16話 神










下層だというのに魔物が弱い。


いや、弱く感じてるだけなのか。


神力を操れるようになった僕がそう感じるほど僕は強くなったのだろうか。


200階層のボス部屋の扉を開けて僕は中へとに入る。


中にいたのは巨大な木の魔物。巨大魔木っていうのかな?


初めて見る魔物だけど、怖さをまったく感じないね。


僕は剣を構えて巨大魔木に向かって走る。


先手必勝。巨大魔木が動き出す前に倒す。


って思っていたのだが、僕が接近する前に巨大魔木の沢山の枝が一斉に僕の方へと動き始めた。


僕は右へとジャンプし、僕を攻撃して来た枝の一本を素早く斬り落とす。


巨大魔木に近づき、幹に攻撃したいのだが、沢山の枝が邪魔で近づけない。


僕は面倒だが、左右に回避しながら、向かって来た枝を斬り落としていく。


ん? 矢? 


僕は沢山の枝の攻撃と一緒に飛んで来た矢を慌てて回避する。


巨大魔木の攻撃じゃない。他に魔物が。あれ? 魔物が矢を?


矢を僕に放って来た魔物を把握したいのだが、巨大魔木が大き過ぎて、ボス部屋の中がほとんど見えない。


僕が巨大魔木の攻撃を回避したタイミングでまた矢が飛んでくる。


僕は巨大魔木への攻撃を諦め、回避に専念。


巨大魔木と連携して矢を放ってくる魔物。


このままでは防戦一方になってしまうので、僕は神力を飛ばすことにした。


矢を放ってくる魔物は見えないが、矢が飛んで来た方向から予想すると、巨大魔木の右斜め後ろ。


僕は後ろへと下がりながら、剣に少しだけ神力と魔力を纏わせる。当たらない可能性の方が高いので、少しだけで十分。驚いて回避してくれれば、正体が見えるかも。


僕は矢の飛んで来る場所を確認するために、巨大魔木の攻撃を斜め後ろへとジャンプして回避。


すると、僕が回避したタイミングで矢が飛んでくるのが見えた。その矢を剣を上段に構えたまま、足を後ろに一歩だけ引いて、ぎりぎりで回避し、すぐに攻撃に移る。


僕は剣を振り下ろし、神魔力刃を飛ばす。神魔力刃は巨大魔木の枝を斬り落とし、飛んで行く。更に巨大魔木の幹を少しだけ斬り裂き、飛んで行く。


「きゃっ」


巨大魔木の後ろから、驚く声。女性らしき声。


人? 魔物じゃないのか? それとも、人の振りをした魔物? いや、それはないかな?


僕はハッタリをカマスことにした。


「次は当てますよ。死にたくなければ、これ以上僕に攻撃しないでくださいね」


「わ、分かったわよ。だから、殺さないで」


返答は期待していなかったのだが……。


これ以上邪魔して来ない? いや、そう言っただけかも。油断禁物だね。







僕は向かって来た巨大魔木の枝を斬り落としていく。


矢は飛んで来ない。


ある程度の神力を使えば神魔力刃で倒せそうなのだが、消費した神力を回復するには1日程度時間がかかるので、地道に巨大魔木の枝を斬り落としていく。







50本程斬り落とすと、巨大魔木の攻撃か止んだ。


って言うか、枝が残っていない。


僕は巨大魔木に近づき、巨大魔木の太い幹に神力と魔力を纏わせた剣で横斬り。


「うっ。私の魔木ちゃんが倒されるなんて」


巨大魔木が倒れると、巨大魔木の後ろにいた声の主の姿が見えた。


長い緑髪の女性。


綺麗な女性?


ん? エルフなのか?


