レイラの斬撃を武具も持たずに受け続けるリース。
僕が同じことをすれば、きっと腕を斬り落とされているだろう。
どうしてリースの腕は……。
「リース。それはリースの特殊スキル?」
僕が聞くとリースは笑う。
「ふふふっ。腕を魔力で覆って、その覆った魔力を防御魔法で強化してるだけよ」
「魔力に魔法を?」
「ふふふっ。神力が使えれば更に更に強化出来るんだけどね。私は使えないからね。アルスさんには無理でも、イリスさんとレイラさんなら、出来るようになると思うわよ」
レイラも? 魔法使いのイリスなら出来るようになりそうだけど、レイラは僕と同じ剣士。 僕だけ才能がないってことなのか? あれ? リースは本当に僕より弱いのか?
「リースさん。私は魔法は使えないわよ」
「ふふふっ。そう思い込んでるだけよ。レイラさんには、ちゃんと魔法の才能がある。もちろん剣の才能もね」
「ねぇねぇ。私は? リースさんも魔法使いなんでしょ」
「ふふふっ。イリスさんなら、私よりも使いこなせるようになりますよ。あらっ? イリスさんの中には……2つの才能? 火属性の才能と……万能型の才能? 魔法使いの才能も? 3つの才能?」
イリスを笑いながら見ていたリースが困惑した表情に。
「私って多才なのね。アルスよりも、レイラさんよりも、そしてリースさんよりも強くなれるのね」
多才? 炎のダメージを受けないイリスには炎の才能はあるとは思ってたけど……万能型の才能?
「リースさんの鑑定魔法は人の才能まで見ることが出来るのですね。私の才能も見てくれませんか? 私は剣士ですが、剣の才能はありますか?」
「レイラさんは……普通? 剣も魔法もそれなりに? あれ? レイラさんにも? 何よ、これ。闘神?」
めちゃくちゃ驚いているリース。
「闘神? 普通?」
レイラも困惑しているようだ。
「こんなに凄い才能は見たことが……。まるでアペプに1人で挑んだあの人のよう」
「私の才能は凄いのですか?」
「ええ。凄すぎる。アルスさんもイリスさんもチートだけど、レイラさんまでチートだなんて。レイラさんなら、アペプにもダメージを負わせることの出来る剣士になれると思うわよ。私が足手まといにならないか、心配になって来ちゃったわよ」
「リース。僕の才能は?」
神のリースに凄い才能のあるイリスとレイラ。僕は少し不安になり、リースに聞いた。
「アルスさんは神力も使いこなせているんだから、凄い才能があるに決まってるでしょ」
おおっ。あるのか、僕にも。ずっと無能だって思ってきたけど、あったんだ。
「僕にどんな才能が?」
「そうね……? アルスさんの才能は……?」
「え~っと、リース?」
「ごめんなさい。分からないの。何かあって予感はするんだけど、何も見えないのよ」
「見えない? それって僕には才能がないってこと?」
「そうじゃない。見えないだけ。私の力ではアルスさんの才能まで見えないのよ」
神様のリースが見えないって……ないからじゃないよね?
僕は更に不安になってしまったよ。
「奴隷? エルフが……」
「ちょっと、リース。暴れださないでよ」
「リースさん。奴隷は物として扱われています。私が手を出すことは出来ませんよ」
エルフの奴隷の主人を睨むリース。止めようとするイリスとレイラ。さすがにリースがいきなり暴れたりはしないと思うけど。
「リース。エルフの奴隷を開放したいのなら、買えばいい。全員を救うのは無理でも売りに出されているエルフ達なら、お金で済むからね」
「裏切り者がいるようですね。今、助け出しても、また奴隷にされてしまいます。先にそちらを叩きましょう」
「裏切り者? エルフの盗賊のこと?」
「ギブスという名のエルフのようです。ギブスを倒し、エルフ達と共にこの街を開放します」
盗賊退治になりそうだね。ん? 街を開放? 開放? 開放って……。
盗賊退治なら、喜んで協力するのだが、街を開放となるとね。
僕は不安を感じながらも、ギブスを倒すために街の外へと向かった。
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