15話 チート











「魔法剣、大爆炎斬り」

 

イリスが現れた魔木の群れに向かって叫んだ。


火魔法、大爆炎を放つイリス。


イリスは走って炎の中に。


風魔法、突風を放ち、炎と一緒に魔木に剣で斬りかかるイリス。


他の魔木は炎の中のイリスに攻撃するのを躊躇っているのか、動きを止めている。





イリスは魔木を着実に1匹づつ倒して行く。


72階層だというのに、たった1人で魔物を倒し続けるイリス。


凄いことなのだが、凄いことなのだが、炎の中で戦い続けるイリスが心配でたまらない。


いくら魔法防御力の高い武具を装備しているとはいえ……なぜイリスは炎でダメージを負わないのか? 普通では考えられない。我慢している訳ではないようだが。


ん~。なぜ? なぜ、あの炎の中でダメージがない?


僕はイリスの装備している武具で試してみたのだが、僕が装備した場合はやはり炎のダメージを受けてしまった。レイラにも頼んで試してみたのだが、やはりダメージを。イリスだけが、ノーダメージ。イリスが魔法使いだから? 元々魔法防御が高い?


どうしても、それだけの理由ではないようなのだが。


イリスのことが分からない。




「隙きあり。疾風斬り、嵐」


僕はいきなり斬りかかって来たレイラの剣を横に飛んで回避する。そして、すぐに剣を構えて、レイラの追撃を受け止める。


ん~。今回は魔力操作がいまいちだね。なぜ何だろ? こうも毎回熟練度が違うと心配になるんだけど。


これでは強い魔物と遭遇した時にレイラに任せていいのか判断出来ない。レイラの魔力操作の熟練度がまだ低いと決めて戦える魔物を判断するしかない。


レイラのことが分からない。





「アルスって私よりも年下なのに、ベテラン冒険者の風格よね。でも、ウブだし、テレ屋だし、経験少ないよね~。アルスのことがよく分からないわ」


「ですね。師匠のように私を鍛えてくれてるのに、恥ずかしがり屋で心配症。こんなに強いのに、自信がなかったり、私もアルスくんのことが分からない」


あれ? 僕もそう思われてたのか。


僕が困惑していると、イリスが微笑む。


「私はアルスが好き。それだけ、分かってくれてればいいわ」


「ふふふっ。私もアルスくんのこと好きですよ。だから、もう少し自信持ってくれると、嬉しいかな」


「あ、ありがとう。僕もイリスが好き。僕もレイラが好き。まだまだイリスのこと、レイラのこと、知らないことばかりだけど、好きなんだ」


「私は強くなってアルスを守る。だから、私が強くなるまではアルスが守ってよね」


「うん。絶対に」


「ふふふっ。私はアルスくんと肩を並ぶられるくらい、強くなる。オルス様とだって。私はアルスくんの横をずっと一緒に歩いて行くからね。よろしく」


「うん。一緒に」


頼もしいイリスとレイラ。


僕はイリスを守り抜く。


僕はレイラを守り抜く。


イリスとレイラに支えられながら、ずっと一緒に。


僕はイリスとレイラの言葉で自信を手に入れた。


僕はレイラとレイラから貰った自信でさらなる力を手に入れたのかも知れない。












「私とまともに戦える魔物が全然出て来ないわ」


S級冒険者でも厳しいダンジョン下層で余裕のイリス。


「そろそろ私も戦闘に参加したいですね。どれくらい自分が強くなったのか、試してみたいです」


「僕はもっとじっくり練習してから戦いたいかな」


「アルスは何の練習をしてるの? 魔力操作は完璧なんでしょ?」


「そうよね。アルスくんは目を閉じて集中して気でも錬ってるみたいに感じてたけど」


「神力操作だよ。身体の中に存在する神力という強い力を操作出来るように熟練度を上げてるんだよ」


「神様の力が使えるってこと?」


「神力? それがアルスくんの特殊スキル?」


「僕にもよく分からないけど……特殊スキルが神力なのかも。だとするとイリスもレイラも使えるのかな」


「そうなの? 神力が使えれば更に強く成れるのね」