綺麗な女性の耳は長くて尖っている。


「こんな場所でエルフが何を?」


「何をって。それはこっちのセリフよ。人族が私のダンジョンの最下層まで来れるなんて、ありえないでしょ。あなたは何者なのよ」


「私のダンジョン? もしかして、エルフの女王様?」


「違うわよ。これでも私は神よ。他の神達よりも弱いんだけど」


「え? 神様? この世界を作った神竜様の仲間ってことですか?」


「この世界を? 神竜じゃないわよ。この世界の神は」


「え? 違う? もしかして……あなたが?」


「違う違う。それより……あなたは人族なの? もしかして異世界から来た神?」


「僕は人ですよ。普通の」


「普通? 神力を使えるのは神か……。あなたはゼバス様の眷族なの?」


「いえ。そんな人は知りませんよ」


「ゼバス様を知らない? まあ、いいわ。私の名前はリース。エルフの神、リースよ。で? あなたは本当に人なの? 確かに……人族みたいだけど、……オルスって言うのね。神力を操れる人なんて聞いたことないわよ」


鑑定されたのか? どこまで、見られたんだろ? まあ、レベルがバレても問題ないか。


「僕は本当にただの人族ですよ。リース様はここで、邪神の侵攻に備えて力を蓄えているのですか?」


「邪神? 邪神って何?」


「え? 神竜様と7竜が戦ったって。他の神様も一緒に戦ったのでは?」


「それって、ゼバス様のこと?」


「ゼバス様?」


「ゼバス様がこの世界の神様よ。そして、あなた達を生み出したのが、ゼバス様」


「あれ? 邪神はいない?」


「もしかしてゼバス様が邪神ってことになってるの?」


「いえ。黒竜さんから聞いただけで」


「神竜の眷族からか。まあ、神竜の眷族からすると、邪神ってことになるのかもね。人族のオルスからみれば、邪神とは私達のことになるのよ。ゼバス様を倒した私達がね」


「この世界の神様を倒した? あれ? 攻めて来るのは……神様?」


「私達は他の世界の神だったの。ゼバス様の留守中に神竜がこの世界を支配したのよ。私は神竜に負けて、神竜に従っていたから、帰って来たゼバス様とは敵対することになったわ」


「敵対。神様と」


「警戒しなくてもいいわよ。私よりもオルスの方が強いから。私には。私達には神力がほとんど残ってないんだからね」


「神様なのに僕よりも弱い? 神力が……残ってない? あれ? 私達って……神竜も? あれ? ダンジョン下層で力を蓄えているんじゃ?」


「神竜も神力がほとんど残ってないはずよ。まあ、それでも、半端なく強いだろうけどね」


「え~っと……。それじゃあ、ダンジョン下層で何を? 力を蓄えているんじゃないのですか?」


「この世界で使った神力は戻らないのよ。ここにいるのは神力を維持するためね」


「ダンジョン下層にいた黒竜さんは力を蓄えてると」


「黒竜は理解してないのでしょうね。地上で生活するとどうなるのか。まあ、理解出来てなくてもダンジョン下層にいるのなら、本能で分かっているのかも知れないけどね」


「え~っと……意味が?」


「だから、神力は回復しないの。力を保つ方法は神力を使わないことだけなのよ」


「僕は神力を消費しても回復してますよ」


「へぇ~。それじゃあ、オルスには、この世界の神であるゼバス様の神力が備わっているのね」


「この世界の神様の神力は回復する?」


「ゼバス様と神竜達が再び戦えば、きっとまた神竜が勝利するでしょうけど、神竜達の神力は更に減ることになるのよ。だから、神竜達はゼバス様を封印しようとするはずなのよね」


「ゼバス様を封印するために、力を温存?」


「そうよ。ゼバス様を封印すれば、この世界は完全に神竜のものになるからね」


う~ん。本当のことなのか? リース様は普通のエルフに見えるけど、本当に神様? 


「リース様は……このまま、ここで、力を維持してゼバス様と戦うのですか?」


「うんん。私は弱いけど……私はゼバス様の味方をするわ。神竜がダンジョンに篭ってから長い月日が流れたから、神竜に従っていた他の神達の中にも私のようにゼバス様に味方する神や、中立を保つ神もいるでしょうね」


