13話 エルフ









エメネの街には沢山の兵士が。


そして沢山の冒険者で賑わっていた。


「活気ある街ね。アルスは来たことがあるの?」


「僕は初めてかな。母から父がこの街に来たことがあるって聞いたことはあるけどね」


「オルス様がダークエルフを倒したのが、この街の東の森でしたよね」


「へぇ~。アルスの父親のオルスがダークエルフを倒したんだ~」


「はぁ~。僕の父はオルス様じゃないから、その勝手な設定は止めてくれないかな」


「ふふふっ。そういうことにしておきますね」


「レイラ。本当に違うんだからね」


「ふふふっ」


「アルスが本当のことを言わないのが悪いのよ。それよりも、あそこは何かしら?」


イリスの指差す方を見ると人が沢山集まっていた。


「あれは奴隷市の目玉商品を披露してるんだと思うよ。まあ、この街は人族領のもっとも東の街だから、他種族の奴隷じゃないかな?」


「他種族? 私は人族以外は見たことがないわ。アルス、行きましょ」


「そうね。私も初めてね。楽しみだわ」


楽しみか。僕は奴隷を見るのが苦手なんだよね。













僕達は人混みを掻き分け、前へと進む。


「アルス。エルフよ、エルフ」


「本当に耳がピンとしてるのね。でも……それ以外は私達と変わらないような……」


そうなんだよね。特にエルフは。それに亜人も人族と見た目はほどほど変わらない。種族が違うというだけで、攫って奴隷として売っても罪にはならない。むしろ、他種族を倒したとして評価される。僕にはまったく理解出来ないよ。奴隷として売られるあの子が重い罪を犯したというなら、まだ分かるんだけど。きっと何もしてないのに攫われたんだろうからね。


「アルスはエルフに興味ないの? あの子、かなり可愛いと思うわよ」


「ふふふっ。アルスくんのハーレムに加えますか?」


「はぁ~。イリスもレイラもこれだけは覚えていてね。他種族に捕まれば、あの子の立場になるってことをね」


「アルスくんは奴隷反対派なの?」


「あっ。そうなの……。それで落ち込んでたんだ」


「犯罪奴隷は仕方ないって思ってるんだけど、罪を犯してないのに奴隷にするのはね」


「でも、アルス。他種族も同じことを私達にしてるのよ。私達の国に略奪しに来てる他種族は沢山いるのが現実なんだからね」


「私達の国か。イリス。昔はこの場所が他種族の国で、人族が戦争で奪い取ったというなら、どうかな?」


「え? そうなの?」


「アルスくん。この街は昔から、人族の領土だよ。ペプクス様の教えでは、この世界は全て人族の物。他種族は異世界から、この世界を略奪しに来た侵略者達なんだってよ」


うん。僕もそれは習ったことがある。ペプクスは知らないけどね。はぁ~。僕は真実を知ってしまったんだよね。黒竜さんから教えてもらったから。この世界の神様が神竜。そして他種族の神様もいる。この世界は元々、他種族の物だったってね。


「アルス? レイラさんの話し聞いてたの? アルスの覚え間違いだったのよ。アルスに間違った知識を教えたのか、アルスをからかって、嘘を教えられたのかは分からないけどね」


間違った? 嘘? そうか、黒竜さんの話しが真実なのかは分からないのか。ペプクスさんが正しいのか、黒竜さんが正しいのか、それとも真実は別にあるのか。


「アルスくん。私の考えを押し付けるつもりはないのよ。アルスくんが奴隷反対なら、私も購入したり、捕えたりしないわよ」


「そうね。私もアルスが嫌なら、奴隷は購入しない。だから、そんな顔しないの」


僕は考え込んでいただけなのだが、イリスとレイラからは落ち込んでいたように見えたようだ。


「ありがとう、イリス、レイラ。でも本当に気をつけるんだよ。ここは人族の領土と他種族の領土の境界線の近くなんたからね」


「分かってるわ」


「気をつけますね」


「人からもだよ」


「え? 人攫いは重罪よ」


「アルスくん。人攫いをこの街でするメリットはないわよ」


僕は首を横に振る。


「人にも他種族にも、悪い人は沢山いるよね。その人達が組んでるとしたら、どうかな?」


「あっ。人が人を攫って他種族に売る。他種族が他種族を攫って人に売る」


「えっ。そうなの?」


「ああ。国の兵士が手を出しにくい境界線付近は盗賊が多いからね。大きな盗賊団が複数あると思うよ」


「あっ。それで……。まったく戦えそうにないエルフがなぜ捕まって奴隷にされたのか、不思議だったのよ。エルフの街や村まで行くなんて考えられないし」


「そうだったんだ」


「あくまでも可能性の1つだよ。あのエルフが冒険者や商人で、道に迷って、人族の領土に近づいてしまった可能性もあるからね」


「そっちの可能性の方が低そうね。盗賊。注意しないとね」


「盗賊退治も面白そうね。爆炎のイリスの伝説には大盗賊団殲滅は必須だからね」


「はぁ~。どうしてそうなるんだよ。僕達はダンジョンに来たんだろ。境界線付近は魔物も強いんだから、レベルの高い盗賊が沢山いるってことを忘れないでよ」


「ふふふっ。魔力刃使いのレイラの伝説にも大盗賊団殲滅は必須よね」


「はぁ~。レイラまでイリスの話に乗っからないでよ」


「冗談ですよ。私達の目的はダンジョンですからね」


「え? そ、そうよね」


「はぁ~。とりあえず、冒険者ギルドに行くからね」









僕は知らなかった。


僕達は知らなかった。


ペプクス様の導きで、このエメネの街に来たということを。


ペプクス様が僕達に何を求めていたかということを。















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