「凄いですね。アルスくんは私達の更に先を。どうやって鍛えるのですか?」


「魔力操作と似てるかな。もちろん同じじゃないけどね。レイラも魔力操作が完璧になれば出来るようになると思うよ」


「ねぇ、私は?」


「う~ん……。イリスにはまだ早すぎるかな? でもイリスの成長は僕の予想よりも早すぎるから、もしかしたら、僕より先に使いこなせるようになるかもね」


「ふん。アルスに私の実力を見せつけてやるわ。次の魔物も1人で倒してみせるんだから」


イリスはそう言うとボス部屋の扉を開けた。


「え? ドラゴン?」


イリスはそう言うと、後ろへと後ずさる。


「ドラゴンが出るなんて。イリスちゃん、3人で戦うわよ」


100階層のボス部屋の魔物はここでもドラゴンだった。


「う、うん」


巨大なドラゴンを見てイリスは震えている。


そして、イリスの前で剣を構えるレイラも顔が強張っている。あれでは身体に変な力が入ってまともに戦えないだろう。


仕方ない。2人の緊張が解けるまで僕が戦うか。


僕は剣に魔力と神力を纏わせた。


そしてドラゴンに向かって飛ばす。


「2人は見ていて。ドラゴンも普通の魔物と変わらないって所を僕が戦って見せるから」


僕の神力と魔力で出来た刃……神魔力刃? がドラゴンの硬い硬い鱗を斬り裂き……ドラゴンの首を落としてしまった。


「え? 倒したの? あれだけで……ドラゴンが……」


「アルスくん。今のが神力を使った刃? 神力刃?」


「え~っと……。ゴメン。思っていたより、攻撃力が高かったね。イリスとレイラにもドラゴンとの戦いの経験を積ませたかったんだけど……ゴメン。今のは魔力と神力を合わせて飛ばしたから、神魔力刃なのかな?」


「アルスは本気じゃなかったように感じたんだけど……」


「そうよね。アルスくんが本気を出せば……」


「う~ん、どうだろ? あれが限界なのか、もっと強い神魔力刃を飛ばせるのか、検証してないからね」


「アルス。私も覚えたい。私の魔法剣に神力が加われば。私も神力を使いこなさなければダメだって感じがするの」


「私も覚えたいな~。あれが出来れば本当に神様とだって戦えそう。アルスくんと行動するなら、覚えないとダメな気がするよ」


向上心の高いイリスとレイラ。


2人なら、出来る気がしないでもないのだが、教える僕が神力の使い方を知らないんじゃね。


「まずは僕が極めないとね。もちろん、僕に分かることは全て教えるよ。え~っと、神力はたぶん特殊スキルのこと。神様が与えてくれた特殊スキル=神力だと僕は思う。特殊スキルの力を引き出すのか、特殊スキルのエネルギーを神力として使うのか。まだまだ分からないんだけどね」


「特殊スキルが神力なんだ。私の特殊スキルでも強い神力が使えるのかな?」


不安そうなイリス。そういえば、僕はイリスの特殊スキルを知らない。


「イリスの特殊スキルが何か聞いてもいい?」


「ムッ。アルスは教えてくれるの?」


「え~っと……秘密かな?」


「はぁ~。まあ、私は聞かれなかったから言わなかっただけ。私の特殊スキルは危機脱出よ。万が一、私達の身に危険が迫ってきた時、私はこの特殊スキルがあるから、アルスはレイラさんを助けるのよ」


「そういえば、出会った時は木の上にいたね」


「うん。特殊スキルで助かったのよ」


「イリスちゃん。その特殊スキルは1人用なの?」


「分からないわ。アルスと一緒だとピンチにならないのよね」


「ふふふっ。確かにそうね」


「でしょ。もし特殊スキルの力を引き出せたとしても、アルスが守ってくれるから使う機会がないのよね」
















101階層からイリスとレイラが2人で魔物退治を。


S級冒険者でも危険な階層をなんなく進んで行くイリスとレイラ。


武具の等級が高いとはいえ、さすがに成長が早すぎるような。


イリスは何も考えてなさそうだけど、レイラはその点をどう思ってるんだろ?