「神竜は強いのですよね?」


「強いわよ。今の私なら一撃で倒されるわね。オルスも強いけど、全く相手にならないわよ」


「まあ、僕は戦うつもりはないので問題ないですけど……」


「戦わない? ゼバス様の神力を持っているのに?」


「え~っと……戦いは数千年後ですよね。人族の寿命は100年もないので」


「数千年後? それも黒竜が?」


「はい」


「……私は……そろそろ何かが起こりそうな予感がしてるんだけど……」


え? 予感? 神様の予感って当たりそうで怖いんですけど……。関わりたくないから、そろそろ……。


「え~っと、お話ありがとうございました」


僕は頭を下げた。


後は巨大魔木が出した宝箱を回収してダンジョンを出るだけ。


「ふ~ん。まあ、いいわ。私も一緒に付いてく」


「え? ここにいないと神力を維持出来ないって」


「いても奪われたんじゃ意味ないでしょ」


「奪われた? 誰に?」


「はぁ~。オルスによ」


「僕?」


「白々しいわね」


「え~っと、意味が?」


「はぁ~。分かっていて、私の神力を奪って作り出した宝箱を開けてるんじゃないの?」


「え? これ? これは巨大魔木が出した宝箱ですよ?」


「本当に分かってないの? ダンジョン外の宝箱は魔物が吸収していた魔那から生まれるけど、ダンジョン内の宝箱やボス部屋の魔物から出現する宝箱はダンジョン下層に集まってくる濃い魔那から生まれるのは知ってる?」


「いえ。魔物を倒すと宝箱が出るってくらいしか」


「本当に知らないんだ。オルスが装備してる指輪は神竜が他の神達から神力を奪うために作り出した物よ。下層の濃い魔那と一緒に、下層にいる神の神力を消費させて宝箱を生み出す神具なのよね、それは」


「神具?」


「もういいわ。さあ、行きましょうか」


「え? 付いてくるって……僕に?」


「当たり前でしょ。さあ、行くわよ」


「リース様は……本当に神様ですか?」


「ふふふっ。そうね。違うってことにしましょうか」


「え? ことに?」


「私の名はリース。オルスの仲間のリースよ。リースって呼んでね」


「え?」


「ふふふっ。リースよ」


「リース……。え~っと……本当に僕についてくるってこと?」


「もちろんよ。オルスについて行けと誰かが言ってるような気がするのよ」


絶対に誰も言ってないよ。


「はぁ~。じゃあ、僕のことはオルスじゃなくて、アルスって呼んでください」


「アルス? え? 変化した? アルス?」



オルス

年齢70

レベル175

職業→剣士



アルス

年齢15

レベル120

職業→剣士



僕はリースの目の前でステータス調整を使用した。



「これが僕の特殊スキルなんだけど、秘密でお願いしますね」


「特殊スキル?」


あれ? 知らないのか? そういえば黒竜さんも知らなかったよね。


「人族には神様から特殊スキルが与えられました。たぶん、ゼバス様から。僕はこの特殊スキルがゼバス様の神力だと考えてます」


「ゼバス様の神力。オルスじゃなくて、アルスだったわね。アルス以外にも特殊スキルを持った人族が?」


「え~っと。僕以外にもと言うより、人族は特殊スキルを持って生まれて来ますよ」


「そんなに多くの神力を? いったいゼバス様は何のために? まあ、アルスについて行けば全てが分かりそうね」


「それは神様の予感ですか?」


「ふふふっ。私は普通のエルフよ。アルスの仲間のね」


「神様の予感は怖いんですけど。リースの目的はその予感を確かめるため?」


「さあ。まあ、私の……。他のエルフ達の現状と、眷族じゃなくて……ハイエルフ達の現状を知るのも目的の1つかな?」


リース自身も目的が分かってないのかな? リースの予感が当たれば……。はぁ~、神様のリースについて来るのはダメって言えないよね。










僕とリースはダンジョン脱出アイテムを使用する。




僕とリースがダンジョンを脱出すると、目の前にイリスとレイラが。


イリスとレイラにリースのことをなんて説明すればいいのか。


「アルス? ダンジョンを攻略したの?」


「アルスくん? ダンジョンボスをたった1人で?」


「え? ダンジョンが消えた?」


リースの説明をする前にダンジョンが消えてしまった説明からしないといけないらしい。


神様のリースが新たな仲間となり、僕達は何者かに導かれながら旅を続けて行くことになる。


イリスとレイラとリースと一緒の楽しい旅を。
















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