12話 東へ
「ダンジョンなら、東のエメネ街の側のダンジョンがいいと思うわね」
「私はダンジョンならどこでもいいから、選択はレイラさんに任せるわ」
「まあ、ギルド職員だったレイラが言うんだから、何かお得なダンジョンなんだよね」
イリスも当たり前でしょって顔をしていたのだが、レイラはキョトンとした表情に。
「え~っと……何となくかな?」
「えっ? レイラさん? わざわざ遠くのダンジョンに行くのに、感なの?」
「まあ。直感は大事だと思うけど……。レイラって、そういうタイプだった? もっと慎重なタイプだと思ってたよ」
「私も~。今まではギルド職員の顔だったってこと?」
「え? そうじゃないわよ。私は慎重派なんだけど……。何となく……。自分でも、よく分からないけど……そこが絶対にいいと思えるの」
「僕はそこでいいと思うよ」
「え~。高速馬車でも1ヶ月もかかるのよ。理由なしに行く距離じゃないわよ」
「そうだけど……」
「ん? 1ヶ月って? エメネの街の近くのダンジョンなら、1日もあれば着くはずだよね」
「アルスくん? エメネの街はずっとずっと東にある街だよ」
「そうよ。他の街と勘違いしてるんでしょ」
「え? 他の種族の国や街じゃなければ、不便な場所でも5日あれば辿り着けるよね?」
「な訳無いでしょ。まったくアルスは無知なんだから」
「まさか、アルスくん。転移魔法陣を使おうなんて考えてないわよね?」
「レイラさん、転移魔法陣って? 便利な移動手段があるの?」
「あれ? イリスは知らなかったのか。まあ、少し高いからね」
「少しじゃないでしょ。少しじゃ」
「そんなに高いの? でも便利なんでしょ?」
「はぁ~。無理なのよ。転移魔法陣を使用する優先順位は緊急性の高い案件。S級冒険者なら依頼で使用することもあるけど、普段はS級冒険者でも使用してないのよ」
「でもアルスはお金持ちだよ?」
「昔の使用料はどうだったのか分からないけど、今は無理。空間収納の指輪が増えたことでね」
「ん? 増えたのに? レイラ、空間収納の指輪が増えたのなら安くなるんじゃ?」
「ならないわよ。安全に大量の荷物を運べるのよ。転移者が小さな空間収納を持ち運ぶだけでもお金を稼げるのに人を運ぶとなると。分かるでしょ」
「よく分からないけど、アルスでも、払えないくらいなのね」
「ええ。アルスくんの体型でも、金貨千枚はするわね。私達3人だと金貨3千枚よ。払えないわよね」
「そんなの誰も払えないわよ。E級冒険者が生涯に稼ぐのが金貨300枚なのよ。その10倍だなんて」
3千枚? そんなに値上がりしてたのか。
転移の魔法陣は軍の建物の中にあった。
小さな男の子が特殊スキルで身体能力を上昇させ、沢山の指輪の入ったカバンを持ち上げ、転移の魔法陣の上に移動する。S級の魔石が転移の魔法陣にセットされると、転移の魔法陣からは強い光が溢れ出し、小さな男が光で見えなくなった。そして光が消えた時には小さな男の子はいなくなっていた。
「君達が次の使用者だね。魔石を自ら持ち込むそうだが、本当にいいのか? 魔石の力が足りなければ、その魔石を失い、転移も出来ない。魔石の力が強くて転移出来たとしても、魔石の力は無駄に全て消費されてしまうのだぞ」
「簡易測定では問題なく転移出来るといわれましたから」
「はぁ。それは無駄に必要以上に強い魔石を消費するということだぞ。貴重なS級の強い魔石を。そんなに大切な用事なのか? 国はいつでも強い魔石を高価な価格で買い取りしているのだからな」
「とても大事な用事なので、すみません」
「そうなのか。なら、仕方ない。使ってくれ」
僕達は転移魔法陣の上へと移動し、魔石を……。
「待った。待ってくれ」
僕が魔石をセットしようとすると、兵士さんから慌てて止められてしまった。
「え~っと。何か問題が?」
「その魔石を譲ってくれないか。もちろん、転移に必要な魔石も用意するし、費用も全額返却する」
「え~っと……僕達は転移出来るのなら、どちらでも構いませんが?」
「ちょっと、アルス。ただになるなら、そっちの方がいいでしょ」
「アルスくん。私も気になったんだけど、その魔石は何の魔物の魔石なの? ギルド職員だった私でも見たことがないわよ」
「ん? これは……。あっ。そうだ。冒険者をしていた父の形見です」
ドラゴンの魔石だったことを思い出した僕はいつもの言い訳を。
ジト目で僕を見つめるイリスとレイラ。横に兵士さんがいるので、余計なことを言わないイリスとレイラ。
僕は支払っていた転移魔法陣の使用料を返却され、転移魔法陣の上に移動。
「ありがとうございました。では良い旅を」
満足そうな兵士さんに見送られ、僕達はエメネの街へと転移した。
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