僕は魔物を倒し終えたレイラに聞くことにした。


「レイラ。ここが123階層だって理解出来てるよね?」



「はい。S級冒険者でも辿り着けない階層だってことは理解出来てますよ。ふふふっ。アルスくんの嘘もですよ」


「え? 嘘?」


「空間収納の指輪を手に入れたことで確信出来ましたよ」


「え~っと……僕の嘘って?」


レイラは微笑みながら、空間収納の指輪の中から剣を取り戻した。


「この剣が私が購入したB級の剣です。そして、この剣がこのダンジョンで手に入れたA級の剣ですね。そして、この剣が、このダンジョンで手に入れたS級の剣です」


レイラはそう言うとS級の剣をイリスに渡した。


受け取ったイリスは首をかしげる。


「これがS級の剣? 私の剣に比べると、ショボいわね」


「ふふふっ。ですよね。理由は単純。イリスちゃんの剣がS級ではない。その他の装備も全て。そして私の剣はそれ以上の等級。おそらく神剣。ですよね」


「どうなの、アルス?」


「僕は父の形見だって言っただけだよね?」


「嘘ですよね。アルスくんがサポートしてくれてるとはいえ、私達がこんな下層まで来れるのだから、アルスくんが本気になれば、更に更に下層まで。当然レアな装備が手に入るわよね」


「まあ……そうかな」


「魔物が複数出て来ても、アルスくんが1匹だけ残して倒してくれる。あり得ないくらい凄い装備に、この神剣。格上の魔物だから私達のレベルはすぐに上がる。そして更にチートなのがイリスちゃん」


「え? 私?」


「誰がどう見てもチートでしょう」


「え? 私の可愛さ?」


「も~。炎よ。炎。誰が好き好んで攻撃魔法を受けに行くのよ。魔物もドン引きしてるわよ」


確かに。爆炎の中のイリスに攻撃しようとする魔物はほとんどいなかった。そう考えるとイリスが一番チートなのかも。


「そろそろイリスとレイラには厳しくなるだろうから、無理だと思ったら、このアイテムを使用して」


僕はイリスとレイラに1人用のダンジョン脱出アイテムを渡した。


「私はまだ進めるわよ」


「どうかしら。魔物の攻撃力も強いから、一撃でも受けると厳しいわよ。魔法で防御力を上げた方がいいけど、上げ続けるのは魔力が保たないだろうし。アルスくんのように魔力を完璧に操れれば、問題ないんだけど」


「私が足手まといってことね」


イリスが不機嫌そうな顔で僕を見つめてきた。


「僕が神力を操れるようになれば、3人で進めるようになると思うんだけど……。僕がどれくらい戦えるのか、よく分かってないから、僕の判断ミスで、イリスとレイラに万が一のことがあったら」


「私はそれでもアルスくんと一緒に進んで行きたい。ふふふっ。そんな顔しない。今回は私とイリスちゃんはここまでにするわね。いいわよね、イリスちゃん」


僕の表情で悟ってくれたレイラがイリスを説得してくれた。


「仕方ないはね。アルスも無理しちゃダメよ。いいわね」


「うん。無理しないよ。ちょっと、神力を試したら僕も脱出するから」


「ふふふっ。脱出アイテムを気軽に使えるなんて、チートですよね」


「このダンジョンだけで5つも出たんだから、レイラさんが言ってたより、レアじゃないんじゃないの?」


「ふふふっ。普通ならこんなに出ませんよ。アルスくんがチートだからですよ」


「レアなんだ。まあ、アルスはお金持ちだから、気にしなくていいわね。行きましょ、レイラさん」


「ふふふっ。そうよね。じゃあ、まあ後で。無理しないでくださいね」


「しないよ。安全第一だからね」


僕は笑顔でイリスとレイラを見送った。






さてと。神力を操れれば、どこまで降りれるかな。







アルス

年齢15

レベル118

職業→剣士



オルス

年齢70

レベル173

職業→剣士








僕は弱い弱い魔物を倒しながらダンジョンを進んで行く。











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